2006年12月10日(日)
#339 アイヴォリー・ジョー・ハンター「16 OF HIS GREATEST HITS」(KING KCD-605)
アイヴォリー・ジョー・ハンター、キング時代のベスト盤。アナログLPは58年リリース。
1914年テキサス生まれ、74年60才にて没。
シンガーにしてピアニスト、ソング・ライターでもあった彼の全盛期は40~50年代。
初期はブルース、ブギ系の楽曲が中心だったが、その美声を生かして、よりポピュラーなバラード系のナンバーで人気を獲得。カントリーの殿堂、グランド・オール・オプリーに出演するなど、人種の壁を越えた支持を勝ち取っていた。
写真を見るに、結構若いころからルックスはオジさんくさかったが、歌声のほうはなかなかの二枚目。ひたすら甘く、艶と華があった。当時はラジオ全盛時代だから、シンガーは声さえよければ無問題だったみたい(笑)。
キング在籍時に飛ばしたスマッシュ・ヒット「ゲス・フー」を中心に、代表的ヒット16曲にて構成されているのが本盤。
2曲(M1、12)を除き、すべて彼自身のオリジナル。コンポーザーとしても、一流であることがよくわかるだろう。
当時はSP盤期ということもあり、すべて3分前後のコンパクトな曲ばかりなのが、時代を感じさせますな。
楽曲の傾向はといえば、ピュアなブルースは全体の4割程度(M2、 M4、M6、M8、M11、M16など)で、他はバラード。ジャズィなもの、二拍三連のカントリーっぽいものも含め、小唄系の楽曲が多いので、ブルースのコーナーにあるからと意気込んで買って来た手合いは、肩すかしをくらうかもしれんなぁ。
でも、当時のトッププロシンガー、つまりレコードを出して人気のある歌手って、ベタなブルースしか歌わないひとのほうが珍しい。ブルース畑出身のひとでも、この手のバラードを数多く歌っているものなのだ。
そして、そういう芸の幅の広さにこそ、アイヴォリー・ジョー・ハンターらしさがあるのだと思う。
筆者的には、彼のソング・ライティング力もすごいと思うが、何より歌のうまさにひかれる。
彼の歌唱力は、ブルースという「地方区」だけでなく、ノンジャンルの「全国区」に出ても十分通用するレベルだと思う。同じ黒人シンガーでいえば、ジャズ畑出身のナット・キング・コールに匹敵するものがある。
単に声がいいというだけでなく、歌ごころがあるといいますか、表現力が素晴らしいのですよ。
アイヴォリー自身は、その後、時代の流れに取り残された格好で、その曲も存在もほとんど忘れられてしまったが、意外とその影響力は強いと思う。クルーナー系のジャズ・シンガーとか、ロッカ・バラードを歌うシンガーなど(いずれも、おもに白人)に、彼の「遺伝子」を嗅ぎ取ることが出来る。
メロディアスな楽曲、甘さの中にも深いニュアンスをたたえた歌唱。時代を越えて、リスナーのこころを捉えて放さない魅力が、彼のうたにはある。
B・B・キングのような、後続のブルースマンにも、その歌ごころはしっかりと引き継がれていると思う。
荒削りで粗雑な要素もブルースらしい一面ではあるが、一方、音楽的にも緻密できめのこまかい、そんなブルースも存在する。この一枚はその証明といえよう。
ぜひ、いい酒と一緒に、じっくりと聴きこんで欲しいものだ。
<独断評価>★★★☆