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音盤日誌「一日一枚」#279 シュガー・ブルー「セカンド・ギア」(キングレコード/SEVEN SEAS KICP 426)

2022-08-20 05:12:00 | Weblog

2005年8月21日(日)



#279 シュガー・ブルー「セカンド・ギア」(キングレコード/SEVEN SEAS KICP 426)

シュガー・ブルー、キングレコードでのセカンド・アルバム。94年リリース。シュガー・ブルー、牧野元昭ほかのプロデュース。

シュガー・ブルーといえば「ミス・ユー」、「ミス・ユー」といえばシュガー・ブルーである。49年NYC生まれの無名の黒人ハーピストを、一躍時代の寵児と変えたのは、このストーンズとの共演作にほかならない。

今ではハープ界の頂点に立った彼だが、ストーンズという目利きが存在しなかったら、いまだにNYCという街の片隅で地味に活動しているだけだったかもしれない。「出会い」というのは、いかに重要かってことやね。

さて、超絶技巧ハープで知られる彼の、もうひとつの顔、シンガーとしての側面も堪能出来るのが、この一枚。

「ハーピストの余技」というふうに片付けられないくらい、実に達者な歌を聴かせてくれる。

ちょっと低めで、落ち着いた雰囲気の声。これが派手なハープのプレイと好対照をなしていて、なんともシブい。

彼の音楽の原点は、もちろんブルースであるから、当然その手の曲もやっている。アルバム・トップの「リトル・レッド・ルースター」、それから「フーチー・クーチー・マン」の改作パロディともいうべき「グッチ・グッチ・マン」。

「ブルーパイン」ではブルース界の重鎮、パイントップ翁とも共演を果たしている。ルースでダルな歌声とハープが実にブルーズィな一曲である。

ラストの「お世辞と嘘」なんてのも、大木トオルあたりに通じるものがある、マイナー・ブルースだ。

でも、他の曲は非常にバラエティに富んでいる。ロックあり、ファンクあり、AOR系バラードあり、要するになんでもあり。

いずれの曲も、彼はハープだけでなく、ヴォーカルでも大活躍している。インスト、歌がちょうどいい比率でブレンドされている。

これが、この作品を平板・単調なものにせず、聴きやすい一枚にしているように思う。

というのは、ハープという楽器の、インストだけのアルバムというのは、正直最後まで聴き通すのがしんどいのである。いかに「完璧」を誇るシュガー・ブルーのテクニックをもってしても。

彼の歌は、彼のハープほどパーフェクトではないにせよ、十分一般リスナーをも説得するだけの水準に達している。むこうのミュージシャンは(ギタ-だけ、ハープだけみたいな)「一芸馬鹿」でなく、いくつものパートをこなせる人が多いやね。さすがだと思う。

その人間くさい歌を適宜織り交ぜることで、テクニック一辺倒の音楽になることから、まぬがれているのだと思う。

さて、肝心のシュガー・ブルーのハープ演奏についてなのだが、筆者個人としては、持てるテクニックをめいっぱい誇示したような印象の曲は、さほど好きになれない。たとえば「リトル・レッド・ルースター」のアンプリファイばりばりな音とか、聴いててトゥー・マッチな感じがする。

たしかにハープのすべての音をフルに駆使し、クロマチックなど複数種のハープも吹きこなし、最高の速度で吹いているのは「スゲエ」と思うのだが、それは「プロ」として出来て当たり前のことという気がする。そういうアクロバティックな演奏で度肝を抜くだけが「音楽」じゃない。

重要なのは、いかに総体として「いい音楽」を作り上げるかだ。

その意味で、変に技巧のアピールに走り過ぎず、バランスよくまとまっているのは、リフ中心のHR/HM調ナンバー「シー」、ロングトーンの響きが実に美しい「リッスン・ベイビー」、極力抑えめのプレイに終始した「ブルーパイン」あたりかな。「旋風」もトリッキーなプレイが続くわりには、あまり気にならないのは、派手なアレンジとうまく調和しているためか。

基本はブルース、その上にロックなどのモダンな味を加えて、極上の音料理を提供するシュガ-・ブルー。

大物アーティストとの客演でばかり注目されている彼だが、そのソロ盤もなかなかいけます。ぜひ一度ご賞味を。

<独断評価>★★★☆


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