2003年8月31日(日)
#183 ハンブル・パイ「ROCK ON」(Rebound/A&M 314 520 240-2)
ハンブル・パイ、A&Mからの二枚目、通算四枚目のアルバム。71年リリース。
最初のレーベル、イミディエイトの倒産にもめげず、新レーベルで心機一転、独自のハードロック路線を歩みだした彼らの「心意気」が感じられる一作。
以前に取り上げた「パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア」のひとつ前にあたる本作品は、ピーター・フランプトンがまだ在籍しており、いくつかの曲でもリード・ヴォーカルをとっている。
<筆者の私的ベスト4>
4位「BIG GEORGE」
ベースのグレッグ・リドリーの作品。ヴォーカルも彼が担当している。
「パフォーマンス」でも、一曲ではあるがリード・ヴォーカルをとっていたことでわかるように、リドリーにもなかなか歌心がある。
マリオット、フランプトンとはまた違った個性。中低音中心の力強い歌声は、けっこうイケていると思う。
彼のようなメンバーがいたことで、パイのコーラスが充実していたことは確かだろう。
曲のほうも、セカンド・ラインふうの後ノリのリズムが実にカッコいい。腰にビンビンきちゃいます。
ボビー・キーズのサックス・ソロもごキゲン。アメリカ深南部の香り、満載です。
3位「SHINE ON」
ピーター・フランプトンの作品。歌ももちろん、彼である。
のちにベストセラー・アルバム「フランプトン・カムズ・アライヴ」でも演奏されていたこの曲、ハードさとポップさが見事に共存した、キャッチ-なナンバー。オルガンの音色が実に華麗である。
パイでは、ヴォーカルの大半をマリオットにまかせていたフランプトンだったが、このあたりから次第に「歌うこと」に目覚めていったように思われるね。
「オレも、もっとフロントで歌いたい」、そう思うようになっていったのだ。
しかし、パイの主導権はマリオットがガッチリ握っていて、サウンド的にも彼の好むブラックなサウンドを指向しており、フランプトンの指向するポップ、ないしはフォーキーなものは軽視されていた。
結局、この音楽性の違いから、フランプトンはまもなく脱退することになる。
まあそれは、いたしかたないことだったろう。この「SHINE ON」や、同じく彼の歌う「THE LIGHT」を聴く限り、あまりにマリオットの作風とかけ離れているから。
これが同じバンドかいね?という印象すらある。
"異分子"がいなくなったパイはその後、ブラック路線をひた走ることになる。当然といえば、当然やね。
2位「ROLLIN' STONE」
その「ブラック路線」を代表するような一曲。アルバムのクレジットにはチェスター・バーネット(ハウリン・ウルフの本名)とあるのだが、はて、この曲、ウルフの作品だったっけ?
もちろん、違う。「ROLLIN' STONE」といえば、マディ・ウォーターズを代表する一曲だよねえ。
現に「パフォーマンス」では、ウォーターズ名義に訂正されているので、故意か単純ミスかはわからないけど、とにかく間違ったということであります。
とはいえ、マディ版オリジナルとは、歌詞も曲の構成も相当違う。スローな前半は原曲のおもむきに近いが、後半はアップテンポにチェンジ、コーラスも加えて、まるで別の曲みたい。
「ROLLIN' STONE」というリフレインだけ頂戴して、あとは自由に彼らのセンスで再構成した曲といったほうが、いいかも。
とにかく、一度聴いてみて欲しい。マディのオリジナルの「本質」は生かしつつも、サウンドは完全にパイ流ハイパー・ハード・ブルースに仕上がっている。
フランプトンのギターがいまひとつブルースになりきっていない感はあるが、マリオットの情感たっぷりのヴォーカルはさすがのものがある。そして彼の、うめき、すすり泣くようなハープもいい。
ここまでブルースの本質を肉体表現化した白人バンドは、そうざらにはないはず。
1位「STONE COLD FEVER」
メンバー四人の共作。とはいえ、ヴォーカル、ハープと全編で活躍するのはマリオットで、彼のカラーを前面に出した曲と言って間違いはないだろう。
モチーフ・歌詞からして、いかにもブルース的。そして、演奏はハード&へヴィーな中にも、ブルースの「匂い」をぷんぷんと放っている。
マリオットの気合い十分なシャウト、ハープ、ワイルドなギター、タイトなリズム、もうこれ以上何を望もうか。
「ロック」が「ポップス」と同意語になってしまい、その本来のアナーキーでアブナい魅力を失い、見事に「漂白」されてしまった今、ここまで真っ黒なサウンドを奏でるバンドはいない。
とにかく、この一曲、ロック史上に残る名演だと筆者は確信しとります。
本作、そして「パフォーマンス」の発表後、パイとフランプトンはそれぞれ別の道を歩み出し、おのおのの音楽性を更に極めていくことになる。
彼らの「岐路」ともいうべきアルバム「ROCK ON」。マリオットとフランプトン、それぞれの異なった音楽性が混在してはいるが、タイトル通り「ロック」なスピリットで貫かれた一作。
あのフランプトンでさえ、ヒゲなぞ生やして、ワイルドにキメております。実に男っぽい一枚、聴くっきゃないっしょ!
<独断評価>★★★★☆