NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#183 ハンブル・パイ「ROCK ON」(Rebound/A&M 314 520 240-2)

2022-05-16 05:24:00 | Weblog

2003年8月31日(日)



#183 ハンブル・パイ「ROCK ON」(Rebound/A&M 314 520 240-2

ハンブル・パイ、A&Mからの二枚目、通算四枚目のアルバム。71年リリース。

最初のレーベル、イミディエイトの倒産にもめげず、新レーベルで心機一転、独自のハードロック路線を歩みだした彼らの「心意気」が感じられる一作。

以前に取り上げた「パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア」のひとつ前にあたる本作品は、ピーター・フランプトンがまだ在籍しており、いくつかの曲でもリード・ヴォーカルをとっている。

<筆者の私的ベスト4>

4位「BIG GEORGE」

ベースのグレッグ・リドリーの作品。ヴォーカルも彼が担当している。

「パフォーマンス」でも、一曲ではあるがリード・ヴォーカルをとっていたことでわかるように、リドリーにもなかなか歌心がある。

マリオット、フランプトンとはまた違った個性。中低音中心の力強い歌声は、けっこうイケていると思う。

彼のようなメンバーがいたことで、パイのコーラスが充実していたことは確かだろう。

曲のほうも、セカンド・ラインふうの後ノリのリズムが実にカッコいい。腰にビンビンきちゃいます。

ボビー・キーズのサックス・ソロもごキゲン。アメリカ深南部の香り、満載です。

3位「SHINE ON」

ピーター・フランプトンの作品。歌ももちろん、彼である。

のちにベストセラー・アルバム「フランプトン・カムズ・アライヴ」でも演奏されていたこの曲、ハードさとポップさが見事に共存した、キャッチ-なナンバー。オルガンの音色が実に華麗である。

パイでは、ヴォーカルの大半をマリオットにまかせていたフランプトンだったが、このあたりから次第に「歌うこと」に目覚めていったように思われるね。

「オレも、もっとフロントで歌いたい」、そう思うようになっていったのだ。

しかし、パイの主導権はマリオットがガッチリ握っていて、サウンド的にも彼の好むブラックなサウンドを指向しており、フランプトンの指向するポップ、ないしはフォーキーなものは軽視されていた。

結局、この音楽性の違いから、フランプトンはまもなく脱退することになる。

まあそれは、いたしかたないことだったろう。この「SHINE ON」や、同じく彼の歌う「THE LIGHT」を聴く限り、あまりにマリオットの作風とかけ離れているから。

これが同じバンドかいね?という印象すらある。

"異分子"がいなくなったパイはその後、ブラック路線をひた走ることになる。当然といえば、当然やね。

2位「ROLLIN' STONE」

その「ブラック路線」を代表するような一曲。アルバムのクレジットにはチェスター・バーネット(ハウリン・ウルフの本名)とあるのだが、はて、この曲、ウルフの作品だったっけ?

もちろん、違う。「ROLLIN' STONE」といえば、マディ・ウォーターズを代表する一曲だよねえ。

現に「パフォーマンス」では、ウォーターズ名義に訂正されているので、故意か単純ミスかはわからないけど、とにかく間違ったということであります。

とはいえ、マディ版オリジナルとは、歌詞も曲の構成も相当違う。スローな前半は原曲のおもむきに近いが、後半はアップテンポにチェンジ、コーラスも加えて、まるで別の曲みたい。

「ROLLIN' STONE」というリフレインだけ頂戴して、あとは自由に彼らのセンスで再構成した曲といったほうが、いいかも。

とにかく、一度聴いてみて欲しい。マディのオリジナルの「本質」は生かしつつも、サウンドは完全にパイ流ハイパー・ハード・ブルースに仕上がっている。

フランプトンのギターがいまひとつブルースになりきっていない感はあるが、マリオットの情感たっぷりのヴォーカルはさすがのものがある。そして彼の、うめき、すすり泣くようなハープもいい。

ここまでブルースの本質を肉体表現化した白人バンドは、そうざらにはないはず。

1位「STONE COLD FEVER」

メンバー四人の共作。とはいえ、ヴォーカル、ハープと全編で活躍するのはマリオットで、彼のカラーを前面に出した曲と言って間違いはないだろう。

モチーフ・歌詞からして、いかにもブルース的。そして、演奏はハード&へヴィーな中にも、ブルースの「匂い」をぷんぷんと放っている。

マリオットの気合い十分なシャウト、ハープ、ワイルドなギター、タイトなリズム、もうこれ以上何を望もうか。

「ロック」が「ポップス」と同意語になってしまい、その本来のアナーキーでアブナい魅力を失い、見事に「漂白」されてしまった今、ここまで真っ黒なサウンドを奏でるバンドはいない。

とにかく、この一曲、ロック史上に残る名演だと筆者は確信しとります。

本作、そして「パフォーマンス」の発表後、パイとフランプトンはそれぞれ別の道を歩み出し、おのおのの音楽性を更に極めていくことになる。

彼らの「岐路」ともいうべきアルバム「ROCK ON」。マリオットとフランプトン、それぞれの異なった音楽性が混在してはいるが、タイトル通り「ロック」なスピリットで貫かれた一作。

あのフランプトンでさえ、ヒゲなぞ生やして、ワイルドにキメております。実に男っぽい一枚、聴くっきゃないっしょ!

<独断評価>★★★★☆


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