父の日記 昭和17年

昭和17年の日記 
ようやく召集解除 神武屯を発ち東京へ向う

昭和16年12月12日

2004-12-12 | 昭和 (父の日記 昭和16年) 
開戦5日目 
敵前上陸のための訓練をしてるが
あまりうまくいかない場面も



12日 (金)晴れ 波静か

今日は風もなく海は穏やかだ。午前に我々の上陸
演習がある。中隊長の指示が的確でないので
やりにくゝて困る。大体本部から特大発が来る
からそれに依って演習すると言ふのでそれを待ってゐれ
ば、大体本部からは来ないからうちの船の大発で
やると言ふ。火砲も卸すと言ふのでそのつもりでゐ
れば、大発では危険だから今日はやらないと言ふ。
指示が少しも要領を得ない。此方で細く質
問すると自分で分らなくなってしまって嫌な顔をする。
全く処置ない。実際上陸する際に特大発が来る
のかどうか分らなくて今日の演習が実地に適用
出来はしない。こんな中隊長と一緒に戦争するのかと
思ふとがっかりする。今更言っても仕方かないが。
十時頃から実施。火砲はやめて牽引車をやる。大発
に積んで岸へ目がけて一散に走る。砂浜迄突っ込んで
此処で卸下の研究。十五榴はとても砂浜へ何の準備
なしではとても卸下出来さうもない。実際には揚陸
作業隊が工事をして呉れるんだらうとは思ふが。
中隊長はそんな事は分らぬで土嚢を作ってやるとか
何とかしやうとか心配ばかりしてゐる。そんな事より
R本部へ行ってもっとはっきり連絡して来ればいいんだ。
上陸の時に工兵が揚陸工事をして呉れるのか呉
れないのか。その位の事が連絡出来ないでは仕様
がない。R本部では既に分ってゐる筈だ。十一時
頃終って帰る。中隊長一人海の中へ飛び込んで
腰から下を濡らしている。濡らしたからとて何も効果
はなかったんだが。あとはRst長佐藤中尉
が○車を一台積んで行ったがやはり上陸はせず
に帰った来たやうだ。
午后は山砲と歩兵が又演習に行った。
我々は午后は何もする事なし。
今日のニュースではフィリッピンに又敵前上陸。既に
南北二方面から上陸してゐるのに又ルソン島の北部か
ら上陸したと報じてゐる。今朝上陸したらしい。我々の上陸
は二十二日の予定だが随分おそい。これではもう機を失し
てしまふ。我々香洋丸乗組の歩兵其の他切歯、抱腋*
するが仕方がない。
此の船に乗組のISAの隊長の貧相な事。木村大佐
佐藤中尉も全く可哀想な将校だ。山砲の中隊長
山本中尉にはナメラれて小さくなってゐるしサロンに木村
大尉一人で居られず、佐藤中尉下れ下りるんなら俺
も下りるなんて、それで大尉かと言ひたくなる。かげでは
ペチャクチャ威張ってゐて出る所へ出れば一言も自分の
意見が述べられない。全く此う言ふ人の部下はかなはぬ。
歩兵の中隊長4/1i内藤中尉は特別志願の将校
ださうだがおちつきがあって常識があって如何にも中隊
長らしい。少しもチョコチョコした所はないし、おちつきがあ
る。隊長たる以上は此の位でなくてはいけないのだ。其処
へ行くと山砲の中隊長5/48BA山本中尉も少尉
候補者の出だけあって木村大尉と同じやうな性質だ。部下
に与へる命令も命令だか相談だか分らぬやうな事を言っ
てゐる。あれで金鵄勲章を貰ったと言ふのだからおそれ
いる。将校少しとも隊長たるものはもっと世間の分った
常識円満な人間であって欲しい。時勢が時勢だか
ら将校のインフレで止むを得ないのだらう。
昨日の命令で郵便が出せる事になる。切手を貼布して
出すのだと言ふ。官製はがきを二枚ばかり貰って家へ一枚
だけ便りを書く。出す日は十五日。
夜又中隊長の集合命令に依り将校集合する。今日丸山
少尉がR本部へ連絡に行って来て情報其の他の会報だ。
我々8Aの上陸の実施等について話がある。細部は不明。
R本部への連絡は中隊長自ら行けばいいのに丸山少尉等を
やる。今夜の会報にしても古江准尉に気兼をしてゐて
上陸順序を戦砲隊建制順序にやると言ふ事が言へな
くて、僕の口から言はせやうとする。こんな事はきまりきった事
ではないか。一、三分隊を先に上陸したら指揮系統はど
うなるんだ。残った二、四分隊の指揮はどうなるんだ。古江
准尉の小隊をあとから上陸させると言ふ事を直接古
江准尉に言命することが出来なくて僕の顔をみて
上陸順序はどうしやうかなあと言ふ。僕の口から言はせ
たいのだ。全く汚いやり方だ。中隊長のくせに中隊の
指揮官のくせに決りきった事を的確に命ぜられない
中隊長、責任を回避しやうとする隊長。部下に責任を
おしつけやうとする隊長。決断力がなくて部下
に相談する隊長。こんな隊長と一緒に戦争
する我々は全く嫌だ。一緒にしねるか。
今夜おそくのニュースで今度の日米英戦争の名称
を支那事変を含めて大東亜戦争と称する事になっ
たと放送した。

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(○や*は漢字が読み取れない 不確かなどです)


平成16年12月12日

中隊長を随分こき下ろしている。
「一緒に死ねるか」って 死ぬつもりなのか。
戦争中なのだ。