遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

鳳凰がもたらしたもの~小樽天満宮

2020-12-29 22:22:25 | 100物語【パワースポット物語】
【遊月100物語 その7】小樽天満宮

担任は「悪いことは言わないからやめておけ」と何度も言ってくる。
でも内申点がギリギリってことは、受かる可能性があるってことだ。

「そのギリギリに懸けて、もしダメだったらどうする? 
中学卒業して浪人するなんて、かなり大変だぞ。悪い事は言わない。今更志望校を変えるのはやめた方がいい」


担任にそう言われると途端に不安になる。相手は受験生を捌くプロだ。どれくらいのレベルでどこに入るだろうと予測するのはお手の物だろう。
それに、言われるまでもなく、高校に入る前に浪人になるのは確かにきついと僕だって思っている。

気持ちがグラグラ揺らぎだしていたら、
「浪人することの、何がダメなんですか」
三者面談中の母親が、突然怒った声でそう言った。

「長い人生の中でたった1年ですよ。本当にやりたい事をしなかったと後悔して何十年も生きていくよりは、やりたいことをやって1年浪人するほうがずっとマシだと私は思いますけど」
母親の勢いに押されて担任は言葉を返せなかった。

「それに受かる可能性だってあるのだから、最悪のことだけを想像して、未来をつぶすようなことは言わないでほしいんですけど」
自分より年上であろう教師に対してひるまずに母親は続けた。

「私が高校を受けようとした時も先生はそんなことを言いました。
無理して進学校に行ってついていけなくて辛い思いするより、身の丈にあった学校に行ってトップ狙った方がいいって。

私は受かる自信があったし、頑張って行きたい高校を受けたかったけど、結局親にも反対されて、行きたいわけじゃなかった高校に三年通いました。

もちろん友達もできたし、いい先生もたくさんいたし、今となっては母校のことは大好きです。
でも今でも時々思うんです。あの時頑張って受けていたら、違う人生だったのかなって」

熱く語り出した母親の言葉を、教師らしい態度で最後まで聞いて担任は答える。
「お気持ちはわかります。
でもね、実際ギリギリなんです。もちろん受験に絶対はないけど、この点数で万が一当日調子が悪かったら、落ちてしまうんですよ。

受験はたった1度のことです。そこで冒険なんかできません。
まだまだ経験が少ない彼の代わりに、我々大人が彼のリスクを減らす道を考えるべきではないですか」

僕は息子だけど、母親より担任のほうがまともなことを言っている気がした。
「リスクを減らす道を選ぶより、たとえリスクが高くても、望んだものを選ぶ大人になって欲しいと思っていますから。
だって、人生は一度きりなんですよ、そしてこれは、彼の人生なんです」
母親も負けていなかった。

確かに母親はいつもそんなことを言っているし、そんな生き方をしているから、時々父親ともケンカになってはいるけれど。

「素敵なお考えですね。ですが、理想だけで生きていくには厳しい社会の現実を教えてあげなくては」
担任が説得しようとあれこれいう言葉に耳を貸さず、母親は立ち上がると
「お言葉ですけど先生、わたくし、この子が絶対受かるって信じてますから」
と言い切った。

「もちろん私だって登輝くんには受かって欲しいですよ、ですが… 」
担任はなんとか説得しようとする。

「この子が受けたいと思っている。そして、受かることはけして不可能ではない。なのにその未来を母親が信じない理由がどこにありますか? 」
「えっと、」
言葉に詰まる担任に、

「信じたいでも、信じてあげようでもありません。受かってほしいでもありません。
私はこの子は受かると信じているんです。
この子は、受かるん、です。
私は、そう、信じて、いるん、です! 」
と語調を強めて言い切ると、失礼しますと頭を下げ、登輝、帰るわよと、ドアに向かう。

母親がそんな強い態度に出るとは思っていなかったので、口を開けたままやり取りを見ていた僕は、慌てて母親の後をついていく。

ドアを閉めるとき振り返った教室で担任は、困った顔をして僕を見ていた。
その困惑した目を見たときに感じたのだ。
担任は僕が受かると『信じて』いないんだって。
だけど母親は僕が受かると『信じて』いるんだって。

結果はわからないけど、信じてくれている母親を、僕も信じいと思った。
担任に一礼してドアを静かに閉めると、廊下を早歩きしながら母親の後を追った。

学校の外に出ると、根雪が周囲の風景全てを白く光らせていた。
道路も塀も電信柱も、みんな雪に反射して、世界が白く見える。
天気がいいのに気温が低く、底冷えするような雪道をテクテクと歩いていく。

校門から出て坂道を少し下ると、すぐ横に天満宮が見えてくる。
母親が振り返り、学問の神様がいるからここに寄って行こうと言った。
いや結局神様に頼るんかい!と心の中で叫んだが、本当は僕だって頼りたい気分だった。

鳥居から続く長い坂を上りきり、古くて小さなお社にたどり着く。
お社の屋根のところに木の鳥が掘られていた。
「鶴? 」
と指さすと、
「あれは鳳凰」と母親が答える。



「ほうおうって何? 」
と聞き返すと、
「ダンブルドア先生の鳥みたいなもので、幸せを運んできてくれるの」

母親は時々おかしな例えをする。ダンブルドアの鳥とは絶対違うと思ったけど、とりあえず幸せを運んできてくれそうな高貴な顔をした鳥だった。
学校の近くにそんなパワーのある鳥がいたのだと、ありがたい気持ちになる。

『ほうおうさん、どうか僕があの高校に受かる幸運を運んできてください』

お参りして、母親と社務所に入る。
手がかじかんでいたせいで、いつもより下手くそな字になったけど、絵馬に願いを書いた。青いお守りも買った。

いつも身につけるといいと宮司さんが教えてくれたので、お守りを制服の胸ポケットに入れた。
神様がいつもそばにいてくれるみたいで、気のせいかもしれないけど、少しだけ力が湧いてきた。

鳥居までの坂道を下りながら母親が言った。
「高校のことだけじゃない。この先あなたが何かをしたいと願うなら、世界中の全ての人が無理だと言っても、お母さんはできるって信じるよ」

それは嘘じゃないとわかる。
母親はおかしな例え話をするけれど、嘘をつくのは嫌いな人だから。

「結果がどうなるかなんて考えなくていい。
受かりたいと願うなら、受かるまで頑張ればいい。
結果は神様が決めること。
運とか努力とかすべて総合して、完璧に結果が出てくるだけだから。

もし頑張ってダメだったとしても、あなたがやったことが間違っていた証明にはならない。

そこじゃない別の場所に、あなたの出会うべき人がいるってことで、あなたはあなたが行くべき場所に、必ず行けるようにできているの。
だから心配しなくても大丈夫。

今は受かりたい高校に受かるよう、やることをやるだけよ」

母親の話を黙って聞いた。分かるようなよく分からないような内容だったけど、でも少しだけ心が軽くなった。

もし受からなかったとしても、それは僕が行くべき場所じゃなかっただけで、僕は必ず行くべき場所に行けるのなら、安心して頑張れる。
今はただ、受かるためにやるべきことをやるだだと分かったから。

鳥居から外に出ると、何度も聞いた話を母親がまた伝えてきた。
「知ってる?
あの奥に、オリンピックのメダリストが住んでいたのよ」
と、お社の奥にある住宅地を指さす。

「お母さんより少し年上なんだけど、私やあなたの中学の先輩なの」
「うん、知ってる。銀メダル取ったんでしょ」
「そうよ、世界で2位になったのよ。その人があそこに住んでいたの。
その人が中学の時、スキーばっかりしてちっとも勉強しないから、勉強しろって先生にいつも怒られていたんだって。
だけど、その度にその人は、自分はオリンピックでメダルを取るから勉強はいいんだって言い返したんだって。
先生はそんな夢みたいなこと言ってないで、現実を見ろって怒ったんだって」

何度も聞いた話だけど、事実だからすごいなって思う。
「でもね、その人は一生懸命練習して、本当にオリンピックで銀メダルを取ったのよ」
「知ってる。レークなんとかって大会でしょ」
僕が生まれるはるか前の話だった。何度聞いても場所の名前が覚えられない。

「そうよ。そしてね、その担任だった先生は、私の中学時代の教頭先生でね、朝礼でその話をしてくれたの。

彼は特殊な例で、本当に驚くほど努力したから銀メダルを取れたんだ。皆さんはちゃんと勉強しなさいって」
そう言って母親はくすくす笑った。

「でも私は、そんな身近に大きな夢を叶えた人がいるんだってワクワクしたの。
先生に勉強しろって言われたって、言うことを聞かずに自分のやりたいことを頑張って、オリンピックで銀メダル取るなんて凄くない? 
あなただって頑張れば金メダルも取れるかもしれないわ」

「いや、僕別にオリンピックとか全く考えてないから。ていうか、運動もしていないし」

「例えばの話よ。
それにねオリンピックでメダル取ることを考えたら、受かる可能性のある受験で合格することなんて、全然たいしたことないのよ」
そう言って母親は楽しそうに笑った。

何か違うと思ったけど、母親なりの励ましなんだと思った。

そんな去年のクリスマスの頃を思い出しながら、やっと繋がったネットで確認した結果を報告するために、僕はスマホを手に取った。

仕事中だからもう少し後で知るんだろうけど、とりあえず誰よりも最初にLINEをしなくてはいけない気がして、まずは母親にメッセージを送る。

受かったよ!!

これを読んだ母親は、きっと笑いながら泣くだろうなと思った。



この物語に出てくるメダリストのお話は実話です(ほんとうに教頭先生によく聞かされていました笑)

あの天満宮に行くと、その裏に住んでいたその方のことをつい思い出してしまうので書きました(*^_^*)

長男と次男が通った高校の卒業式は、式そのものはあっという間に終わらせて、生徒たち自身で考えたのパフォーマンスを繰り広げるのが伝統でした。

長男の卒業式の時、生徒たちが創作した寸劇の後で、生徒会長がみんなの前に出てきて、感謝したい人がいるのでここに呼んでもいいですか?と呼びかけ、母親を舞台にあげました。

母親に向けた感謝状には、内申点が足りず誰もが無理だと言ったのに、たった1人あなただけが絶対受かると信じて、背中を押し続けてくれたから、この高校に受かることができた。
そして素晴らしい体験をすることができた。
憧れのこの高校に受かったのも、今日卒業することが出来るのも、みんなあなたのおかげです。ありがとう、といった内容の感謝状を読み上げました。

心を打たれて教師も父母もみんな涙しました。
そのお母さんも恥ずかしそうにしながらも泣いていました。

すべての人が反対したのに信じて、息子の背中を押したそのお母さんの強さを、心から尊敬しました。

そして、受かるのが難しいと言われていたのに、諦めずに頑張って受かり、生徒会長にまでなり、最高の高校時代を送ることができたことを、母親のおかげだと、みんなの前で堂々と感謝しているその子のことも本当に感動しました。

きっと彼は何度も何度も、あの時諦めずに受けてよかったと思ったことでしょう。

その日私は、周りがなんて言おうとも、自分の子供が本当にやりたいと言ったことならば、命がけで信じよう、そんな母親になろうと誓いました。

物語の中で神社で母親が息子に言った言葉は、受験の時に私が本当に3人の子供たちに言ってきた言葉です。

受かるかどうかが大事なんじゃない。
行きたい場所に行こうと努力することが大事なんだ。

これから受験が本番になりますが、本人もそして家族も精神的にいろいろしんどいでしょうけど、そんな時は神頼みで乗り切りましょう。

ちなみに私は今年の初めに、札幌中の地下鉄で行ける天満宮は全部行きました(おかげでお礼参りが大変でした笑)

そんな娘は、将来につながる勉強ができるサークルに入り、コツコツ夢を叶え始めています(*^_^*)

これを読んだ全ての人にの周りに素晴らしい桜が咲きますように。



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