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「脳死」臓器移植に同意したら、救急医療現場で何が起こるのか~NNNドキュメントを観て

2010-11-13 | 脳死臓器移植問題
NNNドキュメントで、「臓器提供 家族が決断するとき」(10/31)と「レシピエント 脳死移植医と患者の540日」(11/7)が放送されました。今年7月の改正臓器移植法施行以降、臓器提供は急激に増え始め、そのペースは年間に換算すると約90例といい、施行前と比べると7~8倍になっているそうです。「臓器提供 家族が決断するとき」を中心に紹介します。
 この番組は、家族が移植に同意したら救急医療の現場で何が起こるのかを、移植コーディネーターの姿を追うことで、その一端を明らかにしています。救命医療と移植医療の矛盾を突く内容になっていました。しかし、番組は「脳死」臓器移植への理解を広げたいという関心が基本にあるように思えました。
 臓器提供を受け入れるのは、脳内出血で倒れ「脳死」状態となった40代の男性の家族(両親)です。「脳死」臓器提供者が出そうだという情報が日本臓器移植ネットワークに入ると、移植コーディネーターが、病院に飛びます。父親は「あまり人のお役にたてなかった人生でしたから、最期くらいは・・・」と話し、母親は泣いています。
 家族が臓器提供に同意した翌日には移植医師チームが病院に移植コーディネーターとともに到着します。摘出チームの医師団は、男性の容体の説明を受け、すぐさま臓器状態のチェックにはいります。使えそうな臓器は何か、臓器は健康かを検査されます。検査した医師は言います、「動脈硬化も大丈夫です」。移植コーディネーターが家族に説明します「腎臓に結石もありません」「大きさや形も大丈夫です」。そして移植コーディネーターは「そのとき」が来るまで近くのホテルで待機します。「最後まで救命に全力を上げます」という言葉が空虚に響きます。そして今か今かと待ち続け、ついに4日後の未明、容体が急変したという情報が入り病院に急行します。4日間も脳死判定ができる時を待ち続けるのです。救命治療ではなく、いかに良好な状態に臓器を保つかのが最大の関心事だったことが伺えます。
コーディネーターは何度も何度も「移植をやめてもいいんですよ」と家族に確認します。しかし、既に移植医が何人も揃い、移植コーディネーターもホテルで何日も待機し、その瞬間を今か今かと待ちわびているときに、家族が「やっぱりやめます」と言えるのかと、たんへんな重圧を感じます。
 臨終を迎え、家族が最後の別れをする暇もなく、心停止の5分後には臓器をとる手術室に運ばれます。コーディネーターは母親に「息子さんはもう一度頑張られますからね」といいます。次々と臓器がとられ、クーラーボックスに入れられ氷が詰められます。医師は「いただきます」とい言って、取り出した臓器をビニール袋に入れていきます。
 救急医が「私たちは助けるということに全力を注いでいるから次のステップまでは頭がまわらない、移植コーディネーターにいてほしい」と苦笑しながら言います。
 男性の妻らしい人が一瞬でてきます。父親は男性の人生について、「何の役にも立たなかった」と言いましたが、男性は結婚して家族もいて会社勤めもしていたことがわかります。この妻の気持ちは番組では出ていませんでした。結婚もしておらず、仕事もしていない人だったらますます「何の役にもたたない」人生だったのか。しかし両親の涙と苦悩が、両親にとって男性がかけがえのない息子であったことを語っていました。家族であろうと他人の人生の価値を勝手にきめてしまって、「こいつの人生は価値が無かった、だから臓器移植くらいしか人様の役にたてない」というようなことは決してありえません。しかし番組からは、まさに家族の同意で臓器移植が可能というのはそういうことであるということを浮かび上がらせていました。
 移植コーディネーターが後日花束をもってドナーの家族を訪ねます。なぜか、厚生労働大臣から感謝状がとどきます。
 この番組には悪人が登場しないし、人権を無視した露骨な言葉もありません。あくまで患者と家族に寄り添うように見えるコーディネーターと善意の家族たちです。移植コーディネーターの役割は、いかに家族が気持ちよく臓器提供をできるようにケアするかだと思いました。だからこそ、危険だと思いました。

 「レシピエント 脳死移植医と患者の540日」は臓器提供を受ける側の苦悩を描いていました。移植を望みながらも、臓器を移植されるということは誰かの死を待つことだとという葛藤に悩んでいます。
 ここでは執刀した移植医である杉谷教授の言葉を引用しておわっておきます。
 「(「脳死」で臓器を摘出する患者は)心臓が動いてますから、ピンクで、柔らかくて、温かくて・・・。処置をしたあと、(摘出)手術をしたあとで、白くなって、冷たくなって、固くなって・・・。そういうことを実際に体験してみると、今やったことはどうだったんだろうと思いながら・・・。もしそれが自分の子どもだったら、プロとして仕事をしなければならないと言ったら、そこで平常心を失っちゃう、もう(摘出)手術というものをできないと思うんですよね。摘出手術に加わるみんな、執刀する前に、黙祷しますよね。そして迷いを、雑念をそこですっと捨てて、この人のために、待ってる人のために、とみんな思いを新たにする瞬間ですね。」

(ハンマー)


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