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仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

無言 2

2009年09月11日 17時22分50秒 | Weblog
女が、ほとんど、話をまとめた。
男は、ほとんど、言葉を口にしなかった。
工事現場が、まだ、騒がしい頃だった。
ジョイントベンチャーの公共工事がいろんなところで盛んだった。
「賄い夫募集中」の張り紙を剥がして、組の親方と直接交渉をした。
男が鳶であることも伝えた。
それから、組の寮に入った。
二人の仕事ぶりは評判になった。
親方は現場が変わるたびに、二人を誘った。
二人は、いつも、肯いた。
男も女も記憶の糸が切れいた。
子供の頃のことも、出会いの時のことも、二人の記憶の中から、消えていた。
むしろ、今、現在に至る遠い過去の記憶が二人を支配した。
長い、長い、孤独と疎外の日々の記憶が二人の結びつきを強固にした。
場所は何処でもよかった。
生きて入れればよかった。
夜になると二人は必ず交わった。
疑うことも、恐れることもなく、大きな動きも、激しさもなく、一つの生き物ののように二人は重なった。
男が果てることもなく、女がよがることもなかった。
全ての細胞壁が剥がれ落ち、魂が液状化し、その記憶が過去のものとも未来のものともわからない世界へ導いた。
そこは静寂と安堵の世界だった。
二人はまだ、その世界から出るつもりにはなれなかった。
その時が来るまで。


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