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仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

誰のためとは言わないがⅣ

2009年06月19日 17時23分10秒 | Weblog
 ミサキはキーボードの前に立って鍵盤に人差し指を乗せた。マサルが気付き、電源を入れた。電気ピアノの弦を叩くのとは違う金属的な音が響いた。ミサキはビクンと肩を震わせた。子供が音を探すようにミサキの指が鍵盤の上を動いた。そして、記憶の中の音階を探した。
「メヌエット」
マサミが言葉に出した。
「ミサキ、ピアノ弾けるんだ。」
ヒカルが驚いたように言った。
「ずーと前にならったの。」
恥ずかしそうにミサキは笑った。マサミがミサキの横に椅子を持っていた。連弾が始まった。ミサキのフレーズに不思議な響きの和音をのせ、旋律を追うように続けた。クラシックでも、ジャズでもない不思議な音が皆に浸透した。マサルも、ヒカルも立った。マーもジンのグラスを持ったまま、ドラムスに向かった。メヌエットをテーマに音の渦ができた。そちらの方向に音は向かわなかった。緊張感はあるものの、エロチックな雰囲気の音へは移行しなかった。
 マサルが音からはなれ、ヒカルが、マーが、マサミが離れた。ミサキは汗をかきながら、何度も繰り返したフレーズをエンディングに持っていった。
「凄ーい。」
アキコが叫んだ。
「どうしてできるの。何も決めてないんでしょ。凄い、凄いわ。」
ヒデオも聞き入っていた。
「何だろう。今日はこの雰囲気なのかな。」
「そうだね。あっちには行けないみたいだね。」
拍手をしながら、迎えいれるヒデオにはよくわからない会話だった。
「いいじゃないかー。いいよ。いい。」
そういいながら、ビールのジャンボボトルをかざした。
「飲もう。飲もう。」
演奏前よりも皆の距離が近くなった。
「仁さんがいないと、簡単にはいけないのかなあ。」
「あの時は三人でも入れたよ。」
マサルが仁という言葉に反応した。ウォッカのボトルをつかんだ。氷がなかった。マサルは台所に行った。
「みっ、みんなー。」
マサルが叫んだ。皆が声のほうに動いた。マサルは江戸川の土手のほうを指差したいた。