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小鳥はさえずり蛙も歌う ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 

2019年10月11日 | ヴァイオレット・エヴァーガーデン
廊下で女生徒が話している「公開恋文」って、ヴァイオレットが代筆したシャルロッテ王女の恋文かな? だったら面白い。書いた本人が目の前を通っているわけで、このことが知られたら、「騎士姫様」人気はさらに爆上がりだろうな。

 イザベラが喘息の発作を起こした夜のエピソードについて、書き損ねてきた。咳き込みながら、イザベラは主のいない隣のベッドを、少し恨めしそうに見つめる。なぜこんなとき、ベッドにいないのか。しかし足音がして、ヴァイオレットがすぐに部屋に戻ってくる。ヴァイオレットは、冷静沈着で、背中をさすり、水差しで水を与える。おそらく発作が起きることを察して、水を汲みに行っていたのだろう。

 コクコクと喉を鳴らせながら、水差しから水を飲むイザベラは、まるで親鳥にえさを与えられるひな鳥のようだ。入浴シーンでも思ったが、ヴァイオレットは着痩せするタイプのようである。ネグリジェを着た腰から下のラインはとてもグラマラスで、母性さえ感じさせる。実際、この場面のイザベラは、親鳥の愛をむさぼる雛鳥であり、母の愛にすがる幼子である。

 この夜は暖炉に火がくべられていた。北の国の春は遅いのだろう。翌朝は小鳥がさえずっている。まだ産まれたばかりのひなだろうか。まだ鳴き慣れず、初々しい感じがする。時計の鐘が鳴り、「学校に遅れます」とヴァイオレットはイザベラの手をとり、ベッドから降り立たせる。ベッドに降り立つイザベラの素足は、シンデレラのようだ。このシーンから、ダンスの練習シーンに切り替わる場面転換が美しい。夢の時間の始まりである。

 イザベラの髪型が三つ編みに変わり、ベーシックステップが完了して、ダンスにバリエーションが取り入れられたその日、上手くついていけなかったイザベラは、「君みたいに何でも上手にできないよ」と、ヴァイオレットへの嫉妬と憧れがないまぜになった感情を爆発させる。「少し疲れてしまいましたね」と優しく受け止めるヴァイオレット。この瞬間から、二人の関係も「ベーシックステップ」から、新しいステージに入る。

 この日の夜には、もう虫の声も聞こえている。デビュタントの朝には、あの朝のように、また小鳥のさえずりが聞こえる。しかし今度の鳴き声は力強く、小鳥の成長を感じさせる。

 デビュタントが終わり、ヴァイオレットが旅立つ別れの夜には、虫の音に混じって、蛙の声も聞こえる。七十二候で「蛙初めて鳴く」といえば、新暦五月上旬ごろだが、北の国では本州中心部の六月から七月くらいだろう。元はドイツ西部のラインラント地方の民謡だった「蛙の合唱」も、夏の始まりを告げる歌のようである。

 蛙の鳴き声は、オスからメスへの求愛の歌である。ヴァイオレットが「イザベラ様、どこへも行けませんよ」と告げたように、イザベラは淑女として、やがて嫁がねばならない。ヴァイオレットが立ち去った後、門扉が閉じられ、鉄柵の向こうに一人立つイザベラは、鳥かごの中の小鳥のようだ。あの蛙の声は、少女たちが小鳥のようにさえずる夢の時間の終わりと、現実と日常に戻らねばならない残酷な事実を伝えるものであるかのようだ。

 しかし、ワルツの入場シーンで、アシュリーはすごい目でイザベラとヴァイオレットを見ているね。「本当は、自分の立ち位置はあそこだったのに」という、「騎士姫様」への嫉妬がそこにはにじみ出ているように思った。先日、「あなた自身とお話をしてみたいのです」と、両手を組んで懇願するアシュリーが、一歩踏み出し、さらに一歩踏み出してイザベラの手を取っていることに気づいた。アシュリーは、イザベラのどんなところに惹かれたのだろう。鳥かごの中であることには変わらないが、イザベラはもう一人ではない。





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