<私はね、目を閉じて村を歩きまわるんです。彼らに話しかけるんです。「ここに放射能なんかあるもんかね。チョウチョがとんでるし、マルハナバチもぶんぶんいってるよ。うちのワーシカもネズミを捕っているよ」と。(泣く)
ねえ、私の悲しみがもらえただろうかね? あんたが、みんなにこの話をしてくれるころには、私はもうこの世にいないかもしれないね。土の下、木の根っこの近くにおりますよ。>(ジナイーダ・エフドキモブナ・コワレンカ)
スベトラーナ・アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』(岩波現代文庫)より。ジナイーダは強制疎開の対象となった村に帰ってきて、猫のワーシカと一緒に暮らす「サマショール」(帰郷者)のひとり。