「海の日」の三連休。
痛めた左足のリハビリ山行としてまずは新潟の某沢を計画したが、向こうは若干梅雨明けが遅れる様子。
片や山梨県側は晴れマークがズラリと並んでいるので、急遽、南アルプスに変更する。
二泊三日、単独でシレイ沢-甲斐駒-鋸岳。
最近はクライミング指向のため重荷にますます弱くなり、今回も軽量化に努めたが、それでもザックの重さは水抜きで14kg。
ネットで多くの記録を見ると、シレイ沢と鋸岳はロープ不要に思えたが、それでもいざという時、持ってなくて敗退というのも嫌なので「保険」としてロープ30m、ハーネス、スリングなど最低限は持参する。
リハビリなのでもっとライトな計画にすりゃいいものの、貧乏性で結局、沢&縦走&岩稜のテンコ盛りにしてしまった。はたして、どうなることやら・・・。
一日目
天候:のち一時
行程:シレイ沢出合6:40-F21(白い滝)9:50-薬師岳13:40-高嶺-白鳳峠17:20
前夜、久々のJRで甲府着。
始発のバス(4:00)まで他の登山者たちと共にバス停の辺りにマットを敷いてステーション・ビバーク。
時折、寝ている傍を巨大ゴキブリがカサコソ動き回る。
駅構内は明る過ぎるし、寝るなら駅脇の武田信玄像のお膝元辺りが静かでお勧め。
朝3時過ぎ、やたら甲高い声のバス係のおっちゃんに起こされる。
昔は2時間近くスシ詰めで広河原へ運ばれ、これがかなりの苦行だったが、最近は座席以上は乗せず、人数に合わせた台数を出してくれるので助かる。
夜叉神峠で小休止後、再出発。
しばらく行って白井(シレイ)橋。ここで降ろしてもらう。
数人のパーティーが道端で準備中。さらに後のバスから、既にヘルメット被った何人かが降りてくる。スタンバイ早っ!
まぁ、この三連休、何人かは入るだろうなと予想していたが、これほど多いとは・・・。
シレイ沢、なかなか人気である。
さっそく私も仕度をする。前半はヌメッた箇所もあると聞いたので今回、靴はアクア・ステルスでなく、モンベルのフェルト・ソールにした。単独は私だけのようだ。
橋の上から見るシレイ沢は、最初のガレ滝から水量多く、なかなか豪快で、ちょいと気持ちが怯むほど。
既に登り始めているパーティーもいて、橋の左手に残された泥だらけの工事用(?)ロープを利用して順番に沢へ降りていく。
ガードレールの支柱を使って右手から自分のロープで懸垂下降もできたが、すぐに順番が来たので残置ロープを使わせてもらう。
左手にある工事用の巻き道は取付きの土壁が崩れてあまり良くない。
こちらは一人なので、出だしからコケて笑われたり、危なっかしいヤツと思われないようにしないと・・・。
先行パーティーに付いて行くと、すぐに頭上に吊橋が現れる。
その先は滝が次から次へと現れるが、ご存知のようにこの沢ではほとんど巻き。
F5の高巻きですぐ前のパーティーが大きく巻き始めたので小回りを効かし、一気に2パーティーほど抜く。
「高巻きは最低限で。基本は水線突破!」というタケシ師匠の教えはやはり正しい。
その後は5~6人編成のパーティーと前後して先を進むが、このパーティーは地元の方たちとあって詳しいし、大人数の割には無駄が無く、実にスムーズ。
巻きが多いが、直登不可能なだけあって豪快な滝が多く、単調なゴーロなども無いからそう飽きることはない。
また、巻きと言っても所々けっこう悪く、なかなか気が抜けない。
F10だろうか、滝の裏側をシャワーを浴びながら左から右へ潜り抜けられる所もあったりして面白い。
途中小休止の地元パーティーを抜き、F16の辺りだろうか、取り付こうとした右壁から大量の落石!
先行パーティーによる人為落石か、それとも自然落石か。どちらにしても、もう少し早く歩いていて取付いていたら、逃げ場が無く完全にアウトだった。
ほとぼりが冷めてから取り付くが、外傾していてちょっと嫌な感じ。
後から地元Pが追いついてきたので、リーダーらしき人に「ここでいいんですよね?」と確認すると「んー、もうちょっと左の方が岩が固くてイイと思う。」と教えてくれた。(ありがたや)
しかし、どちらにしてもほんの1ポイントⅣ級テイストで、リーダー氏が抜けた後に私も続くが、スメアを決めていた右足がズリッと滑り、ちょっとアセる。
とっさに地元Pの一人がサッと手を添えてくれたが、私の場合ここがシレイ沢では核心だった。
F17、F18と10m超の滝を巻きながら越していく。水量、水勢共に迫力あり、とても取付くシマ無し。
そろそろクライマックスは近い。
地元Pのリーダー氏に「そろそろ"白い滝"ですかね?」と訪ねると、彼らは「黄金の滝」と呼んでいるらしい。 (「黄金のタレ」ならエバラだが・・・。)
「今日はどこかでビバークですか?」と聞かれたので、
「ええ、適当な所で。一応、ノコギリまで行きたいと思っているんですが。」と答えると、
「ブラボー!」とお褒めの言葉を戴く。
とっても気さくなイイ人たちであった。
続いて圧巻のF20。
トポでは20mとされているが、それ以上のスケールを感じる。花火で言えば「しだれ柳の三尺玉」といったところか。
F20 (20m)
やがて右手に生クリームを流したような白いスラブが見え始めると左奥正面にF21。「白い滝」(25m)だ。
動から静。
それまで豪快で荒削りの滝ばかりだったのに、ここに来て急に白糸のような滝がサラサラと流れる様はまさに自然の妙。
F21"白い滝"(25m) 右手の白いスラブ
ここで地元Pと共に大休止。
後続Pは少なく見積もってもあと3パーティーいるはずだが、なかなか追ってこない。
この先、沢に慣れた地元PはⅣ級と言われる右手(左岸)のスラブへ。
私は単独なので安全牌の左手ブッシュの巻き道へ。
巻き道は思ったよりハッキリしてなくて、「白い滝」の中間辺りの高さからは意識して滝に近づくよう巻いていく。
すると、うまい具合にドンピシャで滝の落ち口にたどり着いた。
"白い滝"の落口からの俯瞰ショット
ちょっとしたナメ滝を過ぎ二俣を右へ。
倒木を越え、奥の二俣は持ってきたトポに習って左を選ぶ。
しかし、ここがちょっと微妙。
ネット上の多くの記録では二俣は右へ右へと進んでおり、どうもそちらが正解かも?
とにかく、この時は奥の二股(らしい所)を左へ進んでしまった。水量はほぼ同じ。
やがて圧倒的な滝と被った巨壁に前方を塞がれ、右手のブッシュ帯へ。
巻き道はあり、古いゴミなども確認できたので、そのまま踏み跡に従うと白いガレ沢に出た。
下を見ると後続の地元Pが私の位置より更に右手の沢を詰めているのが確認できた。
「もっと右か。」
トラバース気味に再び樹林帯に入り込む。
踏み跡はあるが、途中からどうもこれはケモノ道では?と疑念が湧く。
ただ、ここまで来たら後はもうどこを詰めても同じようなもの。構わずガンガン上を目指す。
結局これが失敗で、その後1時間以上、樹林帯の中を右往左往してしまう。
なかなか稜線に抜けられないので、「単独の中高年登山者、無謀な沢登り!」の見出しがチラチラ頭をよぎり始めるが、地形的にはとにかく上を目指せば鳳凰三山の登山道に出られるはずだ。
まったく、初日からとんだタイム・ロスだとぼやいたところで自分のミスなのでしょうがない。
最後は密集した這松を踏み分けてようやく稜線に飛び出る。
「・・・スミマセン。ここはどこ?」
と、おバカな質問を通りがかりの若いカップル登山者に尋ねると、「右手にちょっと進むと薬師岳」だと言う。
結果として、自分が期待したほぼドンピシャの場所に出たわけだが、何だったんだ一体。
薬師岳で写真を撮り、すぐさま観音岳へ。
午前中はいい天気だったが、午後になるとガスってきてあまり視界は良くない。
観音岳もとりあえず通過。
予想外の詰めでちょっと疲れてしまい、漫然と歩いていたら、30分ほどしてまた観音岳へ着いてしまった。
はぁ?
どうやら途中に赤テープのある二俣があって、そこが本来のシレイ沢の抜け口らしいのだが、そこを一般の登山道と勘違いして何故かリング・ワンデリングしてしまったようなのだ。
・・・これで一気にメゲた。
薬師岳 観音岳
とりあえず地蔵岳を目指すが、肝心のオベリスクはガスの中。
今回できれば天辺まで登るつもりでいたが、何も見えないんじゃ意味が無い。
時折、小雨も降り出した。時間も押しているのでサッサと通過。
心身共に疲れ果て、高嶺への登りで思わずヘタリ込んでしまう。
あぁ、ホントもう体力ないなぁ、歳だなぁと思いながら、誰もいないのでその場でしばらく寝てしまう。
気がつくと・・・朝。
あぁ、仕事に行かなくちゃ・・・と思ったら、今いる所は曇り空の南アルプスの真っ只中。一気に現実に引き戻される。
・・・しかたない、歩くか。
高嶺を過ぎ、白いガレの辺りに差し掛かるとまたガスが深くなり、またまた道を見失う。
もういい加減疲れたのでこの辺の適当な所にテント張っちゃうかと思ったら、目の前に遭難したお方の「写真入り」レリーフ。
「・・・・・・。」
さすがにここで一人、夜を過ごす勇気は無い。
(スミマセン。おじゃましましたー。)と頭を下げ、そそくさとまた先へ進む。
結局、白鳳峠で時間切れ。予定していた早川小屋までまるで届かず。
せっかく治りかけた左足首もちょっとした拍子にズキズキ痛むようになり踏んだり蹴ったり。
あぁ、もうヤメヤメ!明日は帰るぞ!と持ってきた梅酒パックだけ飲み、その日は飯も食わずにフテ寝してしまった。