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ロヴェッリ 一般相対性理論入門: カルロ・ロヴェッリ

2023年09月03日 14時27分34秒 | 物理学、数学
ロヴェッリ 一般相対性理論入門: カルロ・ロヴェッリ」(電子版

内容紹介:
「世の中には,私たちを強く感動させる絶対的な傑作が存在する。モーツァルトのレクイエム,オデッセイ,システィーナ礼拝堂,リア王――これらのすばらしさを理解するには,時として見習い期間が必要になるかもしれない。しかし,これらの作品は純粋な美しさをもち,しかもそれだけではなく,私たちに世界の新しい見方を与えてくれる。アルベルト・アインシュタインの宝石である一般相対性理論は,そのような傑作の一つだ。」(序文より)

『時間は存在しない』(NHK出版)や,『すごい物理学講義』(河出書房新社)などで知られる理論物理学者,カルロ・ロヴェッリ。
ベストセラーを次々と生み出す彼が,ついに一般相対性理論の教科書を執筆。重力相互作用と時空の幾何学的側面を同一のものとして記述する,驚くべき理論の本質に迫る。

計算過程を大胆に省き,アイデアに焦点を当て,全体像を俯瞰しながらわかりやすく解説する。
ロヴェッリ著作の特長である,独自の観点からの考察や陽気な語り口は,本作でも健在。彼のガイドのもと,読者は深遠な一般相対性理論の世界を最短経路で駆け抜け,最後には量子重力の美しい未解決問題を垣間見ることだろう。

一般相対性理論を学びたい人はもちろん,ロヴェッリの語りに魅せられた人や,ひと味違った教科書を読んでみたい方にもおすすめの1冊。

2023年8月1日刊行、192ページ

著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
X(旧Twitter): @carlorovelli
理論物理学者。1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学卒業後、パドヴァ大学大学院で博士号取得。イタリアやアメリカの大学勤務を経て、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いる。「ループ量子重力理論」の提唱者の一人。『すごい物理学講義』(河出書房新社)で「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」を受賞。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(同)は世界で100万部超を売り上げ、大反響を呼んだ。『時間は存在しない』はイタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー。タイム誌の「ベスト10ノンフィクション(2018年)」にも選ばれている。

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翻訳者について:
真貝寿明(しんかいひさあき): ウィキペディアの記事
1966年東京都生まれ。大阪工業大学情報科学部教授。早稲田大学理工学部物理学科卒業。同大学院博士課程修了。博士(理学)。早稲田大学助手、ワシントン大学(米国セントルイス)博士研究員、ペンシルバニア州立大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て現職。
著書に『徹底攻略 微分積分』『徹底攻略 常微分方程式』『徹底攻略 確率統計』(以上、共立出版)、『図解雑学 タイムマシンと時空の科学』(ナツメ社)、『日常の「なぜ」に答える物理学』(森北出版)などがある。

真貝先生の著書: Amazonで検索
真貝先生のHP: http://www.oit.ac.jp/is/~shinkai/


理数系書籍のレビュー記事は本書で485冊目。

本書のことは発売前から気になっていて、書店で立ち読みしてから買うかどうか決めようと思っていた。ところが幸い、出版元の森北出版の担当者から連絡をいただき、ご恵贈いただくことになった。とはいえ公私多忙で、本をいただいてからしばらく放置していた。

一般相対性理論の入門書の中ではとても薄い。たかだか200ページでじゅうぶん解説できるはずがない。これまでに読んだ入門書の中では「ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平」が手ごろだが、それでも288ページある。

本書は通読はしていないものの発売前に英語(Kindle版)を購入していたから大まかな。以下は本書の章立てなのだが、第3部の応用で扱われるテーマは盛りだくさんだ。詳細に解説するにはページ数が十分でないことがこの時点でわかった。

Ⅰ 基礎
 Chapter 1 物理学:重力の場の理論
 Chapter 2 哲学:時空とは何か?
 Chapter 3 数学:曲がった空間
Ⅱ 理論
 Chapter 4 基礎方程式
 Chapter 5 作用
 Chapter 6 対称性と解釈
Ⅲ 応用
 Chapter 7 ニュートン力学の極限
 Chapter 8 重力波
 Chapter 9 宇宙論
 Chapter 10 質量の場
 Chapter 11 ブラックホール
 Chapter 12 量子重力の概略

実際に日本語版を手にしてざっと眺めただけで、初心者、入門者向けの本でないことはすぐわかった。一般相対性理論は発案者のアインシュタインでさえ苦労して学んだリーマン幾何学の理解、習得が欠かせない。その計算方法をじっくり解説した初心者用の本で学んだ後でないと本書は理解できない。数式の導出は省略されているし、各所に「ここは自分で計算して確かめること」と書かれれるからだ。そしてその解答は書かれていない。

しかし翻訳は物理学者の真貝先生が担当されたので安心して読める。他の入門書で学んだ人、あるいは物理学の研究者向けの本としての位置づけであることさえ納得できれば、本書が最短コースで進む良書、好書であることが理解できる。

日本語で刊行されたロヴェッリ博士の本のなかで、本書のような専門書は初めてである。これまで僕が読んだのは「時間は存在しない」と「すごい物理学講義」だけであるが、これらの本にはロヴェッリ博士独特の文学的、詩的、哲学的な記述が多くみられる。しかし今回の本は専門書なので、解説的な文章に終始している。出版社による本書の紹介文には「ロヴェッリ著作の特長である,独自の観点からの考察や陽気な語り口は,本作でも健在」と書かれているが、教科書としての節度を保ち、独自性は抑えられていると僕は感じた。

必ずしもご専門とはいえない一般相対性理論の教科書を、ロヴェッリ博士はなぜ書こうと思ったのだろうか?この点について僕は2015年の重力波の初観測、そして2017年のノーベル物理学賞が重力波やブラックホールの研究者に授賞され、一般相対性理論が再び脚光を浴びたことに博士が啓発されたからだと僕は思っている。

本書を読んでよかったと思ったのは第3部の「応用」に入ってからだった。特に僕にとっての「萌え」は第7章「ニュートン力学の極限」、第8章「重力波」、第12章「量子重力の概略」に集中していた。第11章の「ブラックホール」ついては興味がある分野であるが、「ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン」や「一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー」という大著で面白さをじゅうぶん堪能していたため、本書の解説だけでは物足りないと感じた。

本書が特に貴重なのは第12章「量子重力の概略」が紹介されていることだ。日本語で読める専門書では本書以外には「初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン」しか刊行されていないからだ。この章を読むだけでも、本書を買う価値はあると思った。

ぜひ本書を書店で手に取って見ていただきたい。


日本語版の翻訳の元になった原著はイタリア語版だが、本書は英語版でも読むことができる。

General Relativity: The Essentials: Carlo Rovelli」(Kindle Edition):2021年9月刊行
Relatività generale Una semplice introduzione: Carlo Rovelli」:2021年7月刊行
 


関連記事:

時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/55f4ffc2e5f45add46dea97086bb3aed

すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/93767d1f796efe646e13b54905a445cf

ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開:真貝寿明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/88bf1600687ece47464c862fefe53103

初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ 、J. プリン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50940e09a28985e4f8256de5faebe1d0


一般相対性理論、ブラックホールの入門書の記事:

趣味で相対論(EMANの物理学):感想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5fe7d774a955f3bb9d8270f6113e453f

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4401f2ce79451070b7b9c089f304315

発売情報:一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1699a1c22477c269c68c02091d0ca049

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

重力(上) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d45a93d43478a133c6a514c980572632

重力(下) アインシュタインの一般相対性理論入門: ジェームズ・B・ハートル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ae6e91eec0ecb404b3b77d46ca04b49b

重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab

一般相対性理論入門 ブラックホール探査: テイラー、ホイーラー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c928268aab686a527be93385b45402c2

一般相対論の世界を探る―重力波と数値相対論:柴田大
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/50d12fda1c0e59132d6f5f2e73d9e302


関連動画:

カルロ・ロヴェッリ - 一般相対性理論とその意味
カルロ・ロヴェッリ教授によるコルシニアナ朗読「一般相対性理論の経験的成功と、空間と時間の性質を理解するためのその哲学的意義」国立アカデミー大学、2018年6月3日
(イタリア語音声から英語、日本語の字幕を生成可能)


カルロ・ロヴェッリ - 量子重力への旅


WSU マスタークラス: カルロ・ロヴェッリによるループ量子重力


Introduction to Loop Quantum Gravity - Lecture 1: The empirical basis of quantum gravity
再生リスト 講義資料PDF



 

 


ロヴェッリ 一般相対性理論入門: カルロ・ロヴェッリ」(電子版


序文

Ⅰ 基礎
 Chapter 1 物理学:重力の場の理論
       特殊相対性理論
       場
 Chapter 2 哲学:時空とは何か?
       相対性とニュートン時空
       アインシュタインのアイデア:ニュートン時空は物理的な場である
       アインシュタインのヒント:加速度は何に対して?
 Chapter 3 数学:曲がった空間
       曲面
       リーマン幾何学
       幾何学
 
Ⅱ 理論
 Chapter 4 基礎方程式
       重力場
       重力の影響
       場の方程式
       場の方程式の源
       真空の方程式
 Chapter 5 作用
 Chapter 6 対称性と解釈
       一般共変性と微分同相不変性
       時間とエネルギー
 
Ⅲ 応用
 Chapter 7 ニュートン力学の極限
       計量のニュートン的極限
       ニュートンの力
       一般相対論的時間の遅れ
 Chapter 8 重力波
       物質への影響
       発生と検出
 Chapter 9 宇宙論
       宇宙の大規模幾何学
       基本的な宇宙モデル
 Chapter 10 質量の場
       シュヴァルツシルト計量
       ケプラー問題
       太陽による光の曲がり
       地平面近傍の軌道
       宇宙論的な力
       カー-ニューマン計量と座標の引きずり
 Chapter 11 ブラックホール
       地平面のところ
       ブラックホールの中
       ホワイトホール
 Chapter 12 量子重力の概略
       量子重力の経験的で理論的な基礎
       分解:空間量子
       時空形状の重ね合わせ
       遷移:ブラックホールからホワイトホールへのトンネルとビッグバウンス
       結論:時空の消滅

より詳しく学ぶために
訳者あとがき
索引

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1 コメント

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意外な事 (hirota)
2023-09-18 22:27:18
これとは直接の関係はないが、「重力場のエネルギーを新しく定義した」とか報道されてた京大の論文を読んでみたけど、中身は「重力場はエネルギーを持たない」とか「重力波はエネルギーを運ばない」とか書いてあって全然話が違うー!
でも色々と面白い情報はあった。
特にシュバルツシルト解の知らなかった派生形はビックリで奇々怪々!
計算で確かめて本当だと分かったけど意味はいまだに不明。半径一定の面が球面じゃなく双曲空間て何を意味してんの?

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