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位相入門 -距離空間と位相空間-: 鈴木晋一著

2010年01月21日 20時22分06秒 | 物理学、数学
位相入門 -距離空間と位相空間-: 鈴木晋一著

あらゆる数学の基礎は集合論であり、数学における「位相」とは数学で扱われるあらゆる対象の関係において「近い」、「連続である」、「分離している」などの概念を集合論の記法を使って定義したもので、あらゆる現代数学の基礎となっている。具体的には「点列の収束」、「近傍」、「開集合」、「閉集合」、などの概念を出発点として定式化されている。正確な説明はウィキペディアの「位相空間」の項目を参照いただくとして、この記事では初心者向けに(正確さという意味において多少の犠牲を払いながら)わかりやすく紹介してみよう。

数学での位相空間は英語にすると topological space(トポロジカル・スペース)で、物理学、特に解析力学や量子力学で登場する運動量 p や位置 q で構成される位相空間(または相空間)とは別物だ。物理学での位相空間は phase space(フェーズ・スペース)と英語表記する。また波動 sin(αt + β)の初期値を表すβも位相(phase)と呼んでいる。このように日本語では同じ言葉に訳されて紛らわしいのと、そもそも日常用語ではないので「位相」という文字をいくら目を凝らしてみても意味がわかるはずがない。初心者がとっつきにくいと感じるのはこのためだ。

「近さ」という概念を数学的に表現するのが「距離空間」である。私たちが住んでいるこの世界も3次元空間(または時間次元を加えて4次元空間)で数ある「距離空間」のうちのひとつである。数学で扱う「距離空間」は日常的な空間をさらに一般化したもので、ある集合Xに含まれる任意の2つの元 x, y について距離関数 d(x,y) が定義でき、次の3つの数式(公理)が成り立つものをすべて「距離空間」として扱う。

1) d(x,y)≧0 (特に d(x,y)=0 ⇔ x=y)
2つの点の距離は0以上で、もし距離が0ならば2つの点は同一の点である。

2) d(x,y)=d(y,x)
2つの点の距離はどちらから測っても等しい。

3) d(x,z)≦d(x,y)+d(y,z):三角不等式
三角形の頂点をx,y,zとすると上の不等式は常に成り立っている。つまり2辺の長さの和は残りの1辺の長さ以上である。

あたり前のようなこれらの定義さえ成り立っていればすべて距離空間と呼んでよい。つまり曲った非ユークリッド空間や、多次元空間もそうであるし、定積分 ∫f(x)dx と ∫g(x)dx の間にも距離(近さ)は d(f,g) のように定義できるので距離空間といえる。また群論で扱う「群」についても条件を満たしさえすれば距離空間に成りえるわけだ。

今回紹介する「位相入門 -距離空間と位相空間-: 鈴木晋一著」の前半ではこのように日常的な距離空間から一般化した距離空間について基本的な定理と証明をわかりやすく説明してくれている。その過程で「完備」、「コンパクト」など基礎的な概念もきちんと身に付くように配慮されている。

本書の後半を「位相空間」についての定理と証明にあてている。とはいっても前半の「距離空間」で紹介した定理と証明がほぼ同じパターンで繰り返されているので前半さえおさえておけば復習しているように学ぶことができる。位相空間は距離空間を拡張(一般化)したものであるから同じような定理と証明が成り立つからだ。(もちろん位相空間だけにしかない公理や定理もある。)

つまり「距離空間 ⊂ 位相空間」である。

位相空間の定義が距離空間と違うのは、距離関数 d(x,y) による定義は使わず「閉集合」や「近傍(系)」のような集合論の概念を使っていることだ。そして「ハウスドルフ空間」についても「位相空間」についての章の中で詳しく解説されている。位相の分野で使われる用語は難しそうに見えても学んでみればたいしたことないのものだ。「張子の虎」である。

数学には本当にたくさんの種類の「~空間」と名前のついた空間が登場する。それらはもちろん実在する空間ではなく概念上の空間に過ぎないわけだが、それぞれ定義をcちゃんと理解してそれらの間の関係をしっかり覚えておけば恐れるに足りない。想像力より記憶力の世界だ。(ちょっと言いすぎか。。。)

数学の中で位相というものがどのような位置を占めているかは、次のページを見るとよくわかるだろう。

意外と位相に関係あるメモ
http://www.netlaputa.ne.jp/~hijk/memo/topology.html

このように初学者にとっては抽象的でとらえどころのない位相や位相空間という概念ではあるが、その定義をはじめ定理や証明は厳密に定式化されている。これを丹念にかつ手軽に学べるのが本書であり、はじめて位相を学ぶ人でもストレスなく読み進めることができると思う。

以下、位相についてアマゾンで目にとまった本を2冊紹介しておこう。

位相のこころ (ちくま学芸文庫): 森毅著


この本の中の「位相用語集」という章は特にお勧めだ。位相の公理や定理で使われる概念をなるべく数式を使わず文章で説明している。また位相が数学の他の分野とどのようにかかわり、現代数学でどのように使われているかについても具体的な例をあげて解説している。位相はその中で学ぶ限りそのありがたみを感じることはできないが、周辺から見なおすことで現代数学の中で位相がどうして大切なのかがわかるようになる。たとえていえば、アルファベットを学んでもそのありがたみは英会話や英文読解を学ばないとわからないということに似ている。
この本の他の部分は難しいので、ひととおり位相について普通の教科書で学んでから読むとよいだろう。

集合・位相入門: 松坂和夫著


アマゾンのこの分野でランキング1位の本。とても丁寧にわかりやすく解説されている。冗長だという批判も見受けられるが、それだけ詳しく書かれていると好意的に僕は受け止めたい。ぜひ手元におきたいバイブル的な一冊である。

位相入門 -距離空間と位相空間-: 鈴木晋一著


今回僕が読んだ本である。目次は次のとおり。

目次

第1章:基礎事項
- 集合
- 写像
- 2項関係
- 実数
- 実数値連続関数

第2章:距離空間
- ユークリッド空間
- 距離空間
- 距離空間の開集合・閉集合
- 距離空間上の連続写像
- 距離空間のコンパクト性
- 距離空間の連結性

第3章:位相空間
- 開集合・位相・位相空間
- 位相空間上の連続写像
- 開基・可算公理
- 分離公理
- 位相空間のコンパクト性
- 位相空間の連結性
- 位相空間の局所的性質

問題解答
参考文献
索引

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2 コメント

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なつかしい (御坊哲)
2010-03-04 15:36:46
松坂和夫さんの集合・位相入門は40年以上前、私の大学一年の時の教科書でした。いまも版を重ねているとは。感慨深いです。
返信する
Re: なつかしい (とね)
2010-03-04 15:49:19
コメントいただきありがとうございます。

40年以上前ということでしたら本当になつかしいことでしょうね。

大学3年(21年前)のときに勉強していた教科書が復刊されているのを知り、先日購入しました。
返信する

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