とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

数学ガール:結城浩

2011年03月09日 20時12分12秒 | 物理学、数学
数学ガール:結城浩」(Kindle版

一般向けの本ということで、きっと自分には易しすぎるだろうし、「萌え系」っぽいからということで、ずっと読まずにいた「数学ガール」シリーズだが、第3巻のゲーデルの不完全性定理で自分にも興味津々なテーマが登場したので最初から読んでみることにした。本シリーズを読むには高校数学(少なくとも高校2年まで、特に数列、三角関数、指数関数、微分が少し)の知識は必要なので、心もとない方は「KIT数学ナビゲーション」で復習すればついていけると思う。

この第1巻で取り上げられているのは「素数」、「フィボナッチ数列」、「母関数」、「カタラン数」、「コンボリューション(畳み込み)」、「ハーモニック・ナンバー(調和数)」、「ゼータ関数」、「テイラー展開」、「バーゼル問題」、「分割数」など、数学専攻の大学生にとっても興味が持てる題材だ。それぞれの話は次の話につながるように構成され、前の章の知識が次の話題の理解に生かされるように構成されている。

登場人物は数学好きな「僕」を含めた3人の高校生。同級生の「ミルカさん」は美人で数学が「僕」よりも得意な女の子。1学年下の「テトラちゃん」は先輩である「僕」を慕う可愛くて元気な女の子。「僕」から数学を教えてもらうのを何よりも楽しみにしている。2人の女の子からいつも関心を持たれている恵まれた設定は、高校時代の著者には叶わなかった「願い」を反映しているに違いないと僕は思った。2人の女の子それぞれの魅力に惹かれながら「僕」の物語は進行していく。

竹内薫先生に始まった「ねこ耳少女の量子論」に影響されてか、あの中村亨先生までもが「フェルマーの最終定理」という本を出してしまった昨今だが、本書はそのような意味での「萌え系」ではない。もはや死語となった「青春小説風」というのがぴったりする。

読み始めてすぐ著者の書く文章が気になりだした。「あれっ、僕と同じような文章表現する人だ。。。」という同世代の言語感覚。正確に伝えようとするあまりにでてしまう「くどさ」までよく似ている。そう思ったのは「僕」とテトラちゃんが話すシーン。二人が相手に対して感じている恋心は、セリフだけで読者に十分伝わるのに余計な説明を加えてしまっているところ。著者の結城さんの年齢をみると僕より1つ下だった。言葉遣いの同世代感覚ってあるようだ。

扱っているテーマが「高級」であるにもかかわらず、難しく感じさせないのが著者の力量が示しているところだ。数学初心者のテトラちゃんが積極的に質問してくれるおかげで、読者にとって難しいところや陥りやすい勘違いのほとんどが解消される。数学の得意な読者にとってはミルカさんが「僕」に提示する問題解決への思いもよらないアプローチや鮮やか手法を楽しむことができるだろう。そして「僕」が自分ひとりで考察を深めている箇所も、読者がひとりで数学に取り組むときのお手本になる。

決められた時間内に解かなければならない受験数学の合否は、同じタイプの問題や解法を知っているかどうかに左右される。けれども数学とは本来この本で展開されているように、基本的なルールや知識を積み上げ、解法の見当をつけながら進めていくものであり、その過程の中で楽しさや美しさを感じるものだ。

大学の数学科で教えられる数学は線形代数や微積、解析学をはじめとする実用を意識したものが多く、専門課程でも(「テイラー展開」を除き)本書で取り上げられているようなテーマの授業を履修する学生は少ない。この分野はパズルを解く楽しさに通じる面白さや驚きに満ちているので、数学専攻、物理学専攻にかかわらず本書を通じて18世紀最大、最高の数学者であるオイラーの世界に入門してみてはいかがだろうか。数学の世界を堪能することによって得られる感動は、お金では買えない価値である。

本シリーズは数式入りの一般向け数学書籍としては、異例の売り上げを記録している。文学作品(やアニメ文化)だけでなく、本シリーズのような一般向け数学書、自然科学書も英訳され、世界に向けて発信できれば素晴らしいのになと思った。


本シリーズの内容の一部は(草稿として)著者のホームページから読むことができる。本書の正誤表もある。

『数学ガール』シリーズ:《理系にとって最強の萌え》をあなたに。
http://www.hyuki.com/girl/

また著者の結城浩さんのWikiはこちら。
http://www.hyuki.com/index.html

大学時代に数学を専攻していた僕にも第1巻は十分楽しめた。この記事で熱く語っているのがその証拠。第2巻も期待しつつ読みはじめたところだ。

余談:テトラちゃんが「あちゃちゃ。」って言うところも気になった。今の高校生どころか僕の時代でもこんな言葉遣いしなかったと思う。それとも関西ではそんなふうに言うのだろうか?テトラちゃん独特の言い回しとして納得しておけばよいか。

数学ガール:結城浩」(Kindle版
数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩」(Kindle版
数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩」(Kindle版
数学ガール/乱択アルゴリズム:結城浩」(Kindle版
数学ガール/ガロア理論:結城浩」(Kindle版
数学ガール/ポアンカレ予想:結城浩」(Kindle版

  

  


関連記事:

数学ガール/フェルマーの最終定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4bf119bf3842421f8916c787c51216ae

数学ガール/ゲーデルの不完全性定理:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f9b0b9264e35a680ce974fcbf17c62c0

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https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/deaece69e304b94be1a8b9ad3c92617f

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

数学ガール/ポアンカレ予想 : 結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/769e2639898b351545e7ad8a8eba89d7

Kindle版発売:「数学ガール:結城浩」シリーズ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9d9037d14ed9ffcc98c7b2569fba7c39


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数学ガール:結城浩」(Kindle版


あなたへ
プロローグ

第1章:数列とパターン
- 桜の木の下で
- 自宅
- 数列クイズに正解なし

第2章:数式という名のラブレター
- 校門で
- 暗算クイズ
- 手紙
- 階段教室(素数の定義、絶対値の定義)
- 帰り道
- 自宅
- ミルカさんの回答
- 図書室(方程式と恒等式、積の形と和の形)

第3章:ωのワルツ
- 図書室にて
- 振動と回転
- ωのワルツ

第4章:フィボナッチ数列と母関数
- 図書室(パターン探し、等比数列の和、無限級数へ、母関数へ)
- フィボナッチ数列を捕まえる(フィボナッチ数列、フィボナッチ数列の母関数、とじた式を求めて、無限級数で表そう、解決)
- 振り返って

第5章:相加相乗平均
- 《がくら》にて
- あふれる疑問
- 不等式
- もう一歩進んで
- 数学を勉強すること

第6章:ミルカさんの隣で
- 微分
- 差分
- 微分と差分(一次関数 x、二次関数 x^2、三次関数 x^3、指数関数 e^x)
- 二つの世界を行きめぐる旅

第7章:コンボリューション
- 図書室(ミルカさん、テトラちゃん、漸化式)
- 帰り道における一般化
- 《ビーンズ》における二項定理
- 自宅における母関数の積
- 図書室(ミルカさんの解、母関数に立ち向かう、マフラー、最後の砦、陥落、半径がゼロの円)

第8章:ハーモニック・ナンバー
- 宝探し(テトラちゃん、ミルカさん)
- すべての図書室に対話が存在する(部分和と無限級数、当たり前のところから、命題、すべての…、…が存在する)
- 無限上昇螺旋階段付音楽室
- 不機嫌なゼータ
- 無限大の過大評価
- 教室における調和
- 二つの世界、四つの演算
- 既知の鍵、未知の扉
- 世界に素数が二つだけなら(コンボリューション、収束する等比級数、素因数分解の一意性、素数の無限性の証明)
- プラネタリウム

第9章:テイラー展開とバーゼル問題
- 図書室(二枚のカード)
- 無限次の多項式
- 自分で学ぶということ
- 《ビーンズ》(微分のルール、さらに微分、sin xのテイラー展開、極限としての関数の姿)
- 自宅
- 代数学の基本定理
- 図書室(テトラちゃんの試み、どこへ行き着く?、無限への挑戦)

第10章:分割数
- 図書室(分割数、具体例を考える)
- 帰路(フィボナッチ・サイン、グルーピング)
- 《ビーンズ》
- 自宅(選び出すために)
- 音楽室(僕の発表(分割数の母関数)、ミルカさんの発表(分割数の上界)、テトラちゃんの発表)
- 教室
- よりよい上界を見つける長い旅(母関数が出発点、《始めの曲がり角》積を和に変えるには、《東の森》テイラー展開、《西の丘》ハーモニック・ナンバー、旅の終わり、テトラちゃんの振り返り)
- さよなら、また明日

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あとがき
参考文献と読書案内
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4 コメント

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はじめまして! ()
2011-03-10 23:39:18
とねさん!
こんばんは!
はじめまして!
よと申します。
よろしくお願いいたします。
とねさんのような日記をずっと探しておりましたがやっと巡り会えた幸せを今、噛みしめております。
さてきっかけですが、ずっと気になっておりました「虚数の情緒―中学生からの全方」からとねさんに繋がりました。
しかしとねさんの博識ぶりには驚嘆せざるをえません。
まさに「虚数の情緒―中学生からの全方」のように広大なエリアをカバーされております。
実は「虚数の情緒―中学生からの全方」をアマゾンに注文したばかりでまだ読んでおらず、とねさんレビューを頼りに1000ページへ挑戦しようと思います。
申し遅れましたが、小生、理論物理出身ですが、最近なぜか数学の方にも興味が行ってしまい、最近はやりのロングテールのおかげで店頭にないような数学の本との出会いを楽しんでおります。
アマゾンで本屋めぐりをしているのが、最近の最も大きな楽しみです。
理論物理出身ですが、これまた何故か解析力学の理論体系の壮大さにいまだ感動の中にいるという自分でも不思議に思っております。
学問に関しましては物理学、数学は勿論、哲学、歴史、経済学などにも非常に興味を持っております。
今思えば、大学の教養時代にいろいろと勉強できた時が最も恵まれた時のひとつと振り返っております。
何故、哲学の教官がフッサール、マッハに執心していたか、自分なりに少しづつ理解しようとしております。
数学に関しましてはアーベル、ガロア、リーマン、カントールなどに興味を持っておりますが、なかなか難しいです。
とねさん、今後とも、よろしくお願いいたします。
返信する
Re: はじめまして! (とね)
2011-03-11 00:13:08
よさんへ

初コメントいただき、ありがとうございます。「虚数の情緒」の検索から僕のブログにたどり着かれたのですね。
理論物理のバックグラウンドをお持ちということですから、この本は分厚いですが楽しみながら読み進めることができると思います。

「博識」というか、自分の好みにまかせて読みあさっているようなわけでして。(笑)そして、感想文のようなものをブログ記事に残しておくことで、紹介した本をまだ読んでいない方が購入するかどうか参考にしていただければと思っています。

解析力学も奥が深いですね。古典力学はもちろん、量子力学や量子場の理論までその原理が貫かれていますし。未知の領域に進もうとする人間の知性に対し、行き先を照らし出すサーチライトのような気がしています。

物理学の道を極めようとして始めたブログですが、元々数学専攻だったため、これら2つの学問の魅力の間を行ったり来たりしています。

記事にはしていませんが、歴史や経済学にも関心を持っています。これ以上手を広げるゆとりがありませんので「我慢」しているところです。

よさんが興味を持っておられるアーベル、ガロア、リーマン、カントールなどの数学は確かに難しいかもしれませんが、幸いなことに近年たくさんの良書が出版されています。(どれを選んでよいか迷うほどです。)

アマゾンのレビューも参考になりますが、自分にいちばん合う本というのは人それぞれです。これからもできるだけ自分が感じたそのままの印象で本を紹介していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。

返信する
この本読んだのですね (EROICA)
2011-03-23 23:40:57
 とねさんへ

 お久しぶりです。EROICAです。しばらく、とねさんの日記を見ていなかったので、この記事を見落としていました。

 この本、私は2008年2月20日に読み終わりました。

 とても面白かったのが印象に残っています。

 例えば、杉浦光夫著「解析入門1」のP.25で、バーゼル問題(その名称は記述されていない)が、レオンハルト・オイラーによってsin x の無限積展開を用いて解かれたと書かれているのに、この本には、他の証明が載っているのです。

 私は、長いことこの証明を探していたのですが、「数学ガール」という半専門書で、やっと知ることが出来たのです。

 他にも、「僕」とミルカさんのキスシーンの描写が、数学の本らしくて気持ちよかったです。「半径がゼロでも円は円。」(P.159)です。
 キスシーンは、P.298 にもありますけどね。

 私は、この本を2008年2月7日に買って、2週間で読みました。こんなスピード読了は、珍しいことです。

 とねさんも、楽しまれたことと思います。

 良い本が出版されて、嬉しいですね。
返信する
Re: この本読んだのですね (とね)
2011-03-24 00:03:42
EROICAさん

大変お久しぶりです!
EROICAさんがこの本について書かれた記事を当時僕も読んでいたのですが、なかなか手が出ないでいました。3巻目の「ゲーデルの不完全定理」を見てやっと読もうという気持ちがでてきました。
「半専門書」というのはユニークな表現ですね!確かに良い本です。

キスシーンもいやらしくなく書けてましたね。(笑)

久々にEROICAさんの記事を読ませていただきました。「専門外のことは子供用の本で読む。」というのには納得させられました。

とんでもない大災害がおきてしまいましたが、まだ余震が続いていますのでお互いに気をつけて生活していきましょう。
返信する

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