とね日記

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新版 スピンはめぐる: 朝永振一郎著

2009年06月17日 21時32分36秒 | 物理学、数学

昨年9月25日の記事で紹介した「新版 スピンはめぐる: 朝永振一郎著」読み終えた。「積読状態」が長すぎである。(笑)

この本は1920年代後半から1940年頃までの量子力学の成熟期の様子を朝永先生のご自身の体験を含め、当時の先端物理学者たちの苦労の歴史をつぶさに紹介した本だ。中央公論社の「自然」という科学雑誌に連載された記事を1冊にまとめたものである。この雑誌は見たことがないが、本書の記述に数式がたくさん見られることから日経サイエンスよりも専門性が高い雑誌なのだと思う。かといって論文や教科書みたいかというとそうでもない。朝永先生の軽妙な語り口が随所に見られるからだ。

量子力学と量子場の理論の間をうろうろしている僕にとって、読むのにちょうどいいタイミングの本だった。高橋康先生の量子場の本でくじけてしまった後なので、次は読みやすいのを選んだわけである。

紹介されている物理学者の先生方の上下関係を知るのも面白い。ディラックパウリハイゼンベルクボーアといった量子力学の「大巨人たち」にとって朝永先生でさえ若造にすぎない。電子のスピンという概念を着想したのは当時20歳だったクローニッヒである。1925年のこと。同じ年にウーレンベックとカウシュミットの二人が同じ考えを発表している。(1925年当時朝永先生は19歳)

若造たちが着想した当初このアイデアは量子力学の大巨人たちに否定された。いかに天才であっても固定観念を取り払うことは難しいのである。ほどなく量子力学は拡張され電子のスピンは受け入れられ、量子場の理論の発端になったのは言うまでもない。そこにいたるまでの大巨人たち同士のけん制や格闘、若造学者に対してはときに救いの手を差し伸べたり、厳しく批判したりと、人間ドラマが読み取れる。

クローニッヒらと一緒に研究していたのが仁科芳雄先生である。朝永先生や湯川秀樹先生はその弟子にあたる。そのまた弟子にあたる多くの物理学者が現在も活躍されている僕たちにとっての大先生にあたるわけだ。

表紙に2人の大巨人の写真が掲載されている。パウリ(左)とボーアだ。いったい何を覗き込んでいるのだろう。ほほえましい。



詳細については裏表紙に上手に紹介されている。

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朝永振一郎による不朽の名著、待望の新版、あのパウリによって「古典的記述不可能な二価性」とも表現され、マクロな物理現象とのアナロジーを拒んだ。”スピン”の真髄に迫ろうとするとき、本書のアプローチに優るものは創造しがたい。

スピンの概念は紆余曲折の末に理論的に焦点を結び、相対論化され、量子力学の射程を大きく伸ばした。それは荷電スピンの概念につながり、人知が原子核の内側へ踏み込むことを可能にしたのである。

その過程で「アクロバットのよう」なディラックの思考、つぎつぎと問題の鍵を見出す「パウリの正攻法」、現象論的な類推から本質に辿り着く「ハイゼンベルク一流の類推法」など、さまざまな個性の頭脳が自然の謎と格闘する。本書はそんな「興奮の時代」と呼ばれた量子力学の成熟過程を追体験する旅である。その道程の随所に、ディラックらの原論文を読みこんで、自身も歴史的な仕事を遺した朝永ならではの洞察が光っている。学術書でありながら、まさに珠玉と呼ぶにふさわしい。

すべての物理学生にとっての必読書である。新版には懇切な注釈が付され、より独習しやすくなった。旧版発行から30年余を経たため、その間のスピン関連に関する解説も追加されている。
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新版 スピンはめぐる:朝永振一郎著」目次

 第1話 夜明け前
 第2話 電子スピンとトーマス因子
 第3話 パウリのスピン理論とディラック理論
 第4話 陽子のスピン
 第5話 スピン同士の相互作用
 第6話 パウリ‐ワイスコップとユカワ粒子
 第7話 ベクトルでもテンソルでもない量
 第8話 素粒子のスピンと統計
 第9話 発見の年“1932年”
 第10話 核力と荷電スピン
 第11話 再びトーマス因子について
 第12話 最終講義
 参照文献
 あとがき
 付録
 A 補注 B スピン、その後 C 電磁気関連の旧版の表式(CGSガウス単位系)
 画像・資料リスト
 新版へのあとがき


関連記事:

量子力学(1)第2版:朝永振一郎著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7a2a6fb8e53c35ae78ee655ab68d8219

量子力学(2)第2版:朝永振一郎著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05312f75b4abbb854c1a81352abebae9

角運動量とスピン―『量子力学』補巻:朝永振一郎著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/57be844615ff28d6587522422b684221
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