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アインシュタイン選集(2): [A3]:一般相対性理論の基礎(1916年): E

2008年06月02日 22時51分41秒 | 物理学、数学
アインシュタイン選集(2): [A3]:一般相対性理論の基礎(1916年)

E.

§21 第1近似としてのニュートンの理論

重力理論としての一般相対性理論は、ニュートンの重力理論を当然含んでいるべきである。それは高校の数学で平面上の曲線が無限小の直線のつながったものであると習ったように、空間の微小な領域で特殊相対性理論が成り立つと同時に、近似としてニュートンの理論も成り立っているはずだからだ。もし、そうでなければ人類はアポロを月に打ち上げることはできなかった。

特殊相対性理論は一般相対性理論において時空の曲がりを示す基本テンソルg(u,v)の値の要素を

g(1,1)=g(2,2)=g(3,3)= -1 (空間成分は-1)
g(4,4)= +1 (時間成分は+1)
g(i,j)= 0 (i≠j)

という「定数」に等しいとおいた特別な場合だ。これは重力の作用を完全に無視することに相当する。

これに対しg(u,v)がこの値からごくわずかずれている場合を考えるならば、現実に対して特殊相対性理論よりも、より近い近似を得る。これを「第1の近似」と呼ぶことにする。これは平面上の曲線を直線で近似するようなものだ。

「第1の近似」でニュートン力学が近似できるかというとそうではない。特殊相対性理論において質点の運動は通常は光速よりも非常に小さい場合に限ると、微小空間における「空間的な速度成分」 dx1/ds, dx2/ds, dx3/ds は1にくらべて小さい量と扱ってよい。けれどもこの領域における「時間的な速度成分」dx4/ds はほぼ1に等しいと考えられる。これを「第2の近似」と呼ぶことにする。

第1および第2の近似を重力場の方程式に代入すると、質点の運動方程式はu=v=4の項だけ、すなわち時間成分の2階微分だけ考えればよいことになる。

つまり、通常のニュートンの運動方程式 F= ma = m d^2 x / dt^2 に相当する計算式が基本テンソルg(u,v)の空間的偏微分を含んだ式で表現される。

その際、g(4,4)/2 は重力ポテンシャルの役目を果たしていることもニュートンの運動方程式との比較によってわかる。そして注目すべきことは第1近似では基本テンソルの中のただ1個の成分 g(4,4) だけが質点の運動を決定するということである。

次に一般相対性理論における場の方程式を考える。この方程式には「物質」の運動量・エネルギー・テンソルT(u,v)が含まれている。この方程式から上と同様の近似を求める場合、エネルギーの時間成分T(4,4)のみが物質の密度ρに相当し、T(u,v)の残りの成分はすべて0となる。この前提のもと計算を進めるとニュートンの重力の法則と重力ポテンシャルに相当する式が導ける。

導かれた式とニュートンの重力方程式の係数を対比することによって、ニュートンの万有引力定数 G と光速 c との間の簡単な比例関係式が道かれる。


§22 静的重力場内にある物差しと時計、光線の湾曲、惑星軌道の近日点移動

アインシュタインがこの理論を研究していた頃は、コンピュータや計算機がなかった時代である。理論から導かれた方程式がニュートンの運動方程式から導かれる結果から、具体的にどれくらいずれているかを計算するためには、理論的な近似で方程式の高次の項を無視するしか方法がなかった。近似計算は数式の変形として計算し、最後の段階で具体的な数値を代入して求めたわけである。

ニュートンの理論を第1近似として得るためには、重力ポテンシャルg(u,v)の10個の成分の中のただ1個 g(4,4) だけを計算する必要があった。なぜなら重力場内にある質点の運動方程式の第1近似の中には、ただg(4,4)だけが登場したからである。しかし、このことからg(u,v)の他の成分もまた第1近似においては、上で「定数」として置いた値からい大きくずれていてはならないことがわかる。なぜなら、これは g = -1 という条件によって要求されることだからだ。

まず、座標系の原点に重力場の源となる質点を考える。これに対して球対称なg(u,v)の解(重力場の方程式の解)を近似として成分ごとに計算すると、この解が(質点のある場所以外では)第1近似での場の方程式を満足することがわかる。


次にこの質点が生み出した重力場によって、時空のもつ計量的性質(g(u,v))がどのように影響されるかを計算してみると、質点以外の場所においては質点から半径 r の方向に置かれた物差しの長さは、重力場の影響によって少し短くなることが計算される。また、半径rの球の接線方向の物差しの長さはまったく影響を受けないこともわかる。

このことから、このような重力場に置いた1本の棒は、棒自身が重力場を作らないとするならば、第1次近似においてさえも重力場の存在する領域ではユークリッド幾何学が成立しないことがわかる。

次に静的重力場の中に静止している標準時計の進む速さを計算してみる。時計の1周期(たとえば1秒)は、次のように空間での移動を0と置くことで表すことができる。

ds^2 = dx4^2 = 1, dx1 = dx2 = dx3 = 0

すると

dx4 = 1/sqrt(g(4,4)) = 1 - (g(4,4) -1)/2

となり、1よりも大きいことがわかる。つまり重力場の源となる質点の近くに置かれた時計は(質点から十分に離れたところに置かれた場合に比べて)ゆっくり進む。したがって、大きな星の表面から発射されて、私たちのところに到達した光のスペクトルは赤いほうにずれて見える。

次に静的重力場内での光線の進路を計算する。一般相対性理論では

ds^2 = g(u,v) dx^u * dx^v = 0

が成り立つので、光の進む方向は dx1/dx4 : dx2/dx4: dx3/dx4 の比で与えられる。g(u,v)の各成分が定数でないことから、方向は連続的に変化することは容易に想像できる。

アインシュタインは太陽の側を進む光線について、太陽の質量など具体的な値を代入して光線の湾曲を計算した。光線は微小な距離を進むにつれて少しずつ角度を変えるので、計算式は定積分であらわされる。これを近似的に解いて、光線は1.7秒曲がることを求めた。また、木星のふちを通る光線が0.02秒曲がることも計算して求めた。

次に、アインシュタインは惑星の運動についてのケプラー・ニュートンの法則を一般相対性理論での数式表現を求めた。2天体だけで考えるケプラー・ニュートンの法則では、その近日点は移動しないのだが、一般相対性理論での式は惑星の楕円軌道がゆっくり回転することがわかった。

水星の軌道に対して計算すると、100年間にその軌道は43秒だけ回転することが求められる。歴史的な順序としては、この近日点移動のずれの謎はアインシュタイン以前に天文学者のルヴェリエによって提示されていたのだが、一般相対性理論によりその理論的な説明がなされたわけである。


関連リンク:

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
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アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144


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