とね日記

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「昭和天皇実録」の謎を解く (文春新書)

2015年11月03日 16時31分20秒 | 小説、文学、一般書
「昭和天皇実録」の謎を解く (文春新書)」(Kindle版

内容紹介
87年の生涯にわたり、日々の動静を克明に記した「昭和天皇実録」。史実として認められたことがある一方で、書かれなかったことも。昭和史の知識と経験が豊富な4人が、1万2千ページの激動の記録をどう読んだか?初めて明らかにされた幼少期、軍部への抵抗、開戦の決意、聖断に至る背景、そして象徴としての戦後。天皇の視点から新しい昭和史が浮かび上がる。2015年3月刊行、302ページ。

著者について
半藤一利(著書を検索
昭和5(1930)年、東京都生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役、同社顧問などを歴任。

保阪正康(著書を検索
昭和14(1939)年、北海道生まれ。ノンフィクション作家、評論家。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。同志社大学文学部卒業。2004年、昭和史研究の第一人者として菊池寛賞受賞。

御厨貴(著書を検索
昭和26(1951)年、東京都生まれ。東京大学名誉教授。東京大学先端科学技術研究センター客員教授、政治学者。東京大学法学部卒業。TBSテレビ「時事放談」の司会も務める。

磯田道史(著書を検索
昭和45(1970)年、岡山市生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部教授、歴史学者。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。NHK BSプレミアム「英雄たちの選択」の司会も務める。


昨年9月、宮内庁は昭和天皇の生涯を記録した「昭和天皇実録」の内容を公表した。これは宮内庁が24年5カ月をかけて編纂した第一級の史料だ。

天皇皇后両陛下に奉呈された「昭和天皇実録」


これの公刊本は宮内庁が行った入札により東京書籍から最初の4巻が今日までに刊行されている。最終的には全19巻、1万2千ページになり、刊行が完了するのは5年後の平成31年になるという。

「昭和天皇実録」公刊本: Amazonで検索



同居している母(昭和8年生)が読んでみたいというので差し当たり4冊購入してみた。入札が功を奏したのだろう。各巻税込み2041円という格安価格で買うことができる。

このように分厚い本は持ち歩けないから電子書籍がでればよいのだけど、母はiPadを使いこなしていないから紙の本のままにしておこう。自炊してしまうのは忍びないし。

電子書籍版がでていないのは、このように文字の割り付けが凝っているからなのだと思う。




今回僕が読んだ「「昭和天皇実録」の謎を解く (文春新書)」(Kindle版)は「昭和天皇実録」本編を読むためのガイドとでもいうべき本。公表された実録をすべて読んだ識者4人による対談集である。本編は年月の順に事実を記載しただけなので素人が読み解くのはとても難しいからこのような本はとても役に立つ。

章立てはこのとおり。

第一章 初めて明かされる幼年期の素顔
第二章 青年期の栄光と挫折
第三章 昭和天皇の三つの「顔」
第四章 世界からの孤立を止められたか
第五章 開戦へと至る心理
第六章 天皇の終戦工作
第七章 八月十五日を境にして
第八章 "記憶の王"として

昭和天皇のご発言はこれまで「独白録」や「拝聴録」として記録されていたが、「独白録」は昭和天皇が戦前、戦中の出来事に関して1946年(昭和21年)側近に対して語った談話をまとめた記録であり、東京裁判を意識している。「拝聴録」はその所在すら公表されていなかったのだが「昭和天皇実録」ではその存在が明らかにされた。(参考記事

また卜部亮吾、河井弥八など昭和天皇側近による日記(検索)も私たちが知りえる貴重な史料だった。

これらの史料をすべて合わせても昭和の激動の時代を天皇陛下がどのように生きたかを知るには不十分である。ジグソーパズルに例えると、今回公表された「昭和天皇実録」によって中央の大きなピースがようやく埋められたことになるのだ。それだけでなく、これまでに公表された史料や関係者の日記に記載されていた事柄の裏付けを取ることができるようになった。


先日放送された「NHKスペシャル 新・映像の世紀」第1集では、皇太子だったころ昭和天皇が第一次世界大戦後の戦場を訪れ、その悲惨極まりない光景を目にされたことが紹介されていた。このとき昭和天皇は戦争はけして起こしてはならないと決意されたのである。

にもかかわらず、なぜ日本は太平洋戦争への道を突き進むことになってしまったのであろうか?

昭和天皇は終戦まで陸軍海軍を統率する大元帥であり、戦争開始を命令したご本人であることは歴史上の事実である。昭和天皇が「戦争はしない。」と強く主張すれば回避できたのかもしれない。

しかし、当時の日本は明治憲法(大日本帝国憲法)に基づいた立憲君主制だ。昭和天皇といえども憲法や帝国議会の決定を無視するわけにはいかない。議会や政府、行政に対して強い影響力をもっていた軍部の暴走を抑えることはついにできなかった。

戦争中も昭和天皇に奏上される戦況報告は真実とは程遠く、軍部に都合のよいものがほとんどだった。そのように嘘に囲まれた状況で本当の戦況を知るために昭和天皇は海外から放送されている短波放送をお聞きになっていたことも「実録」で明らかにされたのだという。

国のトップであるがゆえに腹を割って話せる相手がいない状況で正しい判断をしなければならない。戦前から終戦後にかけて苦悩されていたこと、不信感を抱いている軍や政府の要人は何度も呼びつけて問いただしたり叱責をされていたことが「実録」の記述から読み取れるそうだ。

昭和天皇自身のご発言にも一見矛盾した、一貫性のない場合があることもわかるそうだ。それはご自身に「大元帥」、「立憲君主」そしてこれらの上に大祭司という「大天皇」というお立場があり、それぞれの立場からのご発言であるからなのだという。また、奏上を受けている際には相手の立場や考え方によって発言内容も異なってくるそうだ。

戦前、昭和天皇の情報源は公式なお立場から受ける報告や記録映画などが主であったが、戦後になると好んで映画やテレビをご覧になっていたそうだ。庶民の生活を描いた映画や「トラ・トラ・トラ!」という真珠湾攻撃をめぐる両国の動きを題材に据え、日本との合同スタッフ・キャストで制作された1970年に公開のアメリカの戦争映画もご覧になっていたという。メディア革命の影響は一般庶民だけでなく昭和天皇にも同様に及んでいたことが実録にも紹介されている。


この他にもご幼少期のご様子、関心をお持ちになっていた事がら、他の皇族方に対する接し方、終戦から戦後のことまで、初めて知ることばかりなので興味が尽きない。苦悩されていただけでなく、何を楽しみ、物事に対してどのようにお感じになっていたのかなど、ひとりの人間としてのお姿をうかがい知ることができる。

「昭和天皇実録」の公刊本は厖大なのであえてお勧めしないが、この新書版だけでもお読みになってみるとよいだろう。

今年は昭和90年、昭和天皇がご存命であれば御年115歳である。

激動87年の生涯 昭和天皇 1901年~89年(御生誕から崩御されるまでの写真)
http://mainichi.jp/feature/koushitsu/showa/chronology.html


余談: 先日「吾輩は猫である」を紹介したばかりだが、本書の著者のひとり半藤一利さんの義祖父は夏目漱石であるそうだ。(ウィキペディアの記事


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「昭和天皇実録」の謎を解く (文春新書)」(Kindle版



第一章 初めて明かされる幼年期の素顔

大正十年~昭和十六年
父母へ宛てた手紙の全文公開、科学と歴史へご興味、いたずらをして叱られる様子。生き生きとした記述の中に、四歳で日本海海戦の戦況報告を聞き、乃木大将の死に涙する姿も。

第二章 青年期の栄光と挫折

昭和六年~昭和十一年
戦争の悲惨さを知った欧州訪問は、後に「自分の花であった」と述懐するほどの輝く思い出に。二十五歳で即位した若き君主が直面したのは関東軍の暴走、治安維持法改正の難題だった。

第三章 昭和天皇の三つの「顔」

昭和十二年~昭和十六年
陸海軍を統べる大元帥、立憲君主としての天皇、これらの上に大祭司という「大天皇」がいる。満州事変から二・二六事件へ。軍部は天皇の異なる立場を巧みに利用しようとする。

第四章 世界からの孤立を止められたか

昭和十六年
昭和天皇は、日中戦争が長期化すると予測し得たか。三国同盟の先を見据えた外相・松岡洋右の大構想とは?天皇からの視点で開戦前の日本外交を点検する。

第五章 開戦へと至る心理

昭和十七年~昭和二十年
戦争に断固反対だった天皇が、開戦の決意をしたのはいつか。御前会議、大本営政府連絡会議、統帥部奏上の克明な記録から、「開戦やむなし」と追い込まれていったプロセスをたどる。

第六章 天皇の終戦工作

昭和二十年~昭和二十二年
陸軍が本土決戦を叫ぶ中、天皇自ら終戦への一歩を踏み出す。信頼する軍人からの情報収集、六月十五日の「空白の一日」、皇太后との関係から浮かび上がる「聖断」の背景。

第七章 八月十五日を境にして

昭和二十年~昭和六十三年
占領下で新たにクローズアップされる「国体」の問題。退位と戦争責任、マッカーサー会見、沖縄発言の矛盾。「立憲君主」と「象徴天皇」の枠組みの中での天皇像を探る。

第八章 "記憶の王"として

「独白録」と「拝聴録」。記憶はどう紡がれるのか。晩年に再訪した欧州での苦い経験、初めての訪米。激動の八十七年、最後に刻まれたものは?
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