とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

虚数の情緒 - 中学生からの全方位独学法

2006年06月08日 02時59分11秒 | 物理学、数学
虚数の情緒 - 中学生からの全方位独学法

内容:
本書は、その中心に数学を据え、人類文化の全体的把握を目指した科目分類に拘らない独習書である。歴史、文化、数学、力学、原子、脳科学など多くの分野が、虚数を軸に、悠然たる筆致で書かれている。漢字、電卓の積極活用など、他に例のない独特のものである。
2000年2月刊行、1032ページ。


4月22日の日記に書いた「オイラーの贈物」の著者である吉田武さんによる大著である。副題に「中学生からの全方位独学法」とあるように科学方面に意欲旺盛な中学生以上を対象として、数学の発生から20世紀の最新物理学まで歴史をたどる。予備知識は不要とはいえ、やはり数式の理解は必要で最後のほうの章では量子論を解説するために微分方程式を使っているから「その直前までなら予備知識なしでも全部理解できる」と思う。

書店でこの本を見つけたとき、まずページ数と構想の大きさに驚いた。1000ページほどあり「広辞苑」とほぼ同じサイズだ。最初の80ページは著者の数学教育の想いや教育はこうあるべきだとか、子供はこう勉強すべきだなどの教訓で占められている。数学の話が具体的にはじまるのは130ページほど読み進んだ第2部からで、ここからがおもしろくなる。(それ以前のページは不要だと思った。)

数のはじまりから大学教養課程の数学まで丁寧にたどっているのが第2部。教科書では絶対に見られない「逸話」や「背景」のような解説がもりだくさんで、楽しく感動しながら勉強できる。必要性が数学を生むというのはこういうことなのだなといちいち納得できるのがいい。虚数の存在価値が全数学の合流点であることであることを示すのが第2部の目的なので、そこにたどり着くまでがこの本の範囲。微分法、積分法についてはほとんど解説されていないのがちょっと残念。第3部を読むためには微積分の知識があったほうがいいから。

620ページあたりからはじまる第3部は振子の話を中心に据えた物理学の話。光や電気、電波など身の回りで経験できる物理現象はほとんどすべて「振子現象」なのだ。そして振子現象の理解には虚数の知識が欠かせない。特に感動したのは量子論の説明の中で、光が直進することをまったく新しい方法で導き出したファインマンの考え方だ。1つの電子が2つのスリットを同時に通り抜ける量子論の考え方を光子に応用し、1つの光子は可能なすべての経路を同時に進み、その最短経路(すなわち直進)以外の経路が消滅することを示した。この考え方を知っただけでもこの本を読んでよかったと思えた。

本の帯にはこんな風に書いてある。

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宇宙は、人類は、如何にして誕生したか?
古代の粘土板は何を物語っているのか?
誰が、何の目的で、数学を作ったのか?
何故「数学」を学ばねばならないのか?
「虚数」は存在するのか、しないのか?
量子力学とは、場の量子論とは、何か?
最新脳科学は何を基盤としているのか?

答えは全てこの本の中にあります!
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あと、雑学っぽい話題も豊富である。2つ例をあげると大きい数の単位の話。
日本語では「兆」の1000倍は「京」であるとか、最後は「無量大数」になるという話は教科書にも掲載されている。全部の単位はここで確認できる。この本では英語の場合も書いてあることだ。次のとおり。

million, billion, trillion, quadrillion, quintillion, sextillion, septillion, octillion, nonillion, decillion, undecillion, duodecillion, tredecillion, quantuordecillion, quindecillion, sexdecillion, septendecillion, octodecillion, novemdecillion, vignitillion だそうだ。
このページでそれらが大きい数なのか確認できる。(UKとUSでは異なるので注意)

また、コンピュータの世界ではメガ(M)とかギガ(G)とかいう単位が使われるが、その上にもまだまだある。

キロ(Kilo)、メガ(Mega)、ギガ(Giga)、テラ(Tera)、ペタ(Peta)、エクサ(Exa)、ゼッタ(Zetta)、ヨッタ(Yotta)....

テラバイトのハードディスクの次はペタバイトになるわけ。


この本については、いろいろな方がレビューを書いているので参考にしてほしい。

「虚数の情緒」:アマゾンでレビューを見てみる

レビュー1:このレビューがいちばん詳しい。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1005.html

レビュー2:
http://www.astrophotoclub.com/kyosuu.htm


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虚数の情緒 - 中学生からの全方位独学法



第I部 独りで考える為に
0章 方法序説:学問の散歩道
0.1 数学教育の問題点
 0.1.1 数学は積み重ねか
 0.1.2 数学は暗記科目か
 0.1.3 数学は役に立つか
0.2 選択の自由と個性
 0.2.1 選択の自由とは何か
 0.2.2 個性とは何か
 0.2.3 生き甲斐とは何か
0.3 子供とは如何なる存在か
 0.3.1 子供は無邪気か
 0.3.2 子供は自分をどう見ているか
 0.3.3 「民主主義」とは何か
0.4 文明と文化と
 0.4.1 読書の意味
 0.4.2 時代の表記法:干支と元号
0.5 「科学」と「技術」
 0.5.1 歴史小説と歴史年表
 0.5.2 狩猟民族としての科学者
 0.5.3 適性を見抜く
 0.5.4 高次のロマンを求めて
0.6 物理と数学の関係
 0.6.1 数式と記号:なぜ数式を用いるのか
 0.6.2 推論の道具として
 0.6.3 帰納と演繹
 0.6.4 特殊から一般へ
0.7 数学を敬遠するとどうなるか
 0.7.1 人を愉しませる文化
 0.7.2 無意味な区分け
 0.7.3 二分法を越えて
 0.7.4 マスコミの影響
 0.7.5 人文嫌いは何故生まれるか
 0.7.6 数学に挑む
0.8 知性の誕生
 0.8.1 宇宙の誕生
 0.8.2 物質の誕生
 0.8.3 星の誕生
 0.8.4 太陽、地球、そして生命の誕生
 0.8.5 人類の誕生
 0.8.6 文化の誕生
 0.8.7 我々は如何なる存在か
0.9 旅立ちの前に
 0.9.1 研究とは何か
 0.9.2 ものの見方
 0.9.3 過去の全人類の頭脳の集約として
 0.9.4 第一部の終りに

第II部 叩け電卓!掴め数学!
1章 自然数:数の始まり
1.1 すべては自然数から始まる
 1.1.1 素読の勧め
 1.1.2 計算の初め:九九
1.2 計算の規則
1.3 数の原子:素数
 1.3.1 素数と素因数分解
 1.3.2 エラトステネスの篩
1.4 約数と倍数
 1.4.1 原子論
 1.4.2 数の原子論
1.5 奇数と偶数
1.6 空きの記号「0」
 1.6.1 記数法:10進数
 1.6.2 指数法則
 1.6.3 記数法:60進法
2章 整数:符号を持つ数
2.1 数としての「0」
2.2 自然数から整数へ
 2.2.1 整数の持つ方向性
 2.2.2 指数法則:整数の場合
 2.2.3 整数の濃度
2.3 暗算の秘術
 2.3.1 法則を探る
 2.3.2 式の展開と因数分解
2.4 パスカルの三角形
2.5 基本的な図形の持つ性質
 2.5.1 太陽光線と同位角
 2.5.2 三角形の内角の和
 2.5.3 地球を測った男
 2.5.4 図形の等式:合同とは何か
 2.5.5 図形の拡大と縮小:相似とは何か
2.6 三平方の定理
 2.6.1 ピタゴラス数
 2.6.2 プリンプトンNo.322
2.7 フェルマー・ワイルスの定理
3章 有理数:比で表せる数
3.1 分数の加減乗除
 3.1.1 足し算・引き算
 3.1.2 掛け算・割り算
3.2 電卓のホラー表示
3.3 小数の種類
 3.3.1 有限小数と無限小数
 3.3.2 循環小数の「新しい表現」
3.4 少数の表し方
 3.4.1 10進数の指数表記法
 3.4.2 2進数ととエジプトの数学
 3.4.3 2進小数
3.5 電卓の誤差
3.6 小数と分数:相互の変換
3.7 計算の精度
3.8 バビロニアン・テーブルの秘密
3.9 有理数の濃度
4章 無理数:比で表せない数
4.1 帰謬法の考え方
4.2 無理数と少数の関係
4.3 ギリシャの思想と無理数
 4.3.1 タレス
 4.3.2 ピタゴラス
 4.3.3 もう一つの粘土板
 4.3.4 プラトン
 4.3.5 洞窟の比喩とイデア論
4.4 平方根の大きさを見積る
4.5 無理数の居場所
4.6 無理数と有理数の関係
 4.6.1 指数法則:有理数の場合
 4.6.2 無理数を近似する有理数
 4.6.3 指数法則:無理数の場合
4.7 数を聴く・音を数える
 4.7.1 ピタゴラス音律
 4.7.2 純正調音律
 4.7.3 十二平均律
4.8 無理数の「循環する表現」
5章 実数:連続な数
5.1 実数の連続性
 5.1.1 繰り返し計算の行き着く先
 5.1.2 数の減り方
5.2 実数の濃度
5.3 数と方程式
 5.3.1 式に関する用語
 5.3.2 一次方程式の解法
 5.3.3 方程式と関数
5.4 座標と関数のグラフ
 5.4.1 グラフと座標
 5.4.2 一次関数のグラフ
 5.4.3 連立方程式とグラフ
 5.4.4 座標の交換
5.5 等号の意味と怪しい用法
 5.5.1 等号の用法
 5.5.2 英文法と等号
5.6 実数の濃度と平面の濃度
6章 実数:拡張を待つ数
6.1 二次方程式
 6.1.1 根の公式
 6.1.2 誤差と相対誤差
6.2 円周率を求める
 6.2.1 三平方の定理と漸化式
 6.2.2 桁落ちを避ける
 6.2.3 角度と弧度
6.3 二次方程式と二次関数
 6.3.1 二次関数の最大値と最小値
 6.3.2 接線の傾きと極値
 6.3.3 関数の連鎖
 6.3.4 等積変形から反比例へ
6.4 平方根を四則から求める
6.5 美の論理と自然の神秘
 6.5.1 複写用紙の幾何学
 6.5.2 黄金分割
 6.5.3 見事な,余りにも見事な
 6.5.4 フィボナッチの数列
 6.5.5 黄金数とフィボナッチ数の精妙な関係
6.6 天才・アルキメデスの剛腕
 6.6.1 不世出の天才の業績
 6.6.2 取り尽くし法
 6.6.3 二段階帰謬法
7章 虚数:想像された数
7.1 虚数の誕生
7.2 数の多角形
 7.2.1 1のn乗根
 7.2.2 ガウスの素数
 7.2.3 アイゼンシュタインの素数
7.3 二次方程式と確率
 7.3.1 サイコロの確率
 7.3.2 虚根の確率
7.4 誕生日と確率
 7.4.1 鳩の巣論法
 7.4.2 誕生日と鳩の巣
7.5 階乗と「いろは歌」
7.6 虚数の情緒
 7.6.1 数学と感情 
 7.6.2 虚数への旅路を振り返る
 7.6.3 原子と光の物理学:万物は虚数である
 7.6.4 時空の物理学:世界は虚数である
 7.6.5 我々は虚数である
8章 指数の広がり
8.1 指数法則の復習
8.2 指数関数
8.3 指数関数の近似とネイピア数
 8.3.1 指数関数を近似する
 8.3.2 新しい定数
 8.3.3 近似式の威力
8.4 近似の程度を高める
8.5 指数関数の連鎖
8.6 指数関数の逆の関係
 8.6.1 指数法則の裏返し
 8.6.2 手動計算機を作ろう
9章 虚数の狭間:全数学の合流点
9.1 虚々実々なる関係
 9.1.1 eの虚数乗を求める
 9.1.2 虚数単位を指数で表す
 9.1.3 周期性を探る
 9.1.4 虚数の虚数乗を求める
9.2 幾何学との関係
9.3 三角関係
9.4 オイラーの公式
9.5 オイラーの公式の応用
 9.5.1 指数法則の利用:加法定理の導出
 9.5.2. 三角関数の連鎖
9.6 三角関数の値の新しい系列
 9.6.1 1のn乗根の利用
 9.6.2 正多角形の利用
9.7 粘土板は古代の電卓か
9.8 何故「年代」が判るのか
 9.8.1 ミクロとマクロを繋ぐもの
 9.8.2 放射性同位体と半減期
9.9 一つの旅を終えて

第III部 振子の科学
10章 物理学の出発点:力学
10.1 問題設定と実験の準備
 10.1.1 ゴジラの悩み
 10.1.2 振子を作る
10.2 基本的な事柄
 10.2.1 「静止」を考える:作用・反作用の法則
 10.2.2. 掌の上のボール:重さと質量
 10.2.3 振子の台を動かすと
 10.2.4 斜面の実験と慣性
10.3 運動に関する用語
10.4 ガリレイの探究
 10.4.1 斜面から落下へ
 10.4.2 重力加速度を測る
 10.4.3 落下の法則
 10.4.4 水準器と加速度計
 10.4.5 大自然の制約
10.5 ニュートン力学
 10.5.1 微積分の発見
 10.5.2 ニュートンの三法則
10.6 重さと質量とバネ秤
10.7 運動量の保存法則
 10.7.1 空間の一様性
 10.7.2 ロケットの推進原理
10.8 回転運動の基礎
 10.8.1 重力の中心:バットの重心を求める
 10.8.2 回転の基礎方程式
 10.8.3 「梃子」と「天秤」
10.9 エネルギーとは何か 
 10.9.1 仕事とエネルギー 
 10.9.2 力学的エネルギーの保存
10.10 温度と分子の運動
 10.10.1 経験的温度目盛
 10.10.2 気体分子運動論
10.11 相対論と三平方の定理
 10.11.1 「運動」を見る二つの立場
 10.11.2 動く座標の考え方
10.12 運動量保存則の応用:体育との関係
 10.12.1 野球:打撃用語の確立
 10.12.2 「壁」を調べる
 10.12.3 反射の法則:ビリヤード
 10.12.4 反射の法則:打撃への応用
 10.12.5 回転の中に隠された直線運動
10.13 音による打撃の解析
 10.13.1 「素振りの音」の物理学:順問題の解析
 10.13.2 「素振りの音」の物理学:逆問題の解析
11章 重力と振子の饗宴
11.1 調和振動子
 11.1.1 理想の振子
 11.1.2 調和振動子とその解
 11.1.3 線型方程式と数ベクトル
 11.1.4 曲芸的計算
 11.1.5 解を調べる
 11.1.6 古典力学の因果律
11.2 実際の振子の運動
 11.2.1 振子を動かす力
 11.2.2 運動方程式と振子の周期
 11.2.3 振子による重力加速度の測定
 11.2.4 サイクロイド振子と橋渡し振子
11.3 振子の応用
 11.3.1 身体の中の「振子」
 11.3.2 現実の振子
 11.3.3 バットの振り心地
11.4 最短時間バット軌道
11.5 急がば回れ:トライアスロンと屈折率
11.6 様々な振子
 11.6.1 遅い振子:やじろべえ,逆さ振子
 11.6.2 速い振子:二本吊り振子
 11.6.3 連成振子:ブラックバーン振子
 11.6.4 減衰振子:ドア・クローザーと糖尿病
 11.6.5 強制振子:共振現象
 11.6.6 音の足し算:フーリエ級数
11.7 隠れた振子
 11.7.1 自励振動:はためく旗
 11.7.2 乗り物の自立安定性に就いて
 11.7.3 反撥係数と 「送りバント」
 11.7.4 パラメータ励振:揺れるブランコ
11.8 宇宙へ誘う振子
 11.8.1 ナイルの曲線
 11.8.2 フーコーの振子
12章 波と粒子の狭間で
12.1 波動方程式
 12.1.1 波とは何か
 12.1.2 波動方程式を求める
 12.1.3 弦の運動
12.2 干渉と回析
 12.2.1 波の干渉
 12.2.2 波と複素ベクトル
 12.2.3 二つのスリット
 12.2.4 回析格子
 12.2.5 「一つのスリット」での回析
 12.2.6 ヤングの実験の解析
12.3 光学と電磁気学と
 12.3.1 マックスウェル方程式
 12.3.2 光の歴史
 12.3.3 量子の革命
12.4 量子力学の基礎
 12.4.1 文学部卒・ノーベル物理学賞受賞
 12.4.2 シュレーディンガー方程式の発見的導出
 12.4.3 基本粒子の世界
 12.4.4 不確定性原理
 12.4.5 交換関係
 12.4.6 波動関数とは何か
12.5 電磁場の量子化
 12.5.1 量子力学に於ける振子
 12.5.2 演算子の計算
 12.5.3 場から粒子へ
12.6 径路の魔術:量子電磁力学
 12.6.1 君は何処からやって来たのか
 12.6.2 光は何故その場所を知っているのか
 12.6.3 光は本当にすべての径路を通っているのか
 12.6.4 光は真っ直ぐ進まない
 12.6.5 踊る光子の不思議な絵
12.7 場の量子論:そして「量子脳力学」へ
 12.7.1 場の量子論の誕生
 12.7.2 「場」と「真空」
 12.7.3 ボソンとフェルミオン
 12.7.4 「自発的対称性の破れ」とは何か
 12.7.5 南部・ゴールドストーン粒子
 12.7.6 脳の機能:記憶の物理理論
 12.7.7 量子脳力学
 12.7.8 「フェルミオン思考」から「ボソン思考」へ
 12.7.9 若きハムレット達に捧げる

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