とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

線形代数と群の表現 II:平井武

2011年08月24日 20時51分13秒 | 物理学、数学
線形代数と群の表現 II :平井武

第1巻の記事を書いてから2週間ほどかけて、この第2巻を読み終えた。この2冊は物理学を学ぶ人にとってとても有意義だという思いを強く持った。

本書は出版社のページでこのように紹介されている。

「現代数学における「抽象化された群」にできるだけ自然に接近することを試みる。〔II巻内容〕ロバチェフスキーの双曲型非ユークリッド空間と運動群/他」

====== 本の紹介 ==============
必要なときに無駄なく「線形代数」の知識を学習しながら、アーベル、ガロアから始まったとされる「群の理論」を学び、群の本質は、それがある対象に「作用する」ことであることを、種々の具体例から会得して、群の「作用」の数学的純化としての「群の表現」の理論を、現代の物理学など自然科学への応用例を具体的に計算することを通して実感的に体得する。そして、これらを通して現代数学における群やリー環の表現論を理解する。ローレンツ群やユークリッドの運動群を扱いながらSLやSOなどの行列群の表現を学び、最終的には「群の無限次元表現論」 への導入を目指す。全体的に物理との関わりを意識し、物理的な内容からの例が豊富に 盛り込まれている。群論や線形代数の内容を扱いながらここまで物理的な例を導入したという点で他書に例はない。
===============================

第1巻で二面体群や多面体群など、幾何学的な図形をテーマに群やその表現論を学んだ後、この第2巻では物理学の研究対象としての「空間」や「電磁気学」、「量子力学」、「素粒子物理学」などへ作用する群やその表現論を学ぶことができる。

「空間」として取り上げられるのはニュートン力学でのユークリッド空間をはじめ、双極型や楕円型の非ユークリッド空間も含まれる。特に特殊相対性理論にかかわるのはミンコフスキー空間、そしてそこに距離の概念を入れたロバチェフスキー空間だ。ローレンツ群と呼ばれる群がロバチェフスキー空間における運動群となる。

物理学の異なる分野の対象に群の分類、群が空間などの対象に作用すること、群の既約表現、既約指標などがどのように関連しているのを知る上で貴重な本だといえよう。

第1巻に比べて定理の証明を省略している箇所が多くなっている。特に第2巻の中盤以降「群の表現論と現代物理学」ではそれが目立つ。ページ数の制限があるためそれも仕方がないだろう。

素粒子物理学と群の関わりについて、大まかな記述ではあったが、そのあらましを知ることができたのは、僕にとって収穫だった。ほんの少しでも雰囲気を知ることは、今後のこの分野を学ぶときに役に立つに違いない。

今回の2冊を読んで「群」という数学的な実在性と物理的で扱われる対象の実在性についての思いを何度もめぐらせた。これほどさまざまな物理的な局面で物事に「群」が精緻な有りようで関わっていても、それが「実在的な何か」だと僕にはどうしても思えない。量子力学における電子の波動関数のほうが(複素数ではあるが)実在性を帯びているように思えてしまう。それにも関わらず「群」が広い支配力を持っていることには人知を超えた何かを感じざるを得ない。

リー環論やリー環の表現については、本書では最後にさらっと解説されているだけなので注意が必要だ。リー環については「連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫」など他書をお読みになるとよい。


第1巻、第2巻を通じて僕の理解度は8割5分というところ。理解しきれなくても得るものが多く、読後感も充実しているので物理学専攻の学生には絶対に読んでもらいたい本だと思った。

なお、「はじめに」で著者が書いている「元気な高校生ならば理解できる本」という紹介についてであるが、もしそれを「数学オリンピックに出場するような高校生」とか「開成高校や灘高でトップレベルの生徒」ということならば、僕も否定はしない。そのようなレベルの生徒ならきっと高校時代から線形代数や群論などを先取りして学んでいると思うので。

すでに紹介記事を書いた「群と表現:吉川圭二」とは優劣を比較することができない。どちらも特色のある本なので両方ともお読みになるとよいだろう。


量子現象の数理:新井朝雄」の第4章「量子力学における対称性」を読むために群の表現論の勉強を始めたのだが、同じテーマでもう1冊、分厚い本で総仕上げすることにした。

しかし、その前にブログ記事として紹介したい位相数学の本がでてきたので、次に読むのは「はじめよう位相空間:大田春外」と「解いてみよう位相空間:大田春外」である。こちらは「普通の元気な高校生」でも読める本だ。


以下は出版社のHPにある本書(第1巻、第2巻)の解説ページである。

線形代数と群の表現 I :平井武
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11496-6/

線形代数と群の表現 II :平井武
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11497-3/


購入は以下のリンクからどうぞ。

線形代数と群の表現 I :平井武
線形代数と群の表現 II :平井武

 


関連記事:

線形代数と群の表現 I :平井武
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3e510783ca6272470f4c9b04f239c425

群と表現:吉川圭二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35c16a71ff26b71d6ffc8c2c4730439f


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線形代数と群の表現 II :平井武

I. 非ユークリッド空間・ユークリッド空間と物理学
1. 球面および楕円型非ユークリッド空間の運動群
 1.1 n次元単位球面Snの上の球面的距離
 1.2 Snの運動群としての回転群SO(n+1)
 1.3 単位球面Sn上の幾何
 1.4 平行線の公理あれこれ
 1.5 楕円型非ユークリッド空間とその運動群
2. ミンコフスキー空間,ロバチェフスキー空間とローレンツ群
 2.1 ミンコフスキーの時空の空間とローレンツ群
 2.2 特殊ローレンツ変換とローレンツ収縮
 2.3 ローレンツ群の構造
 2.4 (n+1)次ローレンツ群SO0(n,1)の1径数部分群による表示
 2.5 n次元ロバチェフスキー空間
 2.6 双曲線による曲線座標と双曲的回転
 2.7 ローレンツ群はロバチェフスキー空間の運動群
3. 線形代数基礎
 3.1 ベクトル空間に対する同型定理
 3.2 有限次元ベクトル空間上の内積
 3.3 正方行列の正則性
 3.4 ベクトルの1次独立性と行列の正則性
 3.5 行列に対する(列)基本変形と数ベクトル空間
 3.6 行列の(行)基本変形と階数
 3.7 基本変形による逆行列の計算
 3.8 連立1次方程式の解法:係数行列の簡約化
 3.9 有限次元ベクトル空間の基底と次元
4. ロバチェフスキー空間上の幾何学,ローレンツ群と分数変換群
 4.1 ロバチェフスキー空間Lnの直線と平面
 4.2 ロバチェフスキー空間は双曲型非ユークリッド空間
 4.3 ロバチェフスキー平面と複素平面の単位円板,分数変換
 4.4 開単位円板D上の非ユークリッド幾何学
 4.5 ロバチェフスキー平面と複素上半平面,分数変換群
 4.6 4次固有ローレンツ群SO0(3,1)とその被覆群SL(2,C)
5. ニュートン力学とユークリッド運動群
 5.1 ニュートンの運動の3法則,とくにニュートンの運動方程式
 5.2 ガリレイの自然運動の研究,ケプラーの惑星運動の3法則,そして万有引力
 5.3 リンゴはなぜ落ちるか,そして,月はなぜ落ちてこないか
 5.4 ユークリッド空間の座標変換とユークリッド運動群
 5.5 ガリレイ変換による運動方程式の共変性
 5.6 質量が時間変化する場合:運動方程式と運動量

II. 関数への群作用と群のユニタリ表現
6. ベクトル値関数への群作用と1-コサイクル
 6.1 ベクトル値関数への群作用の一般形
 6.2 ベクトル値関数とその変換の例(宇宙船の月周回)
 6.3 ベクトル値関数とその変換の例(大陽風の記述)
 6.4 運動と座標変換との双対性
 6.5 座標変換によって生ずるベクトル値関数の変換(重力場)
 6.6 群SL(2,R)による分数変換とそれによる関数の変換
 6.7 高々n次の多項式の空間Pn上での表現(有限次元既約表現)
 6.8 1-コサイクルの同値性と群の線形表現の同値性
 6.9 複素平面の上半平面上の分数変換と1-コサイクル
 6.10 複素平面の単位円板上での分数変換と群SU(1,1)
 6.11 射影空間と射影変換群,1-コサイクルの例
7. 線形代数中級
 7.1 ベクトル空間のテンソル積,写像のテンソル積
 7.2 テンソル積空間上の線形写像
 7.3 群の表現論より{直積群の外部テンソル積表現}
 7.4 群の表現論より{線形表現のテンソル積}
 7.5 ベクトル空間から生成される外積代数
 7.6 群の表現論より{表現のk階のテンソル積とk次対称群の作用}
 7.7 2階のテンソル積空間と正方行列のなす空間との同型
 7.8 n次正方行列の行列式
 7.9 n個のベクトルの外積と平行多面体の体積
8. ”積分”に対する群作用,それから生ずるユニタリ表現
 8.1 実数直線上の分数変換と群SL(2,R)のユニタリ表現
 8.2 変数変換による積分の変換
 8.3 上半平面上の不変積分と群SL(2,R)のユニタリ表現
 8.4 単位円板上の分数変換と群SU(1,1)のユニタリ表現
 8.5 非ユークリッド平面としての単位円板と3次元ローレンツ群
 8.6 不変測度・準不変測度の例

III. 群の表現論と現代物理学
9. 表現論中級
 9.1 そのアイディア
 9.2 部分群の表現からの誘導
 9.3 二面体群Dnに対する誘導表現の計算
 9.4 交代群A4に対する誘導表現の計算
 9.5 対称群S5に対する誘導表現の計算
 9.6 表現の部分群への制限
 9.7 対称群S5と交代群A5の表現の関係
 9.8 n次回転群SO(n)のSO(n-1)からの誘導表現
 9.9 n次ローレンツ群の1つの準正則表現
 9.10 付録:準不変測度を用いた誘導表現の実現
10. 表現論過去・現在
 10.1 有限群とその表現は生まれたときから一緒
 10.2 表現の行列要素の直交関係
 10.3 群の正則表現の既約分解(ペーター_ワイルの定理)
 10.4 群の表現の指標
 10.5 回転群SO(3)およびユニタリ群SU(2)の表現
 10.6 群の線形表現の重要性
 10.7 有限次元から無限次元への飛躍
11. ローレンツ群・ユニタリ群と現代物理学
 11.1 アインシュタインの特殊相対性理論とローレンツ群
 11.2 ローレンツ群の自然表現の2次のテンソル積
 11.3 電磁場に対するローレンツ変換
 11.4 電磁場のマクスウェル方程式はローレンツ変換で不変
 11.5 ユニタリ群SU(n)のテンソル積表現
 11.6 素粒子のユニタリ群による対称性
 11.7 リー環を使ったアプローチ
12. 編集者短評
13. 索   引
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6 コメント

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思考は実在? (hirota)
2011-09-08 17:38:43
思考が実在なら群も実在でしょう。
返信する
Re: 思考は実在? (とね)
2011-09-08 18:26:08
hirotaさん

思考が実在なら鏡映対象のhirotaさんや僕も実在してしまいますねぇ。。

極論すればF=maなどの「法則が成り立つ」というのと同じ程度(?)で存在(?)するようにも思えます。
返信する
言葉だけ存在 (hirota)
2011-09-09 10:11:13
群は明確に存在が分かるのに対して、鏡映の僕てのは存在がどうなってるのか想像できません。
もちろん光学的映像なら明確ですが、自立した別の僕が現れたら何考えてるのか分からなくて結構不気味ですね。
話してみて自分と同じ事しか言わなかったら、これまた混乱しますが。
結局、自分自身のことは分かってないから、自身は思考的実在ではない、観測される物理的実在である、ということです。
というわけで、別の自分が物理的に出現するまでは思考的にも物理的にも実在ではない。
返信する
Re: 言葉だけ存在 (とね)
2011-09-09 10:59:41
hirotaさん

> 話してみて自分と同じ事しか言わなかったら、これまた混乱しますが。

僕も自分自身のクローン(恒等写像)や「鏡映とねさん」が自分の真似していたら、気持ち悪いです。(笑)

「吾思う、ゆえに吾あり。」ということで自分自身は実在することは認めるとして、群の実在性というのは結局「対称性」や「超対称性」という法則や概念が実在する、ということを主張しているのと同じ程度のような気がしてきました。

電場v.s.電子、磁場v.s.モノポールという対応関係から予想されるモノポールもどうやら実在ではないようですし。
返信する
モノポール (hirota)
2011-09-13 13:16:59
でも大統一理論が当たってれば実在かも。

スーパーカミオカンデで陽子崩壊が観測されてませんから、一番簡単な大統一理論は否定されてますが。(これがカミオカンデの元々の目的だったことなんて忘れられてるのでは?カミオカンデは神岡核子崩壊実験の略)

モノポールは陽子崩壊の触媒になるそうですから、見つけたらエネルギー問題解決ですね。(反物質爆弾と同じだから、丸ごと消滅かも)
返信する
Re: モノポール (とね)
2011-09-13 15:30:02
hirotaさんへ

大統一理論 -> モノポールの実在性

スーパーカミオカンデの観測結果 -> 陽子崩壊の有無 <- モノポールの触媒としての役割

なんだかスケールの大きな話です!


返信する

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