PM7:00に2PMの事を考える

クリームソーダ的宇宙

アナウンサー!冬物語chapter.2

2014-02-11 13:00:00 | アナ冬

「サヤちゃん来週の火曜日、あけといて?」

ソファの上でふたりはまどろんでいた。

東京、浅草。

右太郎のマンション。

魔性の微笑みを浮かべながら右太郎はサヤ子を後ろから抱きしめた。

サヤ子はまどろみのなかで思う。

彼は出逢った頃よりも顔つきが精悍になった、と。

どこがどう変化したのか?と訊かれれば、体型も顔も何も変わっていない、としか答えられない。

しかし最近の彼の色気は目に見えて増しているし、なにより男としての自信に満ちている。

男の名は張本右太郎、プチテレビ・アナウンサー。

平日22時台のニュースを担当している。

一方恋人のサヤ子は女医。

土曜日の診察が終わる午後、オフの右太郎が病院まで迎えにきて、

そのあとの週末を一緒に過ごすのが定番となっている。

付き合って半年以上が経過し、ふたりの関係は安定している。

ソファの上でまどろみながら右太郎はサヤ子のを後ろから抱きしめる。

「サヤちゃん?」

いっそう密着し、サヤ子の肩に顔をのせ、甘える右太郎。

「来週の火曜日?祝日よね。病院は休みだけど、いったい何がある日なの?」

「賛成がアメリカから帰ってきてるんだ。

その日は賛成の誕生日だから、集まれるメンツでお祝いしようって事になっててさ」

「ふぅん…」

サヤ子は年末、右太郎の件—飛行機トラブルーでアメリカに行った際、

賛成と彼の恋人であるレイにはとても世話になった。

その賛成の集まりであれば顔を出すのが礼儀だろう。

だが−。

「どうかなあ?いきなりそういう内輪の場に私が行くの、変じゃない?」

「そんな事ない!お祝いつってもこじんまりしたものだし、プチの人たちばっかりだよ?

伊藤でしょ、紀村さんでしょ、…みんな彼女連れてくるんじゃないかな。あと玉澤さん」

”玉澤”

そのワードが右太郎の口から出た瞬間、サヤ子の目が泳いだ。

表情が見られない体制だったことに心底感謝する。

何事にも動じない精神に長けていると思っていたが、どうだろう、

右太郎の口から出た玉澤という言葉に動揺を隠しきれないでいる。

「サヤちゃんをやっとみんなに紹介できるな。楽しみだね?」

「…う、うん」

右太郎はサヤ子の返事に安心したのだろう。

ソファからたちあげるとお腹がすいたのか、キッチンで何かを探しはじめた。

(どうしよう、玉澤さんには会いたくない)

去年ー、

サヤ子は玉澤と不貞を働く寸前まで行った。

なにもなかった。

嘘ではない。

玉澤も、サヤ子が右太郎の恋人だとは知らない。いや名前すら知らない。

しかし、自分の愛を信じきっている右太郎の目の前で、玉澤に紹介されるなど—

絶対にいやだ。

「食べる?」

右太郎がチョコレートを差し出してくる。

かわいい、こころからサヤ子の愛を信じきっている顔で。

ううん、と首を横に振りながら微笑みを返すサヤ子は、しかし頭の中で、

できれば行かないで済む口実はないかを考えている。

麻布十番、スタ—バックス。

ふたりの男が話し込んでいる。

「なるほど。話はわかりました。しかし意外だな、あなたがそんな事を考えていたなんて。」

そう言ったのは長髪のスレンダーな男。

東京経済新聞の記者、城之内彰だ。

 

「ずっと考えてたことなんだ。いや、すぐにじゃない。

ホーリーが…堀辺さんがこんな状態のまま俺がプチから抜けるわけにはいかないからな?」

もう1人の男は、紀村俊。

彼はプチとアメリカの企業・JYグループの合弁会社で働いている。

役職こそあえて、つけていないものの、実質経営の中枢であり、ブレーンそのものだ。 

「何人かマサチューセッツ帰りの知り合いにあたってみますよ。

他の記者にも聞いてみます。いや、ITに聡い人材はたくさんいます。

ただあなたの代わりというのは、結構難しいかもしれませんね?」

紀村俊の開拓してきた道は唯一無二だ。

ITの黎明期に置いて彼の残した功績は大きい。

プチテレビを買収しようなどという暴挙に出なければ、いまでもサイパー.comの社長として敏腕をふるっていた逸材だ。

「ありがとう城之内くん、助かるよ。君は記者だし人脈も広い。こんなこと頼める相手は限られてる。あ、そういえば」

「はい?」

「このことはまだプチの面々には言わないでほしい。動揺させたく…ないからね?」

「わかってますよ。誰にも言いません。

それはそうと賛成の集まり、紀村さんも行きますよね?」

「ああ、行くよ。そういえば城之内くんは黄桜くんと旧知の仲なんだよね?」

「ええまあ、やんちゃしてたころの仲間っす」

城之内がタバコをふかす。

「あ、ここ禁煙だよ?」

「あ」

ふたりはお茶もそこそこに、店をでた。

紀村俊は六本木の自宅のほうへ歩きながらなにやら考えている。

—遠くないうちにプチを去る。

しかしそれはまだ、誰にも、恋人のミーコにも、言えないことだった。

 

−つづく−


 

「アナウンサー!冬物語」は下記からの続編です。

まずはこちら・アナウンサー!春物語 第1話はこちらから→

 http://blog.goo.ne.jp/ktam7pm/e/df22f4138795fe59124c72c361afa9bc

つぎにこちら・抱きしめて!聖夜(イブ) 第1話はこちらから→

http://blog.goo.ne.jp/ktam7pm/e/7637959c3f1ee9d122d1df584f237758

カテゴリーの「アナ春」からも読んでいただけます(^o^)

※この物語はフィクションであり実在の2PMとは一切関係ありません。


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