右太郎が去ったあと、虻川は呆然としてしまい、しばらくその場から動けないでいる。
コーヒーのおかわりをサーブしにきたウェイターが話しかけても気付かないほどに。
ハルナは君のものにはならない―
そんな言葉にはなんの根拠もないじゃないか、
そう思うのだが、虻川のまじめというのか、一本気すぎる性格は
第三者の断言を簡単には否定させてくれない。
カフェ・ラウンジの周りの客が何回転したころだろうか。
虻川はやっと立ち上がると、ラウンジをあとにし、ホテルの重い扉を開け外に出た。
もう日が落ちてきている。
初夏の夕凪のような生ぬるい風が虻川のほおをなでた。
自動的に足を動かし―、
右、左、右、左。
行くあてのないまま歩く。
体を動かしていないといられない。
これからいったいなにを考えればいいのか、
次に何をすればいいのかが自分自身わからない。
ここはどこなのだろう。
誰かに連絡しようにも、大阪にいた何年がで築いた濃い人間関係は東京には、なかった。
とてつもなく心細い。
大阪と、大阪の人々が、自分にとってどれだけ暖かい場所だったか
彼は今、感じていた。
そして誰よりも――、
自分のために骨を折ってくれた、”あの人”のことを――。
その時、
携帯が鳴った。
それは…
「…も、もしもし!!板東さん?!」
『…久しぶりだな。アブ、いまどこだ?』
「いま…ど?え?...どこでしょうね?」
きょろきょろと辺りを見回す。
どこなんだろう?
大きな交差点の道路標示を見あげて読み上げる。
「えっと、・・ないさ・・?ないさち・・?」
『は?』
「ないさちまち」
『あほか!内幸町(うちさいわいちょう)だろ!後ろ、向いてみ!』
虻川が後ろを振り返ると、そこに居たのは・・
板東容之輔だった。
―つづく―
アナウンサー!冬物語は下記からの続編です。
1、アナウンサー!春物語 第1話はこちらから→
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2、抱きしめて!聖夜(イブ) 第1話はこちらから→
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