第一章
1
いつも通り、授業の大半は寝ることでやり過ごした。
もう少し机が高ければ寝心地も良くなるんだろうが、そんなことに文句は言えない。
机の中の教科書類をまとめて教室の後ろのロッカーへ放り入れる。
早足で廊下を通りぬけて行く。今日の練習メニューは何だったか……
校舎を出て、部室に向かう――
部室には誰も居なくて、どうやら一番乗りのようだった。
ドアを開けてすぐのところに自分専用のメニューが書かれた紙が貼ってある。
うげっ、今日はダッシュからかぁ……
俺は陸上部に所属し、長距離種目を専門としている。
一定のペースで走り続ける分には良いのだが、常に全力のダッシュを何本も繰り返すのは正直疲れるので好きじゃない。
ただ、わがままを言っていても進歩は無いため黙々とメニューをこなすしかない。
さっさと着替えて、部室の外で準備運動を始めた。
他の部員がちらほら集まりだした頃には、俺は既にダッシュを繰り返していた。
「本気で上を目指したいやつには個別メニューを出す」
顧問が言っていた言葉を心の中で再生する。
「チーム練習には参加しなくていいが、きちんとメニューを消化するように」
リレーなどは例外だが、陸上のほとんどの種目は個人競技だ。
チームより個人を優先した方が実力が付くだろうと納得している。
部室の方から笑い声が聞こえてくる。腹立たしいが、怒りを地面に向けて駆け出す。
今は、他人のことなんてどうでもいい、とにかく結果を出すんだ。
自分に言い聞かせて、練習に打ち込んだ。
「お疲れ様、頑張ってるね~」
今日のメニューをすべて消化し、水道で頭から水をかぶっていると声をかけられた。
聞き間違えようの無い声。妹の美希だ。
「ああ、良い結果、出したいからな」
顔を上げずに答える。初夏とはいえ運動した後は暑くてしょうがない。冷たい水をいつまでも浴び続けていたいのだ。
「はやく着替えて一緒に帰ろうよ~」
数分の間水を浴び続けていたら、美希に腕を引っ張られた。
「ん、わかった」
水を止めて美希の方に目を向ける。
「はい、タオルだよ~」
「サンキュ」
タオルを受け取って、髪をわしゃわしゃと拭く。
最初から少し湿っていて、塩素の匂いに混じってどこかで嗅いだことのあるような甘い匂いが……
「って、これお前が部活で使った後じゃねぇか」
「えへへ、気付いた?」
「……っ!」
普通使ってないタオル渡すだろ、水泳部の美希さんよ。
「兄さんはどうせ拭く物持ってきてないだろうから、無いよりいいでしょ?」
「まあ、心遣いはありがたいが、この時期は放っておけばそのうち乾くから、今度からは使用したタオルは渡さないでくれ」
気恥しいからな!とまでは言わなかったが伝わっているだろうか。
……いや、伝わってないだろうな、何で?って顔してるもん。
――部室で着替えを終えて、美希と一緒に下校する。
隣から機嫌のいい鼻歌が聞こえてくる。
俺より20センチほど背の低い、美希を見下ろす。
夕日の色が、色素の薄い金色に近い髪の色に混ざり、輝いている。
「お前の髪の色、奇麗だよな」
鼻歌を止めて、ぱっとこっちを見上げてくる美希。とても嬉しそうな表情だ。
「えへへ……プールに入り過ぎて色が抜けちゃっただけだけどね」
美希はやや長い髪を手で自分の手で撫で下ろしながら恥ずかしそうにしている。
その笑顔は年相応か、それよりも幼く見えて、胸の奥の方が疼いた気がした。
……この笑顔をずっと守ってやりたいな。
俺が笑顔を取り戻せたのは、美希と沙希のおかげだから――
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いつも通り、授業の大半は寝ることでやり過ごした。
もう少し机が高ければ寝心地も良くなるんだろうが、そんなことに文句は言えない。
机の中の教科書類をまとめて教室の後ろのロッカーへ放り入れる。
早足で廊下を通りぬけて行く。今日の練習メニューは何だったか……
校舎を出て、部室に向かう――
部室には誰も居なくて、どうやら一番乗りのようだった。
ドアを開けてすぐのところに自分専用のメニューが書かれた紙が貼ってある。
うげっ、今日はダッシュからかぁ……
俺は陸上部に所属し、長距離種目を専門としている。
一定のペースで走り続ける分には良いのだが、常に全力のダッシュを何本も繰り返すのは正直疲れるので好きじゃない。
ただ、わがままを言っていても進歩は無いため黙々とメニューをこなすしかない。
さっさと着替えて、部室の外で準備運動を始めた。
他の部員がちらほら集まりだした頃には、俺は既にダッシュを繰り返していた。
「本気で上を目指したいやつには個別メニューを出す」
顧問が言っていた言葉を心の中で再生する。
「チーム練習には参加しなくていいが、きちんとメニューを消化するように」
リレーなどは例外だが、陸上のほとんどの種目は個人競技だ。
チームより個人を優先した方が実力が付くだろうと納得している。
部室の方から笑い声が聞こえてくる。腹立たしいが、怒りを地面に向けて駆け出す。
今は、他人のことなんてどうでもいい、とにかく結果を出すんだ。
自分に言い聞かせて、練習に打ち込んだ。
「お疲れ様、頑張ってるね~」
今日のメニューをすべて消化し、水道で頭から水をかぶっていると声をかけられた。
聞き間違えようの無い声。妹の美希だ。
「ああ、良い結果、出したいからな」
顔を上げずに答える。初夏とはいえ運動した後は暑くてしょうがない。冷たい水をいつまでも浴び続けていたいのだ。
「はやく着替えて一緒に帰ろうよ~」
数分の間水を浴び続けていたら、美希に腕を引っ張られた。
「ん、わかった」
水を止めて美希の方に目を向ける。
「はい、タオルだよ~」
「サンキュ」
タオルを受け取って、髪をわしゃわしゃと拭く。
最初から少し湿っていて、塩素の匂いに混じってどこかで嗅いだことのあるような甘い匂いが……
「って、これお前が部活で使った後じゃねぇか」
「えへへ、気付いた?」
「……っ!」
普通使ってないタオル渡すだろ、水泳部の美希さんよ。
「兄さんはどうせ拭く物持ってきてないだろうから、無いよりいいでしょ?」
「まあ、心遣いはありがたいが、この時期は放っておけばそのうち乾くから、今度からは使用したタオルは渡さないでくれ」
気恥しいからな!とまでは言わなかったが伝わっているだろうか。
……いや、伝わってないだろうな、何で?って顔してるもん。
――部室で着替えを終えて、美希と一緒に下校する。
隣から機嫌のいい鼻歌が聞こえてくる。
俺より20センチほど背の低い、美希を見下ろす。
夕日の色が、色素の薄い金色に近い髪の色に混ざり、輝いている。
「お前の髪の色、奇麗だよな」
鼻歌を止めて、ぱっとこっちを見上げてくる美希。とても嬉しそうな表情だ。
「えへへ……プールに入り過ぎて色が抜けちゃっただけだけどね」
美希はやや長い髪を手で自分の手で撫で下ろしながら恥ずかしそうにしている。
その笑顔は年相応か、それよりも幼く見えて、胸の奥の方が疼いた気がした。
……この笑顔をずっと守ってやりたいな。
俺が笑顔を取り戻せたのは、美希と沙希のおかげだから――
というのはさておき、ここだけ見ていると主人公一人だけ練習&友達いないとなると部の中でイジメに合うか怪我するかのフラグがたちそうな展開ですねw今後の話に展開です。
とても励みになります。
このあとも妹たちとフラグを立て続けていきますのでお楽しみにw
設定とかは自分の趣味全開ですが、今後も読んでくださると嬉しいです。