桜草観賞日記(仮)

いろいろ書いていく予定。

『ぎりぎり!?マリシス』 第一章 2

2009-05-15 23:49:46 | 小説



「……おかえりなさい」
美希と一緒に、玄関で帰宅を告げると、沙希が出迎えてくれた。
「沙希ちゃん、今日は帰り早かったんだね~」
「ん、部活、早く終わったから」
「部活ある時は、だいたい俺らと帰りが同じくらいになるもんな」
沙希は、外出するときに髪をポニーテールにまとめているのだが、家に居るときはその黒く長い髪を降ろしている。
例外として、部活があった日は、髪を降ろさず、すぐに夕飯の準備に取り掛かっていることが多いのだが、今日は降ろしているということは帰りが早かったということだ。

「……ご飯、もうすぐ出来る」
ちなみに、沙希は通っている中学校の、料理部に所属している。
活動は週に2回、いずれも平日の放課後だ。
俺たちの食事は、朝は美希が担当し、昼は購買か学食(沙希は給食)、夕飯は沙希が担当することになっている。
俺は食べるだけで、なんだか申し訳ないのだが、妹達が担当を譲ろうとしないので、仕方なくこの分担なのである。
(担当が決まる以前、二人が出掛けていた日に、夕飯を用意しようとしたことがあったが、いろいろと失敗したことは関係ない……と信じたい。)

俺は一旦制服から着替えるために部屋に戻る。
ちょうど着替え終えたとき、夕飯が出来たよ、と呼ばれた。
「……今日は、ごちそう」
目の前には、数多くの料理。テーブルの上、所狭しと並んでいる。
正確には、俺の目の前だけに、だが。
「沙希さんや、どうして俺だけこんなにメニューが多いのでしょうか?」
「……陸上部でも、おにいちゃんだけ、メニューが多いって聞いた」
だれが上手いこと言えと。
「俺、一応、食事制限受けてるんですけど」
「大丈夫、食べたら、元気になって、いっぱい動ける」
「練習から帰ってきて、夕飯後も練習しろと?」
「……夜の運動、一緒にする?」
「その言い回しはわざとか?」
美希と沙希は、食後の風呂の後に柔軟運動をする日課がある。……決して勘違いしてはいけない。
「……おにいちゃんの想像に、まかせる」
絶対にわざとだ。……どう反応するのが正解かわからないので、スルーして夕飯にありつく。
「美味しいね~」
美希が俺の方にある(というか、ほとんど俺の目の前にしかおかずが無い)うなぎをつっつきながら嬉しそうな顔をする。
「うむ、うまいな。こんなに食いきれないから、このうなぎはお前が食え」
美希にうなぎの乗った皿ごと渡す。
「ありがとー。……沙希ちゃん不満そうな顔しないで、美味しい料理残すのもったいないでしょ?」
「……ん」
なんとか沙希にも納得してもらえたようだ。
「ところで、このゼリー状のものはなんだ?」
一口食べたが、見た目も味も不気味だった。ちなみに、すごく苦い。
「スッポンとマムシを良く煮込んだものに、テストステロン、ヨヒンビンを加えて、ミキサーにかけて、食べやすいようにいろいろつなぎを入れて、最後にゼラチンでかためたモノだよ」
「いつもと比べてえらい饒舌ですね!」
なんだか、とてつもないものだということはわかった。
「ほら、美希、これも食え!」
「え~、兄さんが食べなよ」
「……これ、一番手間がかかった。おにいちゃんに食べて欲しい」
沙希の一言で、俺が食べることが決定的になった。
「わかった、食べるよ、俺が全部。そんなに頑張ったなら食わなきゃな」
そういって、胃の中に一気にかっ込む。
「……ゲホッ、ゴフッ!……くぅう~」
まあ、盛大にむせました。
その後もいろいろと食べさせられたりしながらも、食事は無事に済んだ。
……まあ、最終的には無事ではなかったのだけれども――

「ごちそうさま」
「……ぜんぶ、食べてくれた……ありがとう」
「沙希ちゃんこそ、よくこんなに作ったね~!えらい、えらい!」
美希が沙希の頭を撫でる。
「こっちこそ、ありがとうな!」
俺も礼を言うと、沙希は嬉しそうに眼を細めた。
どこか大人びているような、そんな笑顔。
……ずっと笑顔でいて欲しい。
沙希も、美希も、笑った顔が一番似合う。
また、胸の奥が疼くような感覚がした。

夕食の後、「胸の奥ではない部分」も疼いて仕方が無かったのだがそれは別の話。
くっそ、テストステロンだとかヨヒンビンってのは精力剤として使われているんだってな。
自室のPCの前で、うなだれる俺がそこに居た。
どうやら、今夜は長くなりそうだ――

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