九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

2.フィリピンの動物相について考える

2015-09-28 10:25:55 | 日記

2.フィリピンの動物相について考える
 私が「マレー諸島」の翻訳に使ったウォレスの原書A. R. WallaceのThe Malay Archipelago- The land of the Orang-utan and the bird of paradaise- A naturalist of travel with studies of man and natureは1969年11月29日マニラのエルミタの本屋で買った。この本は緑色の布表紙の古書で、ウォレスがマレー諸島から帰国して6年後の1868年に出版され、最初のページにはTo Charles Darwinとある。買った本は最後の改定版と思われる1890年版である。後に翻訳することになる私の愛読書との出会いだった。
 彼は最初フィリピン諸島を探検しようと考えていたことがこの本のどこかに書いてあった。確かに19世紀は大航海時代に次ぐ探検の時代であり、博物学者が積極的に19世紀のアジア地域を探検した記録はたくさんある。もちろん博物学の世紀とも称される探検・紀行も帝国主義がもたらしたものだが、私が嫌う拝金者コロンブスと違って純粋に動植物に魅せられて、多くは個人が取り組んだ探検であった。彼らが残した探検記・紀行記はオックスフォード大学出版から廉価なペーパバック版で再版されており、後に私はマレーシア滞在中それらをほとんど買い集め読んだ。
ウォレスのマレー諸島は他の出版社からも様々な版が出ており、東南アジアでは今も彼の人気は誰よりも高い(私の蔵書はすべて長崎大学熱帯医学研究所ミュージアムに寄贈した)。しかしいくら探しても19世紀のフィリピン事情を伝える探検記は1冊も見つからなかった。またフィリピンの動植物に関する日本語の本も1冊も見たことがない。マレー諸島と比べると距離的に少し離れており、ルソン島などはむしろ台湾に近い。私が主に滞在したのはパラワン島の刑務所なので、その島のことは詳しいが、他に私が滞在した島はルソン島、セブ島、ミンダナオ島、ミンドロ島の4島だけだから少し偏るがやむをえない。

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