古代の日本語

古代から日本語には五十音図が存在しましたが、あ行には「あ」と「お」しかありませんでした。

「得」には語幹が存在した

2021-08-15 10:14:06 | 古代の日本語

今回は、本ブログの初回にご紹介した「阿比留文字」の五十音図を思い出していただくため、再度この図をご覧いただきましょう。

阿比留文字の五十音図

そして、現代人にも理解しやすいように、これをアルファベットとひらがなで書き直した図も掲載しておきます。

理解しやすいように書き直した阿比留文字の五十音図

また、言葉の定義として、「U、O、I、E、A」を母音(ぼおん)、「す、ふ、つ、る、ぬ、く、ゆ、む、う」から母音の「U」を取り去った「S、H、T、R、N、K、Y、M、W」を父音(ふおん)、父音+母音によって発声する「すそしせさ」から「うをゐゑわ」までの四十五音を子音(しおん)とします。

なお、最後の行の「お」と「あ」は、母音の「O」と「A」に一致します。

さて、前回は、かつて「う」がわ行にあったということをお伝えしました。

そうであれば、あ行の活用をすると考えられている文語の「得」(う)という動詞も、わ行の活用だったことになります。

この「得」という動詞は、「え、え、う、うる、うれ、え」と活用するので、語幹がない動詞とされていますが、これをわ行の活用と考えてアルファベットで表記すると、語幹の存在が明確になります。

 未然形:ゑ WE
 連用形:ゑ WE
 終止形:う WU
 連体形:うる WURU
 已然形:うれ WURE
 命令形:ゑ(よ) WE(YO)

つまり、「得」の語幹は「W」だったと考えられるのです。

このことは、『日本活語法』(谷垣勝蔵:著、隆文館:1920年刊)という本に書かれているのですが、著者の谷垣勝蔵氏は、さらに重要なことを指摘しています。

すなわち、「日本語の動詞は一般的に父音で終わる」ということです。(なお、谷垣氏は「父韻」(ふいん)という言葉を使っていますが、このブログでは父音とさせていただきました。)

これはどういうことかというと、動詞の語尾が「行く、飲む、見る」などのように「う列」で終わっているのは、実は「IKU、NOMU、MIRU」ではなく、「IK、NOM、MIR」だからだというのです。

したがって、「得」という動詞の終止形も、実は「WU」ではなく、「W」となるのです。

そして、これは日本語の自然な言い回しであり、電車の車掌が「発車しま~す」と発音するのも、末尾の「す」が父音「S」であることによる自然の要求なのだそうです。

確かに、「発車します~」というアナウンスは聞いたことがありませんから、文末の「う列」の音を我々は無意識に父音だけ発声しているようです。

以上の考察から、改めて「阿比留文字」の五十音図を見ると、この文字が父音と母音の組み合わせによって構成されていて、「う列」が第一段目に配置されているのは、日本語の「う列」の発音が父音だけになることが多いことを古代の人が意識していたからなのかもしれません。

次回は、かつて「い」がや行にあったということを説明したいと思います。

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