古代の日本語

古代から日本語には五十音図が存在しましたが、あ行には「あ」と「お」しかありませんでした。

時を意味する古語

2022-10-09 10:04:47 | 古代の日本語

四季折々という言葉の折(をり)は時を意味しますが、これよりも古い言葉を『大日本国語辞典』で調べたところ、「しだ」、「しな」、「しば」、「しま」という言葉を見つけました。

時を意味する言葉
【時を意味する言葉】(『大日本国語辞典』より)

このうち、「しな」は今でも関西地方などで「行きしな、帰りしな」という言い方をしますし、「しば」は「しばらく」という言葉に痕跡をとどめています。

また、「しま」は、江戸時代後期に書かれた『浮世風呂』という本に「元日しまから・・・」、「正月しまから・・・」などと書かれているので、江戸時代までは普通に使われていたようです。

そして、これらより古い言葉が「しだ」で、この古語を使った歌が万葉集にあるので、『万葉集論究 第二輯』(松岡静雄:著、章華社:1934年刊)という本を参考にしてご紹介します。

【万葉集第十四巻 3363番の歌】

原文
読み
意味
和我世古乎 わがせこを 我が背子(夫)を
夜麻登敝夜利氐 やまとへやりて 大和へ遣りて
麻都之太 まつしだ 待つ頃ぞ
安思我良夜麻乃 あしがらやまの 足柄山の
須疑乃木能末可 すぎのこのまか 杉(過ぎ)の木の間(この間)か

【歌の解釈】夫を大和へやって(その帰りを)待つ頃ぞ、早くこの間は過ぎよ

ここで、三行目の「しだ」について、松岡静雄氏は、時を意味する原語「さ」に接尾語「た」を添付した「さだ」の転呼であろうと推測しています。

また、「さ」が時を意味する原語である証拠として、松岡氏は『日本言語学』に、朝(あさ)は暁(あかつき)の頃という意味の「あかさ」の約であり、久しいの「ひさ」は日の間という意味であることを書いています。

そして、末尾の「す」は、助語「そ」の転呼と解釈して、「しだす」を「頃ぞ」と訳しています。

この「まつしだす」は古くから難解とされ、翳立(まぶしたつ)、待し立(まつしたつ)、松し如(まつしなす)、令待慕(まちしたはす)といった解釈があったそうですが、いずれも脈絡がたどたどしくなって歌の趣を損なうことを松岡氏は指摘しています。

なお、「まぶし」を『大日本国語辞典』で調べたところ、射翳と書いて「射手の体を隠すもの」と説明されているので、「まぶしたつ」では明らかに文脈が変です。

次の「まつしたつ」は、妻が夫の帰りを待ちながら杉の木の間に立っていると解釈したのでしょうが、これでは松岡氏の解釈に比べて、夫の帰りを切望する妻の気持ちがあまり伝わってこないように感じます。

最後に、「まつしなす」や「まちしたはす」は、いかにも苦し紛れの解釈という感じで、もしこれが本当だったらこの歌が万葉集に収録されることはなかったのではないでしょうか?

次回も、古代の日本語をご紹介します。

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