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幻のコンパクト・シティー(2)---日本社会のデジタル化

2021-03-25 | 地球の姿と思い出
幻のコンパクト・シティー(2)から続く。

(1)2020年ごろの行政システム
2020年代の初頭、日本の行政システムは多くの国から周回遅れだった。その状況は、日経クロステック“日本のデジタル敗因 IT人材がベンダーに偏りすぎ”(2019年11月25日)が示す2つのグラフで明らかである。

まず、下のグラフは産業別のIT従業者数を日米で比較している。(項番は赤丸の番号に等しい。)
1 米国では「学術研究、専門・技術サービス」で働くIT人材が多い。
  筆者の経験でも、研究開発(R/D)やエンジニアリング・サービスは最先端のハード&ソフト
  を駆使する人材が多かった。
2 日本の製造業のデジタル化は世界のトップクラスに引けを取らない。当然、それを支える
  IT人材層も厚い。
3 「公務」0.5%、「教育・学習支援」0.3%は無きに等しい数字である。結果として、図2.が示す
 ように行政手続きのオンライン化は最下位の30位である。

図1.IT人材が従事するIT産業以外の産業内訳(日米比較)
 
日本と欧米4カ国で比較した、IT産業と非IT産業に属するIT人材の割合。日本が突出してIT人材がIT産業に偏在している。総務省による国勢調査と労働力調査、各国の労働統計から内閣府が作成した(出所:内閣府)
出典:日本のIT(情報技術)人材がIT産業に偏りすぎ・・・日経クロステック、2020/11/25

 図2.行政手続きのオンライン化(2018年)
 
経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国における行政手続きオンライン化の利用状況で、日本は最下位だった。経済協力開発機構(OECD)の調査を基に内閣府が作成(出所:内閣府)
出典:日本のIT(情報技術)人材がIT産業に偏りすぎ・・・日経クロステック、2020/11/25

ここで、図1.と図2.を筆者の主観を交えて次のように総括する。

日本では「製造業」の自動化とデジタル化を支える人材層は厚い。さらに、製造現場の担当者からの改善提案も質が高く、件数も多い。ここ数十年の比較になるが、外国では油まみれの製造現場に足を運ばないIT担当者も多い。しかし、日本ではITと現場は一体であり、IT担当者の専門知識+現場の工夫を織り込むデジタル化は本物である。”本物”が日本製造業の最大の強みである。

他方、「公務」と「教育・学習支援」は「製造業」とは対照的である。激しい国際競争にさらされない公務と教育は、みずからを改革しようとする意気込みに欠け、「製造業」とは180°の違いがある。

図1.と図2.を示す記事のタイトルは“日本のデジタル敗因 IT人材がベンダーに偏りすぎ”となっているが、筆者の意見はさらに厳しい。

"ベンダーに偏りすぎ”は官公庁の“丸投げ体質”、学校における“IT技術教育の遅れ”は教育界の“紺屋の白袴”に由来する。官界と教育界の行く手には、「デジタル化の遅れ」という不名誉な大きな壁が立ちはだかっている。

(2)社会のデジタル化
今は2030年代の初め、自らの改革を忘れた行政は20年代初めには混沌としていた。

住民番号、マイナンバー、健康保険番号、年金番号などてんでバラバラなコード体系はシステム以前に統廃合すべき問題だった。また、バラバラのコード体系はそのままに、地方自治体が独自にシステムを開発するのは泥の上塗りだった。おまけに、その開発費も異常に高く、場合によるが筆者の目には一桁以上の桁違いがあると思った。

もし、価格が高ければ高いほど立派なシステムを開発できるのであれば、それは容認できる。しかし、筆者の経験ではシステム開発では、価格と価値は正比例するとは限らない、むしろ逆のケースが多い。

当然のことだが、システム機能が複雑になると開発費が大きくなる。ここで注意すべきは、開発の外注が多くなると外注先の直接費以上に間接費も累積して、全体の開発費が雪だるまのように増大する。また、外注を含む開発管理のスパンが広がると、目が届かない死角も増えてシステム品質の低下と機密漏洩の危険性が高くなる。もちろん、品質保証と機密保護には抜き打ち検査も含むが、開発の商流が外国にまで拡散すると周到な管理は時間・労力・コスト面で負担が大きくなる(特に臨機応変に単独行動ができる適任者は限られる)。

・・・最近も国会(2021年2月の国会中継)の質疑応答で知ったが、オリンピック関係で入国する外国人の現在位置管理システムに73億円という話があった。6400億円のマイナンバー・システムに比べれば、たった73億円のとるに足りない金額?しかし、73億円のシステムに居並ぶ国会議員のだれ一人も疑義を唱えなかったのにガックリした・・・失礼だが国会議員のSTEM感覚はゼロ(零)?
 江戸時代の“読み書きソロバン(=デジタル・コンピューター=テクノロジー)”は男女庶民の民度を世界トップ・クラスに高めた。当時の武士・僧侶の先見性は立派、“読み書きソロバン”という人間の基本的な素養を身につけた日本人は明治の“文明開化期”というテクノロジーの色濃い変化を短期間で吸収、創意工夫を加えて、後に日本を世界有数の工業国に発展させた。今でも世界各地のみやげ物屋の店頭で日本人観光客が見せる暗算力は光っている。
 しかし、今の日本人の“読み書きソロバン”はかなり劣っている。まず、“ソロバン(STEM感覚とIT技術)”は贔屓目に見てもかなり低い(例:図2.のOECD30ヶ国中最下位程度)。また、“日本語の読み書き”については、筆者を含む日本人のビジネスマンの文章力(日本語)とプレゼンテーション能力(日本語)は、欧米人が上に見える(アメリカ流の教育では小学低学年からコミュニケーション能力を重視する)。・・・大学入試でnative並みの4技を目指す英語教育よりも、日本の国語教育を強化すべきである⇒外国語習得にはシッカリとした母国語力が必要と世界のあちこちで耳にした。経験だが日本語システム仕様書(A4版1万頁弱でシステム規模は「中の下」程度のビジネス・システム)の英訳で自動翻訳は役に立たなかった。もちろん、個々の教育者は立派な人たちだが、教育界という集団になるとなぜか日本の教育は色褪せて、そのレベルもかなり落ちてしまう・・・・・ボヤキの切りがなくなるので、この辺で切り上げる。

繰返しになるが、今は2030年代の初め、20年代のデジタル庁のプロジェクトに国民のIT技術教育があった。

その具体策は、国民のIT技術教育はもちろん無料、さらに実務経験習得を国家予算で支援した。その莫大な国庫出費は、世界の平均に追いつくために必要なデジタル教育費、デジタル化を甘く見た国家に課せられた代償だった。

参考だが、社会のデジタル化が進展するにつれて頭脳労働(デジタル労働)の職種が増加、求人条件も性別年齢勤務形態前職不問が一般的になった。

結果として、パソコンなどを駆使する人材は若い世代に限らず、70歳過ぎの女性も珍しくはなくなった。もしかすると、彼女はデジタル労働でますます頭が冴えて、頭脳とこころが若返り、社会も活性化、化粧&アパレル業界が活性化、、、これらの変化がさまざまな業種に波及、新しい仕事も芽生え始めた。

幻のコンパクト・シティー(3)---デジタル・センター(DC)に続く。

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