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想像の旅---太陽への憧れ

2017-10-25 | 地球の姿と思い出
想像の旅---アレクサンドリアの図書館(3)から続く。

今度の「想像の旅」は、過去の思い出を追う旅である。したがって、話の内容は架空ではない。

1)太陽への憧れ
飛行機が滑走を始めて3、40秒、車輪がガタンと音をたてて滑走路から浮き上がる。テイクオフ(take-off)である。機体が浮き上がり滑走路が斜めになって後方に流れていく。機体はわずかに振動しながら白い雲をくぐり抜け、やがて水平飛行に移る。

ドリンクタイムが始まる頃には、窓の外に青空が広がる。下界の曇天や雨を振り切った上空は透明な青空である。いつものとおりの太陽と青空に安心するのは、太陽への本能的な憧れのせいである。

話は昨年の秋に戻るが、リハビリ病院の朝食は7時頃から始まる。筆者の席は西の窓際、南面の窓から昇る朝日をまともに浴びる位置だった。顔面に朝日を受ける時、その明るさが視界いっぱいに広がり、何も見えない。まるで光の流れを遡る鮎の気分、その時、決まってオランダの友人を思い出した。

彼とは気の合った仕事仲間、ヨーロッパ人の働き方や移民問題、ときにはアムステルダムの移民街も見て回った。多くの人がおそれたトラブルが現実に起こり、ヨーロッパにはテロの病根が根付き始めた。目先のことしか考えない政治家には手に余る問題である。

山がなく平坦なオランダ、彼はよくオランダ人はサン・ベッガー(sun beggar)だといっていた。sunは太陽、beggar(ベッガー)は乞う人、直訳すればsun beggar=太陽を乞う人になる。Sun-beggarの意味は英語でもよく分かるが、英語辞典には載っていないので、たぶんオランダ語の直訳ではないかと思う。

彼によれば、オランダ人は陽光を求める人たちで、直射日光に肌を晒すのをいとわない。日本人女性のように、シミ・ソバカスを気にしない。日常生活では窓のカーテンは飾り物、貴重な太陽光が射せばカーテンを全開、その陽光を出来るだけ多く取り入れる。カーテンは飾りものであって日除けではない。地中海での長期バカンスを目標に働く人も多いという。

音楽の都ウィーンといえば聞こえはいいが、実際に住んでみると夏は短く秋はすぐに肌寒くなる。観光案内によくある光り輝くヨーロッパの写真は別物、9月になれば目覚まし時計がなくても、朝の寒さで自然に目が覚める。大航海時代にヨーロッパ人がアジア・アフリカに進出した気持ちがよく分かる。ジャガイモばかりのヨーロッパでは手に入らない南国の豊かな農産物は、太陽の恵みであり憧れでもある。

2)スキー場の日光浴と混浴
長期バカンスや世界クルーズは別として、ヨーロッパの山国には冬の重苦しい曇天と黒い森から逃げ出す簡単な方法がある。それは、スキー場への小旅行である。

ウィーンからアウトバーンを数時間も走れば、曇天を尻目に晴れ渡ったスキー場に到着する。そこは、スキーと日光浴の場でもある。ゲレンデに面したテラスにデッキチェアーを並べて、日光浴を楽しむ年配の夫婦、スキー場は若者だけのものではない。そこは、地中海のビーチに似た空中のリゾートである。

さんさんと輝く太陽、しかしそこは極寒の世界でもある。ゲレンデの斜面を上下するTBar(ティーバー)に、うっかり素手で触れると指先が金属部分に凍り付くこともある。

金曜日の夕方、仕事を終えて大型バスでスキー場に向かう。国際機関の有志一同は、初心者から上級者のグループである。初心者は全くの素人でスキー学校行き、雪が降らない国の人も交じっている。一方、アクロバットなようなスキーを楽しむ達人もいる。スキー場に向かうバスでは、フェーン予報のラジオ放送もある。白いカフェインの錠剤はフェーン対策、編頭痛や体調不良の予防に使用する。

スキー場のホテルには大きな温水プールとサウナがある。夕食前に水泳かサウナのどちらを選ぶかとグループの世話役が聞きにくる。

サウナは混浴、入口の向こうは広い浴場である。大手を振って行き交う一糸まとわぬ男女に、一瞬ヌーディスト・クラブかと思った。驚いて入口で躊躇していると、中の女性が天井を指さしたので、入口の上を見たら、"Mixed(混浴)"と書いてあった。

とりあえず、前にバスタオルを当てて中に入ったはいいが、今度は全員の集中砲火を浴びて、バスタオルを外せなくなった。ヨーロッパで有名な浮世絵でもあるまいに、下手に隠すと出しづらくなる。

その後、何も知らない日本人と分かり、フロア・マネージャーに「ヤーパン(日本人)」「ヤーパン」と呼ばれ、サウナや冷水浴の入り方を手取り足取り教えられた。至近距離でも女性が男性を敬遠しないのに文化の差を感じた。

「一糸まとわぬ」と「大手を振って」は文字通り、これ以上の説明は不要である。完全な裸世界では、コソコソ、キョロキョロしないのが作法であり、自然に振舞うことの大切さを知る。裸に慣れると、衣服が鎧兜のように感じられ、対人関係も一皮むける。

サウナや水泳でサッパリ、夕食後はワインなどを飲みながら遅くまで談笑が続く。細身でなよやかなレディーだがアルコールを飲み始めると底なし、いろいろあっておもしろい。重苦しいヨーロッパの冬といえど、高山に登れば太陽がいっぱい、生まれたままの姿で付き合う世界がある。

次回は「恐竜との出会い」に続く。

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