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コンパクト・シティーの姿(2)---Feasibility Study:実現可能性の検討

2020-01-25 | 地球の姿と思い出
コンパクト・シティーの姿(1)から続く。

3.Feasibility Study(実現可能性の検討)
人は未来に向かって何かを描く。その何かは、たとえば、個人的な夢や勤め先の在り方など何でも良い。その時、その何かを実現できるかどうかを考える。英語ではFeasibility Study(フィージビリティー・スタディー:実行可能性の検討)と云う。

通常、Feasibility Studyは3つの視点で検討する:Technical Feasibility(技術的な実現性)、Operational Feasibility(運用上の実現性)およびEconomic Feasibility(経済的な実現性=採算性)の3つの視点である。

①Technical Feasibility(技術的な検討):
 技術的に見て、自然の法則に反するような技術や装置、開発途上や実用性が実証されていない技術はNG(No Go:やってはいけない)である。月面の真空管製造工場(想像の工場)で酸素マスクなしで活動するのもNGと考えられる。しかし、近い将来の自動運転タクシーや乗用車は実現すると考えても良い。ただし、5年後?10年後?は何かを描く時期で決まってくる。5年後の自動運転はまだまだ当たり前とは云えないと思う。
 なお、これ以上の説明は機密保護の観点でここまでとする。

②Operational Feasibility(運用性の検討):
 次に、運用性を検討する。たとえば、システムが公序良俗、社会習慣や法律に触れないかなどをチェックする。
 たとえば仕事のやり方、日本の会社は、取引先の名称、住所、窓口(Contact)の部署、氏名、敬称(様、殿など)を日本語(漢字、片仮名、平仮名、ローマ字、記号(〒)、数字)で登録した。また、日本での代金支払いでは、印紙税法や中小企業支払遅延防止法などを順守した。また、日本の国税局に提出する決算書類も日本語で日本の商法に従って作成するが、コーポレート・ベース(Corporate Base:アメリカ本社基準)では国際会計基準(IFRS・・・日本では利用企業が少ない)で変換、アメリカの基準で作成した。
 多言語データベースに日本語が入るといろいろな点で処理が複雑になる。住所・氏名・敬称・部署名・会社名・商品名・勘定科目名などは、英・仏・独・西・日語などになる。特に日本語処理は、漢字・平仮名・片仮名・数・ローマ字・記号(〒等)を含み、社名や氏名の検索・並べ替えは片仮名になる。
 たとえば、英語名がない日本企業名はローマ字で登録した。また、名刺情報によるがだれもが知る大企業には子会社も多く、本体も含めて正式名称、略称、通称、またの名、英字片仮名交じり名称など、どれが正式なのかと悩ましかった。
 DB(Database)に登録するれば公式名称とみなされるので、疑わしきは先方に確認した(単なる名称の問題でなく、グローバル調達で購買システムの集中購買の対象か否かなどの判断⇒一元化DBの取引先データは、会計、購買、生産管理、販売、顧客サポート、品質保証のシステムに共通)・・・日本は意外にabout(おおよそ、だいたい、いいかげんなどの意)な社会で、デジタル系よりアナログ系だと思った。
 日本では英字のクリスマス・カードでも届くと云う意見があるが、実際のシステム設計では帳票や画面も日本社会の習慣に準じて日本語化した。
 さらに卑近(ヒキン)な例になるが、一元化システムでは取引先、たとえば金融機関も厄介な問題だった。世界各地の事業所取引先の金融機関を一元化システムの構築を理由に、一方的に整理統廃合できないという問題もあった。
 事業所の取引先金融機関には、地縁・血縁や古くからの付き合い、あるいは昔の恩義などがあって、アメリカ本社の意向で世界のメジャー金融機関に統一することはできなかった。たとえば、ヨーロッパや日本の聞いたこともない町や村の金融機関(e.g.農協の〇△支所)とのデータ交換、給与・ボーナスの振込み、しかもボーナスの半分はこちら、残りはあちらに振り込んで欲しいなどとややこしい要望もあった。
 ビジネスと云えども損得金勘定だけではない。遠い昔に窮地に立ったとき、融資で助けてくれた銀行との取引もあろう。それを統合システムが縁もゆかりもなく近所に出張所もない大銀行に切り替えるのは、商道徳に背を向けることになる。
 昔からの繋がりを捨てて新システムで一から出直す。それは、例が悪いが流れ者がその地に居つくようなもの、アメリカやヨーロッパの田舎では信用を得るのに時間がかかる。
 また、人命と労働環境への配慮も必要である。たとえば、業務設計では深夜の無人工場で担当者1人だけの勤務もNGとした。本人に緊急事態が発生したとき、本人ただ1人では助ける人がいない/事故に巻き込まれたときは助けを呼ぶこともできない・・・仕事の自動化と防火・防犯監視システムに金をかけてその仕事を無人化するか、それが難しければ2人以上の勤務とするかの選択になる。結局、当面は2人勤務、やがて仕事を100%無人化して「セコム(70年代初頭)」の防火・防犯システムを導入して無人化を実現した。
 Operational Feasibilityは、技術と投資(新技術の開発)と法律(国際法、現地法、商習慣)、さらには経営理念にも関係する問題でもある。また、システムを運用するのは人間、その人間には社会習慣・宗教もある。数値化や明文化が困難な課題も多い。個々の課題を解決する方法は千差万別である。
 多くの国に事業所を持つグローバル企業では、業務システムの設計では事業所の現地法律・商習慣・社会習慣・宗教を順守することが最低条件になる。以上、いくつかの具体例で説明した。
 
③Economic Feasibility(経済性の検討):
 最後に、経済性の評価、具体的には投資コストvsメリットの対比で採算性をチェックする。投資コスト<メリットであればGo。投資コスト>メリットであればNo Go。定性的なメリットもできるだけ定量的に金額で求める。
 システム・ライフが長い投資(10~20年)は、Discounted Cash Flowで分析した[未来のキャッシュ・フローにDiscounted Factor[1/(1+i)n, i=年利, n=年数]を現在価値に換算してDCFを求める]。
 経済性の評価で投資コスト(調査・研究やシステム開発費や設備投資など)は計算できるが、メリットを計算できないケースもあった。たとえば、戦略システムの開発承認で「・・・企業は目先のメリットだけを追うものではない。このプロジェクトはやるべきこと、自信をもって進めなさい」と社長は大きな開発コストを承認、工場改革に踏み切った。その先見性と決断力に社長の度胸を読み取った。

以上、Feasibility Studyを筆者が体験した具体例で説明した。

Feasibility Studyで浮かび上がる問題は、プロジェクトが解決すべき課題=プロジェクトが成立する要件になる。しかし、社内だけで解決できない課題もある。中には、(日本の)法改定で要件が満たされた例もあった。

【法改定で実現したシステム】
1975年ころ、日本の電気通信法の改定で公衆電話回線によるデータ通信が可能になった。弁当箱ほどの大きさのNCU(Network Control Unit:回線制御器、一種の電話器)を持参、霞が関の電電公社(現NTT)技術担当者に説明して回った。

利用者側の筆者が電電公社の技官にNCUを説明するのは逆、変な話だったが、公衆回線によるデータ通信の理解と支援が必要だった。・・・今は昔の話になるが、東京の〇〇営業所を経由する電話回線は国鉄〇〇線の〇〇ガードをくぐるのでよく伝送エラーが出るなどといった問題に悩まされた(音声の通信では感じないノイズでも、データ通信(伝送)ではNG、エラーの原因になった?)。

当時、データ通信技術に遅れがあった日本のコンピューター・メーカーには断られた(実は“できなかった”)が、アメリカのオフコン(Office Computer)で夢を実現した。公衆電話回線の自動接続(Auto-call/Auto-answer)という基本的な技術だった。

夜8時以降(電話代が安くなる)、旭川営業所、札幌支店、、、鹿児島営業所を順次本社コンピューターが自動的に呼び出し無人の営業所から当日の販売データを収集するシステムだった。公衆電話回線をデータ通信に利用した日本で初めてのケース、各営業所に導入したオフコンは1台数千万円(1億円に近い買取価格)、しかし現在のパソコン以下の性能だった。

なお、オフコン側の日々の売上データは、ハードディスクの容量不足のためラジカセ用テープ(市販の録音用カセットテープ)に記録し、そのデータを深夜自動的に本社コンピューターに伝送した。当時(1976年)、社員のコンピューター教育に使用した資料(下の写真:筆者自作)をここに紹介する。

下の資料は、磁気テープとラジカセ用のカセット・テープ(市販品)に記録されたデータを微細鉄粉で可視化したものである。セロテープの接着剤が劣化したシミで見にくいが、磁気テープは9トラック、カセット・テープは2トラックである(磁気テープの9トラック=1byte8bit+1パリティーbit=9bit)。トラック可視化の方法は、当ブログ、グローバル化への準備---コンピューターの知識(2):ハードウェアの仕組み(2012-07-25)の「図7磁気テープの中身」で説明した。

            磁気テープ&カセットテープに記録したデジタル・データ
                                             
            出典:「船乗りの航跡」資料集、コンピューターの知識(2)、図7参照

公衆電話回線(普通の電話)の料金は従量制=通話時間で課金、専用回線は定額制(月単位)=1回線数十万~百万円/月だった。毎日のデータを公衆回線vs専用回線で見積もると、月々の電話料は数万円vs1千万円以上だった(公衆電話回線では音声通話でもデータ通信でも料金は同じ)。当然、Economic Feasibilityは「Go」、稟議書はすぐに承認された。

システムが完成したとき、電話料(公衆回線料金=通話料金、Fax料金、データ通信料金すべて同じ)は月々十万円前後(実績)、専用回線より2桁以上も安かった。このシステムが毎日収集する販売実績を翌日に分析できるメリットは売上高に現れた。具体的にはTV広告が顧客ニーズを刺激、そのニーズに素早く応じるプロダクト・ミックス、製品配送の最適化で機会損失が減少、結果として十数台のオフコンへの投資は安いものだった。オンラインの情報収集と分析は、ちょっとしたシステムだがその経済効果は大きかった。

だれもいない真っ暗な営業所、突然コンピューターが起き出し仕事を始める・・・この夢はTechnical & Economic Feasibility Studyの裏付けのもとで実現した。

次回は、「4.タスク・フォースの思い出」に続く。

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