船乗りの航跡

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船乗りが見た時代の変化---日本行政のデジタル化遅れ

2023-01-25 | 地球の姿と思い出
幻のコンパクト・シティー(5)から続く。

前回の投稿「コンパクト・シティーと鉄道ネットワーク」(2021-09-25)を最後に一休み、1年以上もご無沙汰しました。

さらに、当ブログを開始した2010年8月から今日まですでに12年以上、50万文字を超えました。内容の重複や冗長もありましたが、今後は簡潔を心掛けて不定期で当ブログを続けます。これからも変わりなくお付き合い下されば幸いです。

思えば2004年夏のバンコクでの心筋梗塞、幸いにも命拾いをしました。また2016年に脳梗塞、リハビリの甲斐あって今年もつつがなく歳を重ねました。

“つつがなく”とは言うものの筆者のこころには日本に関わるさまざまな気掛かりがあります。その第一は「行政のデジタル化遅れ」、第二は「バリアフリー化遅れ」、第三は「国土交通・・・」など、個人では対処できない将来に気をもんでいます。

先ずは第一の「デジタル化遅れ」から始めます。以下は高齢ジイサンの心配事ですが、なにかのご参考になれば幸いです。

---◇◇◇---

1.デジタル化遅れ
日本行政の「デジタル化遅れ」はよく耳にする話題である。しかし、どの記事からも「周回遅れ」の度合いを知ることはできなかった。そこで、筆者の経験を頼りに「周回遅れ」の程度を考える。

(1)事例
1)2020年:東京都のコロナ感染者数集計システム 
分かり易い例として、行政機関の東京都庁のシステムを取り上げる。

2020年6月頃、筆者は新聞でコロナ感染者集計システムがトラブルを起こしていることを知った。それは、Fax送信のダブり、漏れ、遅れ、コンピューターへの手入力ミスなどで感染者数が正しくないというトラブルだった。人海戦術特有の人為ミスと多忙な担当者たちへの多大な負荷がトラブルを増幅した。
 
70年代には“データは発生源でデジタル化すべき”がコンピューター業界の合言葉だった(日本では少々遅れて80年代の合言葉だった)。⇒故にPOS端末開発(Point of Sales売上が発生する現場=スーパーのレジで使うスキャナーの意)に繋がった。

コロナ患者集計システムは、インターネットやオンライン・データベースが普及した昨今、「紙に書かれたデータ(報告書)をFaxで送信」という時代遅れのシステムである。これこそ「周回遅れ」の原因である。

2)1966年:アメリカの大学・研究所
1966年秋、筆者が入学した大学の授業「制御工学」では学内外のコンピューターをオンラインで利用した。当時のアメリカでは、すでにコンピューターの遠隔利用が実現、約16,000人(現在47,000人∔)の学生は誰でもコンピューター利用はOKだった。もちろん理系&一部の文系は必須、その他の文系は選択科目だった。

3)1976年:日本の製造業(電気通信法の改正で実現したシステム)
筆者は1976年の日本でNCU(Network Control Unit, 今では博物館入り)で販売データ収集システムを開発した。電話代が安くなる毎晩20時以降に北海道の営業所から順次九州まで当日の販売実績を自動的に本社コンピューターに送信した。もちろん営業所は真っ暗、無人のデータ送信だった。なお、簡単な技術だったが、1976年の日本メーカーには無理、アメリカ製ハードを営業所に導入して無人送信を実現した。

このシステム開発で見積もったが、公衆回線使用vs専用回線使用は約十万円/月vs約1,000万円/月だった。完成後の実績は月額10万円前後(公衆回線)だった。日本の電話代(通信費)は昔から高く、疑問も多い。

(2)「周回遅れ」の程度
1)試算1:東京都庁 vs アメリカ大学・研究機関
◇2020年=東京都のコロナ感染者数集計システム
◇1966年頃=アメリカの大学・研究機関のコンピューター【参考:汎用デジタル・コンピューター
  「周回遅れ」の程度=2020年-1966年頃=54年以上(約半世紀)

2)試算2:東京都庁 vs 日本の製造業(筆者の経験)
◇2020年=東京都のコロナ感染者数集計システム
◇1976年=日本製造業の日次販売データ収集システム【参考:Feasibility Study(実現可能性の検討
  「周回遅れ」の程度=2020年-1976年=44年

3)試算3:コンピューター教育の遅れ(1976年頃の日本企業の新卒社員)
◇1976年ころ、試算2の会社は毎年二百数十人の技術系社員(国立大卒多数)を採用、筆者は彼らに「大学でコンピューターを学んだ人の挙手」を求めた。毎年5~6人の挙手があったので、勤務終了後の自由参加講習会(筆者講師)を設定、彼らを教育した。日本の「コンピューター教育遅れ」を痛感した。
教育内容:FORTRAN技術計算言語、CSMP連続系/GPSS離散系/ECAP電子回路分析言語
筆者の記憶:1976年の日本国公立大学ではコンピューター関係科目は選択科目だったと記憶している。

(3)行政システムの特徴
コンピューター利用の第一歩は業務改善/改革の構想設計から始まる。しかし、この段階で、行政システムは難題に直面する。

一般に、構想設計では、現状を如何に改善/改革するかを考える:改善は別として、業務改革には現状を無視、自由な発想で臨むことが多い。時にはなにも知らない新人からハッとするようアイデアがでることもある。

しかし、役所の業務は「国民に法令の遵守を求める」や「法令に沿った手続き」が基本である。つまり、役所の業務には法令の“縛り”がある。この“縛り”が行政の「デジタル化遅れ」の元と考える。また、法令の改正などは、先の長い話になるので、ついつい後回しになることもあると考えられる。

加えて、改革の先頭に立つべき国会議員でSTEM感覚がある人は少数派、当然ながら多数決には弱い。また、デジタル庁は発足から日が浅く、その実績は先になる。あれやこれやと考えるが「周回遅れ」の挽回はおぼつかない。

しかし、日本は八方塞がりばかりではない。

第一に、かつての経済大国日本のビジネス取引は常に内外のシステムとオフライン/オンラインのインターフェースを通じて活動している。たとえば、欧米規格のバーコードも自動識別され、日本国内で正常に機能する:つまり日本のビジネス・システムは鎖国でなく“ガラパゴス化”はしていない。

次に、少子高齢化も追い風にできる。現在の継ぎはぎだらけの行政システムは非効率だが、過剰人員でなんとか支えられている。しかし本当に人口が減少すれば、たちまち行政がマヒする恐れがある。この危機を避けるために、デジタル化「周回遅れ」の挽回どころか、さらに一段上の「デジタル化」が必要である。これは国民一人ひとりの課題である。

なお数ヵ月前の経験だが、スーパーのサービスカウンター設置の画面でマイナポイント手続きができない状態になっていた(初期エラー? 容量オーバ? スーパーの担当者は原因を説明できなかった)。そのため、希望者は区役所での手続きを求められた。結果として区役所で1台の画面を前に、手続きの待ち時間が2時間以上になった・・・行政が目指すデジタル化とその運用性とのギャップを感じた。

以上が筆者の認識だが筆者には手遅れ、時の流れに逆らわず次の世代に期待する。

その期待では、何よりも国の存亡にかかわる歴史的国難、災害、スポーツ、科学技術の開発などで実証済みの「諦めない日本人の遺伝子」が本領を発揮する・・・これは精神論でなく実行力、次世代の人々もまたその難題を間違いなく克服すると信じている。

次は「2.バリアフリー化の遅れ」に続く。


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