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幻のコンパクト・シティー(5)---コンパクト・シティーと鉄道ネットワーク

2021-09-25 | 地球の姿と思い出
幻のコンパクト・シティー(4)から続く。

先月(8月) の一服を終えてふたたび、幻のコンパクト・シティーに逆戻りである。

(1)現在の鉄道ネットワーク
最近、東京新聞で興味深い記事を見た。それは日本の無人駅を示す地図だった。

東京新聞朝刊(2021.9.12)の紙面を下に再生すると図1のようになる。

図1の列島地図には赤い部分が多い。赤色は無人駅が61%以上の地域、たとえば、北海道の駅総数(JR+民鉄)は512駅、うち365駅71.3%が無人駅、地図は赤色になる。

       図1.都道府県別の無人駅と駅総数(国交省調べ、2019年度)
  
  出典:東京新聞朝刊、2021/9/12

ちなみに、この記事では無人駅を図2のように定義している。

図2によれば、無人駅は簡易委託駅も含むので、人けが全くいない田んぼの中や人里離れた谷間の無人駅だけとは限らない。路面電車の始発駅以外の駅は、街なかでも昔から無人、違和感はない。

        図2.無人駅の定義
        
        出典:東京新聞朝刊、2021/9/12

次の図3はJRと民鉄の無人駅内訳である。筆者の勝手な想像だが、JRの無人駅は主に過疎化の反映、中小民鉄の無人駅は路面電車駅や観光路線ではないかと思う。

         図3.無人駅の内訳
        
        出典:東京新聞朝刊、2021/9/12

次の表1は、見づらい図1を補足する意味で、図1のデータを表形式にまとめた表である。
         
       表1.図1.の補足データ(図で見づらい数値の抜粋)
       

2019年度の国交省調べの駅数は無人駅数4,564、有人駅総数9,178、無人化率50%である。コンパクト・シティーの姿を考える筆者にとっては、東京新聞のこの記事は一つの参考になった。

大雑把にいうと全国の駅総数は約1万、ここ10年でこの数字が大きく変化したわけではない(2019年9,178駅vs2009年9,613駅、運輸政策研究機構)。また、2009年の無人駅のデータ(国交省調べのグラフだけ)によれば、無人駅率は約44%(目視・・・母数不明かつ19年の無人駅率約49%で表1と異なる)だったので2019年の無人駅は2009年から数%の増加、少し増えた程度である。

筆者の見通しでは、今後は駅と列車運転の無人化が大きく増加すると思う。ここに無人駅と無人運転にまつわる筆者の体験を紹介する。

【無人駅と無人運転の参考事例】
①概要
 筆者の自宅近くを走る都市型交通システムは無人運転である。車両はタイヤ車輪の5両編成、全長40mのコンパクトな列車である。営業距離10.8km、14駅のうち始発と終着の2駅は終日有人、中間の1駅はパートタイム有人、他の11駅はインターフォンだけの無人駅である。改札機のトラブルには有人駅社員が対応、トラブルはほとんどない。
 東北3.11地震では数時間運休したが、安全確認を終えて当日中に運転は有人で復旧した。
②日常の運転
 通勤時間帯の運転間隔4~6分(朝夕計7時間)、他の時間帯は6~10分である。75歳以上の年間所得に応じて格安パスを発行、利用回数と乗車区間は無制限である。
③運行の信頼性と事故
 1983年の開業以来、38年間の無人運行で事故は2019年の1回だけ、事故後は有人運転、自動運転再開までに約3ヶ月かかった。車両の電気回路トラブルだったが、全車両の改修に時間が掛かった。
 有人かつ間引き運転中は数十台の路線バス(定員50~60人)による代替輸送があったが、始発駅のバス停が混乱、その周辺も毎朝交通が大きく渋滞した。
④感想
 全長40m程度の無人運転車両(定員263人)の4分間隔運転に何十台もの路線バスによる代替輸送は太刀打ちできなかった。この経験で、列車の輸送力と定時性は、バスやトラックに比べて圧倒的に優れていると思った。開業から38年間の無事故は日本ならではの話、少子高齢化の今後では疑問符が付くかも知れない。

(2)鉄道ネットワークへの期待
鉄道の路線距離やスピードなどの世界ランキングでは、日本の鉄道は上位を占めているわけではない。しかし、戦後から今日までの日本の近代化を振り返るとき、鉄道ネットワークが果たした役割の大きさに気付くとともに、その資産価値は将来も有望だと思っている。

ヨーロッパの先進国には遅れがあったものの、1872年に日本初の鉄道が新橋-桜木町間に登場した。以来、わが国の鉄道ネットワークと工業の近代化は“鶏先か卵先か”の関係で発展してきた。さらに、幸いにも人口ボーナス効果もあって、国土が狭く人口も1億人程度にもかかわらず、日本のGDPは一時世界第2位を記録した。

さらに思い出すが、名神高速道路は筆者が学生時代に初めて開通したが、その後は急速に発展、今では高速道路ネットワークはやや過剰なまでに全国をカバーしている。

また、日本の鉄道ネットワークの運行時間は、世界のだれもが驚くとおり、極めて正確である。新幹線から山奥のローカル線までどこでも時刻表通りに列車が走る。これは、経営やマネージメントの努力もさることながら、根が真面目な日本人ひとりひとりの“なせる業”である。長い人生で今までこんな国は見たことがない。

話題は変わるが、筆者には鉄道や道路に関する知識はなにもない。しかし、上下分離方式という言葉はおぼろげながら理解している。

むかし、ヨーロッパのターミナル(終着駅)で見た急行列車はロンドン発、パリ発、ベルリン発などの客車を連結していた。一編成の列車に世界各地の文化を凝縮するのはお伽話のようだと思った。レールの“上”を走る列車の1両目はイギリスの客車、2両目は言葉や食べ物が違うフランスの客車、、、列車の“下”にある線路(レール)や信号はミュンヘン駅があるドイツの持ち物、こように鉄道の経営は上下が別々だと理解した。いわゆる“上下分離”の考え方である。

要約すると、“上”は車両やその運営(会社)、“下”はレール、信号や電気、レールや敷地などのインフラである。上下分離方式では、上下を別々に経営するが、全体として上下一体で輸送事業という大役を達成する。以上が筆者の理解であり、主観的な客車が運ぶ文化や運用ソフトから成る“上”、客観的な風景やレール[=金物:ハードウェア]から成る“下”、“上下”のソフトとハードが一体となって機能する非常に巧妙なシステムである。交通ネットワークの上と下の関係は血液(上)と血管(下)の関係に似ている。

日本は新橋-桜木町の鉄道以来、百数十年の歳月で鉄道ネットワークを自由奔放に延伸させてきた。その間に人口増加が減少に転じ、国家の存亡を左右する人口動態が大きく変化した。大げさだが、血が逆流するほどの変化と認識すべきである。

ここで考えるべきは、人口動態の変化が現在の鉄道と道路の輸送ネットワークに与える影響と対策である。

続く。


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