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想像の旅---カサブランカ(2)

2018-09-25 | 地球の姿と思い出
想像の旅---カサブランカ(1)から続く。

4.メディナの風景
岸壁に近いメディナ(旧市街地)でハムディーの店にシステムを導入することになった。システム化といっても、「仕入れ」「売上げ」「棚卸し」の3つの仕事をコンピューター化するだけである。簡単に言えば、商売に必要な帳簿付けや計算などの手作業をコンピューターに任せて、仕事を正確かつ迅速にこなす。これが目標である。

目標を達成すると、次の3つを自動的に計算できる。
①仕入高=仕入れ数量&金額
②売上高=売上げ数量&金額
③在庫高=在庫数量&金額

コンピューターは計算機そのもの、日本では電子計算機といった時代もあった。もちろん江戸時代のソロバンも立派な計算機だった。これらはテクノロジーの産物と言う点に注意したい。参考だが、ソロバンの起源には多くの説があり、一説には紀元前2000年頃のバビロニアの「砂ソロバン」がある。持ち運びができる「板ソロバン」はローマ時代の発明との説がある。その後、世界各地で工夫され、日本への伝来は室町時代(1336-1573年)後期、経由地は大阪か長崎か不明である。

江戸時代(1603-1868年)に入り、ソロバンの重要性に気付いた僧侶や武士たちが庶民の子供たちをお寺に集めて、「読み書きソロバン」を教えた。それは寺子屋教育、日本の素晴らしい教育システムだった。なにより素晴らしい点は、富裕層でなく庶民の子供たちの教育だった点である。ソロバンをはじく指の動きは脳を刺激・活性化するといわれる。さらに集中力、記憶力、暗算力の向上に有効である。侘び寂び人情を解する感情にソロバン=自然科学の知識が加わった。

「読み書きソロバン」の教育効果は江戸の商工業の繁栄、庶民層の識字率と計算力を向上させた。庶民の教育レベルの向上は、経済格差を抑え、社会全体の経済的な繁栄につながった。また、生活のゆとりは習い事や新しい文芸、娯楽、サービスを育んだ。諸外国を経験した筆者は、今も寺子屋教育の残留効果を日本に感じている。世界で暗算に強い民族は?と問われれば、筆者は日本人と即答する。ただし、カードや電子決済を常用する人たちについては、“分からない(no idea)”である。

江戸時代に高度化した生活レベルは、は明治の文明開化で西洋文明と合流、日本固有の発展を遂げた。それは、工夫と応用力の賜物だった。筆者は、基礎知識がシッカリとした民族には応用力があると信じている。さらに日本は人口増加を追い風に、戦後は世界史上まれに見る産業・経済の高度成長を実現した。

しかし、繁栄の次は衰退を迎えるのが成長曲線の特徴、現在日本は前人未到の少子高齢化社会に直面している。2105年の0-14歳の人口はわずか419万人(人口の一割弱)*という驚くべき推定がある。この国家存亡の危機をいかに乗り切るか?そこには国民と国家の決断が必要であり、悲観とある種の期待が混在する。【*参考:日本の将来---5.展望(2):日本の人口(1925‐2105)】

話を教育に戻すが、国と時代が違っても本質においては、人間の考えることに大差はない。1990年代のアメリカで理数系、すなわち「STEM教育」の重要性が叫ばれたが、それは寺子屋教育と同じ流れだった。もちろん両者とも、幼少の頃からの教育を重視した点も同じである。それは「鉄は熱いうち打て」である。子供の英語教育とは比べようがない重要性がある。
【参考:STEM=Science, Technology, Engineering, Mathematics、例:アメリカの150大学で開催される7-17歳の子供向け夏期講座iD Tech Camp】

余談だが、日本の教育は1960年代の「学園闘争」などのドサクサで、コンピューター教育は出遅れた。しかし、70年代に入ると一部の大学でコンピューター教育の重要性に気付き始めた。筆者の輸送機器メーカーでの経験では、毎年約200人の理工系新入社員の中で5、6人がプログラミング教育を受けたと挙手したのが印象的だった。日本のコンピューター教育の遅れを痛感した。

あれからさらに数十年、現在ではようやく小学校にまでコンピューター教育が普及しはじめた。もちろん人材不足の日本、そのレベルは、アメリカやハノイのインターに比べてまだまだヨチヨチ歩きの状態である。ハードやソフトの性能は他国と同じだが、教育内容と家庭のコンピューター環境はまだまだの状態、しかし世代交代が進む将来に期待する。

話をカサブランカに戻すが、モロッコでは理数系は就職に有利なので、その方面の教育には力が入っている。ハムディーは高校でコンピューター教育を受けたので、エクセルやアクセスの利用には問題はない。ちなみに、かつての宗主国フランスの影響で、理数・経済系の授業はアラビア語でなくフランス語、すでにIB(国際バカロレア)プログラム**も導入済み、教育の分野では日本よりグローバル化が進んでいる。また、カサブランカの路面電車や現在建設中の高速鉄道と将来は時速300kmを目指す鉄道はフランスの技術である。
【**注):IBは国際的な教育プログラム、このプログラムに合格すればディプロマ(diploma修業証書)を与えられ、世界のIB認定大学の入試に有利になる。世界140ヵ国4,610がIB認定校、うち大学は75ヵ国2,500校(2016/7/1) 現在、日本のIB認定校は20校、文科省は2018年に認定校200校を目標にしているが、センター試験制度との両立は難しい。】

ハムディーの店は古くからの店、帳簿にはアラビア数字(算用数字)とアラビア・インド数字(ヒゲ文字)が混在している。アラビア・インド文字の数字は、日本人には馴染みがなく慣れるまで難しい数字である。たとえば、0は・、5はお握りのようなハート・マークである。まず、店員のオバサンや倉庫のオジサンたちを集めて、数字の書き方を読み易い算用数字に変更することにした。

取扱い商品の種類は、色やサイズの違いを別物と勘定、また売り物にならない死蔵品を含めると1万種類近くある。デッド・ストック(死蔵品)を選別、管理対象外の山に分けて少しずつ暇にあかして処分することにした。システムで管理する商品については、商品ごとに商品コードと名称、数量単位(個、枚、kgなど)、仕様、販売価格、仕入れ先のコード、仕入れ単価などもデータとして登録する。

続く。

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