ぶろぐのおけいこ

ぶろぐ初心者は書き込んでみたり、消してみたり…と書いて19年目に入りました。今でも一番の読者は私です。

歌行燈 ~「歌行燈」に引き寄せられて(3)

2022-06-14 20:16:24 | 読んだ本

 しばらく国道を歩くとここは海抜1 m と書かれています。歩いてきた歩道を振り返る。伊勢大橋を渡ったら下り道だったのでした。

 川の堤防のほうが生活空間よりも高いわけです。なるほどねぇ。洪水に悩まされていた土地なんだと、山に暮らす私は思うのでありました。

 だんだんと桑名の町が近づいてきます。長島にはなかったマンションがいくつも目に入るようになる。桑名駅の近くまで来ると参宮国道と書かれた碑がありました。裏へ回ってみると、昭和7年3月2日竣工と書かれています。きょろきょろ見回すと、ここまで歩いてきた国道1号線は軽く右に曲がっている。

 曲がらずにまっすぐ進む道路があって、その2本の道路の間に件の石碑。きっとこういうことです。もともとの街道はこの細いほうの道。昭和7年に国道を通すに当たり、桑名の郊外を通したのが現在の国道1号線。当時は片側二車線ではなかったでしょうが、中心地をバイパスするように国道を通したのですね。当時は国道1号線よりもお伊勢さんへ参るための国道という意味合いが強かったわけでしょう。ならば、街道を歩いてみるべし。そう思えば街道の面影がまだ残っているような気がします。石碑からおよそ1km。道路は突き当り。その右側2軒目が、饂飩屋「歌行燈」です。

 

 「そうはくわなの焼き蛤」という言葉は何十年も前から知っていても、そもそも、桑名というところには「近鉄電車で行ったら名古屋のちょっと手前くらい」の認識しかなかった私が、桑名に行ってみたいと思ったのはなぜかを記しておきましょう。

 昨年の12月。名古屋に行ったとき、名古屋駅近くのビルの中にセルフのうどん屋さんがあって入ってみました。屋号は横井製麺所。丸亀ナントカなら知っているけど、こんな屋号は初めてだな、中部圏ではメジャーなのかなと検索をかけてみると、桑名で明治10年に開業した歴史ある饂飩屋さんが展開している飲食店チャンネルのひとつであることがわかりました。志満やという屋号の饂飩屋は、後に泉鏡花の小説「歌行燈」に登場する饂飩屋のモデルになったらしく、その縁から屋号を「歌行燈」に変えた。

 だいたいこんなことがわかりました。桑名へ行って歌行燈でうどんを食べてみたい。そのためには、小説を読まねばならないと、自分の中でささやかな目標ができた2021年の末でした。

 ありがたいことに、小説は本屋に行かなくても「青空文庫」で読めます。そんなに長い小説ではないものの、これを解説なしに読むのはちと難しい。最後まで文字を追うのが精一杯で、さっぱり理解できません。いい先生はいないものかと見つけたのがこのサイト(『あらら本店』文学作品の解説サイト)。これで、ようやっとわかったつもりで本文を追うことができました。そのあと、東海道中膝栗毛の中の、宮から桑名、さらに四日市までを現代語訳で読んで、もう一度「歌行燈」を読み直す。メキメキ自分に読解力がついたような錯覚に陥ります。しかし、能についての教養がないので、素通りしていることがたくさんあるんだろうなと思っています。

 参宮国道から別れた街道は美濃街道というらしい。桑名から大垣方面に至る街道のようです。その街道を歌行燈方面に歩くと突き当り。その左右に走るのが東海道で、左へ行けば七里の渡し、右が四日市方面。右に二軒目に「歌行燈」本店がありました。店頭は紫陽花で飾られている。海沿いの町でよく見かける板塀の小さなお店。お昼まであと少し。店に入ってみると3組くらいの客が待っています。自分の名前を書いていったんお店から出てみると、掛行燈にはまだ「志満や」の屋号が残されています。

 お店は落ち着いた雰囲気です。歌行燈御膳と、焼き蛤を注文しました。うどんは少しやわらかめ。うどんに乗っていた蛤も、天ぷらの蛤もおいしい。総じてダシがうまい。そして雰囲気や味の割には値段は手ごろに思います。ただ、このお店の焼き蛤は蒸し蛤でした。ふっくらと蒸し上がった蛤はとてもおいしかったけれど、弥次さん喜多さんでは松笠で焼くように書かれています。焼いたらどんな味が楽しめるんでしょうね。ランチも夜のメニューも宴会メニューもあります。次回チャンスがあれば桑名で泊まって、このお店で一杯飲んでみたいものだと思いました。

(つづく)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 伊勢大橋 ~「歌行燈」に引... | トップ | 湊屋 ~「歌行燈」に引き寄... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ本」カテゴリの最新記事