木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『友情』

2013-03-23 23:54:41 | 日記


「友情」フレッド・ウルマン

懐かしい青春の日々。

1932年、十六歳。
少年の友情にナチスが暗い影を落とす。


美しく高潔な友情に憧れるハンス。
優雅で自信に満ちた、伯爵家の子息コンラディン。
ふたりはお互いを認め合い、影響し合い友情を深めていく。

詩を読み、旅行をし、あらゆる事を語り合う。
時に激しい討論に至るも、真剣そのもので議論する。
相手に対する誠実さ故に、まっすぐにぶつかり合う事が出来る。

朴訥とさえ言えるシンプルに綴られる文章。
過去に対する優しさに満ちていると同時に、
底知れぬ哀しさ、癒されぬ傷が静かに横たわっている。
どのエピソードも重要であり、人物像が鮮やか。

絶望と憤りが有ってさえ、奪う事の出来ない友情の輝き。
色褪せない、忘れる事の出来ない気持ち。

純粋故に、ナチスに未来を見出すコンラディン。
ハンスのお父さんの考えや行動にも、胸を打たれる。

たった数ヶ月の交流が、人生に大きな意味を与える不思議。
一行の重さを実感する、見事な結末。

じんわりと、いつまでも心に残る名作。