木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『裏返しの男』

2013-03-06 18:37:04 | 日記


「裏返しの男」フレッド・ヴァルガス

ヴァルガス女史の創造する人物には、
好きにならずにはいられない優しさと可愛さがある。
登場人物それぞれの大変好ましい部分が、必ず描かれているので、
その世界に浸ることが、たまらなく心地好いのでR(あ~る)。

フランス、羊が草を食むのどか~な田舎。
ある日、数頭の羊が噛み殺されているのが発見される。
“ジェヴォーダンの狼”再び?
ついには、ある牧場主が噛み殺される…

復讐を誓う牧場主の息子と羊飼いの爺さん。
音楽家兼配管工のカミーユは請われて、手助けするハメに。
パリではアダムスベルグ警視が一連の狼事件に興味津々。
そして羊の被害は増え続け、被害地域も広がっていく…

犯人は狼か?狼男なのか?狼を飼いならす異常者なのか─?


取り留めの無い思考をもてあそぶアダムスベルグ警視。
理路整然と考えられないのが悩み。
ぼんやり一人で過ごすのが趣味。
川べりに座って、流れを枝でつついたり…
って大丈夫?しっかり~?!
大丈夫。
こんなんだけど、実は優秀。

工具カタログを見るのが趣味というカミーユ。
トイレだって、水道だって直しちゃう。
こんなんだけど、スゴイ美人。

大迫力の女牧場主や、捨て子だったという過去を持つその息子。
低音ボイスで羊に語りかける老羊飼い。
“臭い”“汚い”発言ひっきりなしな、狼とカミーユに夢中な熊の研究家。
ブランデー漬けのブドウ。
サン・ヴィクトールの地酒、甘口の発泡性の白ワイン。
あぁ、味わってみたい誘惑にかられる品々…
田舎の生活、キャンプ暮らしが微笑ましい。
いや、羨ましいとさえ思わせる描写の数々。

妙な組み合わせの連中による、不恰好な追跡劇が、
たまらなく魅力的。
恋愛の要素も、ロマンチックに絡みつつ。
意外な事件の真相に、えぇっ?!
…そうきたか。。。

剣突くしてない、今時珍しい包容力のあるミステリー。