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日本の「原発被曝者」知られざる実態(3)~放射線業務従事者等に係る疫学的調査結果

2011年02月12日 | 労働者被曝問題
第1部、第2部で原発被曝者の実態について訴える方たちを紹介したが、
いったい国はどこまでそれを把握し対処している(もしくは、していない)のだろうか?

調べていくと、国のいいかげんさばかりが目立ち、書き始めるときりがないほどだが、
ここでは1990年から行われている疫学調査について紹介し、今後またいろいろと追加していきたい。

2010年10月5日に開催された、第53回原子力委員会定例会議議事録には、
「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査の第Ⅳ期調査結果」が議題にあった。<結果の概要はこちら

議事録の一部を追ってみよう。


(中村参事官)
1番目の議題でございます。原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査の第Ⅳ期調査結果につきまして、文部科学省科学技術・学術政策局放射線規制室の中矢室長、放射線影響協会 放射線疫学調査センターの巽センター長からご説明をお願いいたします。


放射線影響協会のHPにある「放射線疫学調査」の説明<ブログ管理人>:
放射線疫学調査は、放射線を受けた人の集団でどのような病気がどのような頻度で発生するか、特にがんを中心として明らかにする調査です。
 これらの結果を用いて放射線業務従事者や一般の人々に対する放射線被ばくの影響をより少なくする有効な対策を見つけだすことができます。例えば、放射線業務従事者に対しては、健康への影響が容認できるレベルの放射線の被ばく線量を適切に定めるための基礎データを提供することが可能になります。
 この放射線疫学調査では、原子力発電施設等で働く放射線業務従事者を対象集団としています。
 この調査の目的は、低線量の放射線を長期に受けることによる健康への影響、特にがんで死亡する危険があるかないかについて明らかにすることです。

(中矢室長)
それでは、資料第1号に基づきまして、原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査の第Ⅳ期調査結果についてご報告させていただきます。疫学調査につきましては、平成2年度から原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査を、放射線影響協会に委託して実施してございます。
この調査は、協会の放射線従事者 中央登録センターに登録されております原子力発電施設等におきまして働いております放射線業務従事者について、その死亡率と日本人男性の死亡率との比較を行いまして、また従事者の死亡率と累積線量との関係を調べるものでございます。
これまで5年ごとにその調査結果をとりまとめまして、3回報告させていただいております。
今回は平成17年度から平成21年度までの調査実績を第Ⅳ期調査結果としてとりまとめてございます。
その調査結果につきましては、巽センター長から説明させていただきます。 よろしくお願いします。


(巽センター長)
(前略)解析対象集団全体と日本人 男性との死因別死亡率を比べる外部比較と、もう一つは、このコホートというんですが解析対象集団の中で累積線量カテゴリに分けた線量増加に伴って死亡率が増加する傾向性のある なしを統計的に検討する内部比較、この二つを行います。
(中略)死因別解析結果一覧とありますが、前回の報告、3期は平成16年までの調査実績でありますが、17年から21年まで の調査実績を加えまして集約し、第Ⅳ期調査結果としてとりまとめたものであります。
平成11年3月末までに登録された20歳から85歳までの男性業務従事者、これは退職された方も含まれますけれども、20万3,904名が調査対象集団で、平均の累積線量は13.3mSvで、平均観察期間は10.9年であります。あらゆる死亡原因による死亡ですが、全死因の欄にお示ししますように、平成3年以降の追跡調査から、1万4,224名 の死亡が確認されておりまして、この中で全てのがん、全悪性新生物による死亡は5,711名でありました。

最初にその外部比較という欄がございますが、まず、慢性リンパ性白血病、CLLと略させていただきますが、これを除く白血病の標準化死亡比、SMRは1.0で、前回と同様に 有意差が認められません
一方、前回調査で有意差なしでありました白血病を除く全悪性新生物、全てのがんですが、 これのSMRは1.04で、95%の信頼区間の下限が1.01ですので、有意に高いことが認められます。これは、その下にあります16部位について限定しました部位別のがんの うち肝がん、それからその下にあります肺がん、これは有意にSMRが高いことによると思われます。

なお、この中で非新生物疾患、がん以外の死亡、それから非ホジキンリンパ腫、それから 下の方の多発性骨髄腫のSMRは有意に低いことが認められました。
業務従事者集団内における死亡率と累積線量の傾向性 の有無を検定する内部比較で、CLLを除く白血病では、この左から順番にⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ 期、Ⅳ期という順番で、今回の5群に分けた線量群別の観察数と期待数の比をお示しします。 白血病の死亡数は前回79名だったのがⅣ期では133名に増加し、信頼区間も狭まっておりますけれども、下にありますp値が0.8で、傾向性は有意でございません。
全てのがん、悪性新生物(白血病を除く)の結果を左から1期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期とお示ししますけれども、今回5,711名の 全がんの縦軸のO/E比は、信頼区間の下限が1より上にあるものはないのでありますけれども、p値は下にあります0.024で5%を下回りますので、累積線量に伴う増加の傾向性が有意であります。
部位別がんについて、前回Ⅲ期の調査結果では食道、肝臓、それから例数は極めて少ないのでありますが、多発性骨髄腫が有意でありましたが、今回のⅣ期は肺がんと下から5つ目の非ホジキンリンパ腫が0.05を下回りまして、この二つが有意であるという、傾向性が有意という結果になりました。
これは死因別解析結果一覧の2でありますけれども、全がんの内部比較のp値は、白血病を除きますと0.032~0.024と差がありますが、さらに特に喫煙の習慣と関係が深いとされる肺がんを除きまして、白血病と肺がんの両方を除き ますと、0.171と有意でなくなりました。WHOでは肺以外にも喫煙が関連するがんと して口腔、咽頭、食道、胃、肝臓、膵臓、それから鼻腔、咽頭、腎臓、尿管、膀胱という泌 尿器のこれらをリストに挙げております。肺をはじめこれらの喫煙が関連するがんの全体の p値は0.009でありますが、この中で肺を除いてしまいますと0.108と有意でなくなります。それから、一番下の非喫煙関連がんについても有意の傾向は認められません。
Ⅳ期の正確な報告書、全体の報告書でございますが、これの70ページをお開けいただきますと、これは前回、Ⅳ期の間に行ったものでは ありませんで、Ⅱ期とⅢ期、これまで2回にわたりまして、たばこや飲酒、その他生活習慣 に関するアンケート調査を行っております。合計7万7,000人の方、20万人全体では ないんですが、7万7,000人の方に回答いただいております。その中で特にごらんいた だきたいのは、70ページの上の累積線量と喫煙者の比率というのが線量に応じて増加していることが有意であります。それから、一番下のカラムの30PacYearの、つまり多量に喫煙をされる方も年齢に関係なく有意であります。1日1~3合の中程度の飲酒をされる方の比率も線量に応じて増加しているということがわかっております。
あと、今回有意になりました5つの部位につきまして、この16カ所で有意検定を繰り返 しますと、チャンスとして20回に一度は有意となる可能性がございますので、それを補正するボンフェローニの多重比較法というものを採用して比較した場合には、食道、肝、肺、 それから非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、5つすべてが有意でなくなっております。
以上、繰り返しになりますが、結論は、白血病の死亡率は外部比較でも有意差はなく、内部比較でも線量との関連は認められませんでした。白血病を除くあらゆるタイプのがんは、喫煙関連のがんについての死亡率が日本人男性 死亡率よりも有意に高く、また累積線量増加との関連が認められました。これらから悪性新生物の中から肺を除きました場合の死亡率と、非喫煙関連がんの死亡率は累積線量との関連が認められておりません。
これらの事実を勘案しますと、外部比較において、日本人男性の死亡率より有意に高く、 内部比較において累積線量との関連性が有意であった全悪性新生物の死亡率は生活習慣等による影響の可能性が否定できません。

以上のことから、低線量域の放射線が悪性新生物の死亡率に影響を及ぼしているという明確な証拠は認められなかったと評価委員会で結論されております。 以上でございます。

気になるのは、例えば欧州放射線リスク委員会が2003年に勧告した「新しい低線量被曝の考え方」などを、きちんと踏まえて評価されたのかどうかだ。
調査や統計の取り方、評価の在り方には大いに疑問がある。


ここで、2002年に遡る。
北川れん子衆議院議員が、「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」について、
質問主意書を出し、小泉純一郎総理が答弁している。今でも通用する内容である。
この疫学調査に関する質問主意書は、1件しか検索できなかった。


第Ⅰ期報告では、結論は「低線量放射線が健康影響、特にがんに影響を及ぼしたとする証拠はみられなかった」となっている。この結論や、調査や統計のやり方などについて、専門家などから批判や疑問の声が出された。
第Ⅱ期報告書についても第Ⅰ期報告書同様、多くの問題点や疑問があるので、以下質問する。・・中略

(質問11)
第Ⅰ期報告も第Ⅱ期報告も、小さな項目のコメントでは「リスク評価をするのに充分ではない」「統計学的検出力が小さい」「有為な傾向性を示した」などの記述があるのにもかかわらず、結論は「影響がない」になっている。これは「始めに結論ありき」ではないか。このような不十分な調査を、多額の税金を使って行うことは今後やめるべきではないか。
 死亡者の死因に占めるがん白血病の割合は、全解析対象集団では三八・七%、前向き解析対象集団では四〇・六%と一九八六年から一九九七年の日本人男性 (三十五才から四十九才)の全死因に占めるがん白血病による死亡率二五・七%よりそれぞれ一三%、一四・三%も高い。この数字も、住所情報がわからない 人、日本国籍のない人、五年の住民票除票保存期間を超えた死亡者を除いている数字であることを忘れてはならない。


(答弁11)
 第Ⅰ期調査及び第Ⅱ期調査の報告書は、これまでの調査では、「低線量域の放射線が悪性新生物の死亡率に影響を及ぼしているとの明確な証拠は見られなかった」としつつ、解析対象集団が「低線量域の放射線被ばくに伴うがん死亡率のリスクを評価するのに足る十分な統計学的検出力を持つには至っていない」ことか ら、「低線量域の放射線と健康影響についてより信頼性の高い科学的知見を得るためには、長期にわたる観察が必要」などと述べており、「影響がない」と断定しているものではないから、御指摘は当たらないと考える。
 放射線疫学調査の信頼性を向上させるためには、長期にわたる生死確認の追跡調査、死因調査等を通じて取得した多くの調査データについて統計解析等を実施する必要があることから、今後とも調査を行うことが必要であると考えている。
 なお、放射線疫学調査では二十歳から八十四歳までの死亡者を対象にしており、死亡率を比較する場合は、同じ年齢分布の集団間で比較する必要があると考える。

当時「長期にわたる調査」の必要性を強調しており、以後これまでの10年間に3回目、4回目の調査が行われたが、4回目の結果も似たような内容である。しかも、後述するように、第Ⅲ期までの報告書が残っていないのでは、厳密な長期的比較すらできないではないか!)。


(質問6)
労災認定で闘った嶋橋伸之さんの放射線管理手帳は、請求してから数ヵ月後に多くの数字が訂正されて遺族に返された。放射線管理手帳は就業時に労働者本 人に手渡されているか答えられよ。放射線管理手帳は、本人が常に所持し、管理しているか。記入は鉛筆ではなく、ボールペン等で後に修正できないようなされ ているか。放射線管理手帳の数字と中央登録センターの数字は同じであることを確認しているか。この数字は本人が確認しているか。放射線管理手帳は離職時に 本人に手渡すことを義務づけるべきではないか答えられよ。


(答弁6)
放射線管理手帳(以下「手帳」という。)の取扱い、記入等の事務手続に関しては、
中央登録センターが「放射線管理手帳運用要領(事業者用)」及び「放射線管理手帳記入要領(事業者用)」(以下「運用・記入要領」という。)を作成しており、
これらに基づいて手帳の記入その他の運用が行われていると承知している。
運用・記入要領においては、参加事業者は、事業所で作業者を放射線業務に従事させる場合は手帳を携行させること、手帳の保管は原則として当該放射線業務 従事者等を雇用している参加事業者が行うこと、参加事業者が手帳の記入をする際には、原則として黒ボールペンを使用し、自動記帳機の場合は黒リボンを用いること等とされている。
 
手帳に記載されている被ばく線量等の数字と中央登録センターに登録された線量記録等とを照合して確認することについては、手帳の記入等の運用が放影協と参加事業者及び手帳発効機関との間の契約に基づいて自主的に行われているものであること並びに手帳の記入等の運用状況にかんがみ、
政府が、個別の手帳の内容について確認する必要があるとは考えていない

放射線業務従事者等は、自己の放射線管理の記録等について、雇用する参加事業者等に申し出て照会することができるものと承知している

また、運用・記入要領において、放射線業務従事者等が退職等で離職する場合には、本人に手帳を渡さなければならないとされているところ、これを法令等で義務付けることについては、手帳の運用が放影協等において自主的に行われていることにかんがみ、その必要があるとは考えていない

嘆かわしいことに、見事に事業者と放射線影響協会の「自主性」にお任せで、これでは政府は被曝労働者を救済したくないという主張でしかない。
原発運転開始後40年間に30万人規模の労働者が被曝。うち労災補償の申請20件、認定10件しかない事実が物語っている。

また、住所や本籍が中央登録センターに登録すべき項目とされておらず、外国人についても同様(答弁1)という事実は、未成年者やホームレスの人を働かせるためではないのか。

さらにあきれた事実がある。
Ⅰ期調査及び第Ⅱ期調査に国が支払った費用の総額は三十九億四千五百七十七万九千円(答弁12)。
これほど多額の税金を投入して作成しながら、
放射線疫学調査の報告書の保存期間は、文部科学省文書処理規則(平成十三年文部科学省・文化庁訓令第一号)第六十二条により三年とされている。(答弁13)

実際、放射線影響協会のHPで疫学調査報告書という項目を見ても、第Ⅳ期の報告書のPDFしかない。すなわち、第Ⅲ期までの報告書はすでに削除されてということか?!
国民の税金を使って作成する公文書は、国民の財産のはずであり、通常は30年位は保存してから公文書館などに移されるはずだ。
広島や長崎での被曝調査のことを考えると、30年では短すぎる。少なくとも、原発を稼動もしくは廃炉を解体する間はずっと保存するべきである。

第53回原子力委員会定例会議議事録に戻ろう。
最後に、以下のような気になる審議があった。こんなメンバーで公正な疫学調査などできるはずがない!


(近藤委員長)
私から一つ質問させていただいていいですか。質問は、4ページにあります疫学調査運営委員会のメンバーを見ますと、事業所の関係者がほとんどなんですけれども、これはこうしなければならない理由が何かあるのでしょうか。

(巽センター長)
調査運営につきましては、計画の細かいことの全体として、例えばアンケート調査をやりました、生活習慣などをやりましたというときには、事業所の配布とかいうようなことがありますので、協力体制をお願いしたいということでこういうふうになっておるかと理解しております。

(近藤委員長)
調査運営というから、調査の手続上、職業、昔の職場の関係者ということで連絡ルートが確立しているから使いやすいという意味でこうなっていると。


(巽センター長)
もう少しつけ加えますと、実際の場合ご協力いただくことが可能か不可能かとかそういうことも含めて実態を、調査の在り様についてこういう方々にお伺いをしている ということであります。

(近藤委員長)
そういうことであって、データ入手や解析に、これらの人々による影響が発生 する可能性はないと考えて良いのですね。こういうことについてもある種の独立性とかとい うことを気にする人もいないわけではないので、そういう断り書きを入れるとか、ここまで立派な仕事をされているわけですから何か気配りがあってもよろしいかなと思いました。


(巽センター長)
ご指摘の点、検討させていただきます。

いつまでにどのように検討するのだろう?