原子力エネルギー問題に関する情報

杜撰で不経済極まりない原子力政策が、生存権を脅かし環境を汚染し続けていても、原発推進派の議員を選挙で選びますか?

外国人やホームレスは労働被曝調査対象外!原発被曝者が圧倒的に少ない「発電所社員」!

2011年03月09日 | 労働者被曝問題
中国電力が上関原発のための埋め立て工事を強行し、Twitterでも大きな反対運動が沸き起こる中で、元中国電力子会社社員、Yas Miwaさんの以下のようなTweetがあった。

私(元中国電力子会社社員)が原発を否定する理由=>放射性廃棄物、大量の温排水、災害時の暴走。そして一番は内部の修理等に下請け会社の作業員を使い、被爆死を招くこと。 ( #kaminoseki live at http://ustre.am/uiOX)

私(元中国電力子会社社員)の告白=>私の友達の菊池洋一さんは、GEで浜岡原発を作っていらっしゃいましたが、炉内作業時の被爆労働者が必ず必要なことに気付き、会社を辞め、反対活動をされています。 (live at http://ustre.am/tIE8)

真実をみんなが知るチャンスです!http://www.stop-hamaoka.com/kikuchi/kikuchi2.html (live at http://ustre.am/tIE8)

真実を知るリンク先は、元GE技術者・菊地洋一さん講演録「命はほんとうに輝いている」(2003年3月31日 三重県海山町)である。
Yas Miwaさんご自身は子会社のシステム関係に携わり、お友達でGEの原発部門の統括をされていた菊地洋一さんから、詳しい情報を直接聞かれたそうだ。

以下にも一部引用するが、菊地さんの講演録には信じ難い多くの事実が記されている。是非ご一読願いたい。
国会議員も経産省の官僚も原子力委員たちも、このような重大な事実を知らないのだろうか。もし、知った上でなお原子力政策を推進しているのだとしたら、明らかに労働被曝の加害者だといわざるをえない

前回のエントリ「日本の「原発被曝者」知られざる実態(3)~放射線業務従事者等に係る疫学的調査結果」では、2002年に社民党・北川れん子衆議院議員が提出した「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」についての質問主意書および、小泉純一郎総理の答弁を引用したが、一部引用しなかった部分がある。

それは、Yas MiwaさんのTweetにあった、「下請け会社の作業員を使い、被曝死を招くこと」「炉内作業時の被曝労働者が必ず必要なこと」に関わる部分である。
菊地さんの証言にあるような被曝労働者の実態は、国の被曝調査結果に反映されているとはとてもいえない

まずは、以下の質問趣意書と答弁の内容をみてほしい。


(質問4)と(答弁4)
第Ⅱ期調査で解析対象から除外された

(一)放射線業務に従事しなかった者、54,811人
(二)日本国籍を有しない者3,688人
(三)住所情報が得られなかった者36,702人
(四)一九九九年三月三十一日までに住民票または除票の交付がなかった者、28,194人
(五)保存期間五年を超えた除票の交付があった者、1,860人
(六)個人の観察期間にわたって、
   年齢が二十才未満の者、および八十五才以上の者、97人
(七)女性、948人
以上七つのグループについて、各々の人数の内訳を明らかにせよ。

(一)のグループについて、具体的にどういう人をさすのか。なぜ業務に従事しないのに、登録されているのか明らかにされよ。
(二)のグループについて、東京電力のシュラウド交換の作業では、外国人労働者が一番被曝量の多い作業を行っている
(三)のグループについても、被曝量の多い作業に従事している確率が高いことから
(二)と(三) のグループの被曝量の平均値、最大値、最小値を明らかにせよ。 

(答弁4)続き
 御指摘の「(一)放射線業務に従事しなかった者」とは、中央登録センターに事前登録がされたものの、実際には放射線業務に従事しなかった者であり、登録された時点では放射線業務に従事することが予定されていたため登録されたものと考えられる。
 放影協において算出したところ、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)の施行の日から平成十年三月三十一日までにおける
(二)日本国籍を有しない者」の一人当たりの平均累積線量は4.7ミリシーベルト、累積線量の最大値は200.7ミリシーベルト、累積線量の最小値は0ミリシーベルトであったと聞いている。
また、同期間における「(三)住所情報が得られなかった者」の一人当たりの平均累積線量は1.4ミリシーベルト、累積線量の最大値は266.5ミリシーベルト、累積線量の最小値は0ミリシーベルトであったと聞いている。

ここで、以下の菊地さんの講演内容を見てほしい。
・・・だんだん、だんだん、原発が嫌になって、それで最後には原子力発電所を目の敵にするくらい嫌になってしまったのです。
  その大きな理由の一つはですね、原子力発電所が動いている限りは、被曝労働者を必要とするのです。・・・原発も毎年止めて、炉を点検して修理したりしなければいけないのですけれど、これが大体が被曝作業なんですね。
  僕は・・、お湯を沸かす原子炉の中にも入るような仕事を経験しています。これは古い原子炉でやっています。これはとんでもない被曝作業で、外国人の労働者をたくさん使ってやったんですけれども、大変な恐怖の仕事です。そういうことが原子力発電所がある以上は続くということですね。・・・


放射線業務従事者の線量限度は、5年間につき100mSv、および1年間では50mSvとなっている。

だが、答弁書によると3700人近くもいた「外国人労働者」の中には、最大累積線量200mSvの被曝者もおり、何年間の累積線量なのかもわからず、たとえその後も被曝作業を続けているとしても、追跡調査ができないのだ。

さらに、30年以上労働被曝だけを追ってきた報道写真家樋口健二さんの報告(前回のエントリ日本の「原発被曝者」知られざる実態(1)でも紹介されている)に出てくる「ホームレス」が含まれていると思われる、「住所情報が得られなかった者」が3万6千人余りもおり、266mSvという高い累積線量の人がいるにもかかわらず、解析対象から除外されていることも、「外国人が解析対象外」であることと同様重大な問題である。


第Ⅰ期~Ⅳ期の報告書の概要からは、以下のような平均累積線量しかわからず、第Ⅳ期だけは全報告書も検索できたが、最大累積線量は見つからなかった。
第Ⅰ期 13.9mSv(ミリシーベルト)
第Ⅱ期 15.3
第Ⅲ期 12.2
第Ⅳ期 13.3


10万人単位の解析対象者の数で割って単に平均を出し、年間線量限度50mSvを超えてないとみなすのは、あまりにも無責任な報告の仕方ではないか。しかも、報告書の保存期間はたった3年間という出鱈目さである。
その上、これらの数値には、菊地さんのいう「とんでもない被曝作業を行っていた外国人労働者」や樋口さんの報告にある「ホームレス」のデータは含まれていないのだ。本当に救済の必要な労働被曝者の存在を知ろうとしない疫学調査など、意味がない。それどころか人権侵害といえよう。



もう一つ人権問題がある。
経済産業省 原子力安全・保安院が、毎年「原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況について」という報告書をだしている。たとえば、平成21年度版はこちら

この報告書にある、「放射線業務従事者の線量分布」という一覧表には、発電所名ごとに線量分布が載っているが、なぜか「放射線業務従事者」が「社員」と「その他」という区分に分かれている

全国17の「実用発電用原子炉施設」について、過去の5つの報告書から、「10mSvを超え15mSv以下」および「15mSvを超え20mSv以下」の線量分布を抜き出し、「社員」と「その他」がそれぞれ何人いるかを見てみよう。
(この5つの年を選んだ理由:
平成15年2月の第156回予算委員会第5分科会で、民主党の楢崎欣弥議員が、
『平成13年度に浜岡原発で「15mSvを超え20mSv以下」が突出している』と質問しているのに、
政府参考人は平成12年度の報告書で答弁していた(なんといういい加減さ!)
ため、確認したくて検索。
あとはその翌年14年から最新の21年まで3年分検索ででてきた報告書を選んだ。保安院のHPに一覧で出ていないので、非常に探しづらかった。よほど読んでほしくないのだろう。ドイツの行政情報ではありえないことだ)


       10mSvを超え15mSv以下  15mSvを超え20mSv以下

平成12年  社員        2人          0人
       その他    1124人        418人

平成13年  社員        8人          0人
       その他     997人        272人

平成14年  社員        7人          3人
       その他    1374人        556人

平成18年  社員        4人          0人
       その他     882人        243人

平成21年  社員        2人          0人
       その他    1072人        258人

5年間の合計で、被曝の多さが特に目立つ発電所
東京電力      社員     9人          0人
福島第一      その他 1438人        492人

中部電力      社員     8人          3人
浜岡        その他  609人        313人

関西電力      社員     2人          0人
大飯        その他  738人        251人

保安院がどういう目的で、「社員」と「その他」を分けて統計をとっているのかはしらないが、「その他」の労働者と比べて被曝者が圧倒的に少ない「社員」は、「その他」の労働者の過酷な被曝の実態を知る機会などないのではないか。

30年以上労働被曝だけを追ってきた報道写真家樋口健二さんの報告(前回のエントリ日本の「原発被曝者」知られざる実態(1)(2)でも紹介)  をTwitterで紹介すると、推進派や電力会社の社員と思われる人たちから、必ずといっていいほど以下のような反論がくるが、詳細な情報が提示されたことはない。

「現在において樋口氏の報告は事実ではありません」
「昨晩、あるプラントメーカーと話をしました。その会社は原子炉内の作業を行うロボットを開発しているのですが、樋口氏の話をすると『ホームレス?』と私と同じ反応でした。何度も言いますが、人間の手が必要な場所は一流の職人が作業をします」


このような人たちは、浜岡原発の1km北に住む川上武志さんの以下のような記事の内容なども否定するので、水掛け論に終わり議論の余地がない。

浜岡原発、労働者の使い捨てと安全教育について 

私は2003年8月から、御前崎市にある浜岡原子力発電所で働くようになりました。中電の社員であろうが、私のような下請け労働者であろうが、原子力発電所で働くにあたって必ず安全教育を受けることになっています。過去に何度となく受けた記憶があるのですが、浜岡原発でももちろん受講しました。この安全教育では、放射線が危険だとはいっさい教えてくれません。たとえ放射線を浴びる現場であっても、人体にまったく影響のない程度だから安心して働きなさいと教えてくれるだけです。・・・

 ・・・あの伏魔殿では、内部告発がない限り明らかにされない不正はいっぱいあるし、それに定検時に、自分の命とも言えるアラームメーターを持たされずに高放射能エリアに入らされる派遣労働者がいるという話が、以前から浜岡原発では盛んに囁かれていました。では、管理区域内での所持を法律で厳命されているアラームメーターはどうしたかと言えば、作業員の体から外され、線量のない場所に保管されて体だけが高放射能エリアに入っていくのです。そうすれば、高線量作業だったという証拠は何も残らず、その作業員を何度でも同じ作業につけることができます。・・・


前述の保安院の報告書には、平均線量だけでなく最大線量もあるが、
「社員」はほとんど一桁、「その他」も20mSv以下(5年間で一例だけ25.5mSv)
となっている。
アラームメーターもはずし、放射線管理手帳は事業者が保管しているのだから、高線量のデータがあるはずがない!

なお、川上武志さんの記事には、解雇される直前に、ホールボディカウンター(人間の体内に摂取された放射性物質の量を体外から測定する装置、もしくは測定すること。原発内で働いている労働者は定期的に受けたり、退職や移動などの理由で原発から退所する時には必ず受けなければならない)の身代わりを強要された労働者に関するものもあるので、是非ご一読願いたい。
浜岡原発、ホールボディカウンターの身代わり(1)
浜岡原発、ホールボディカウンターの身代わり(2)

菊地さん、樋口さん、川上さんのように「原発被曝者」の真実を伝えようとする方たちの情報を、電力会社の広告に頼るメディアが報道しない以上、個人個人がネットメディアを使ってもっと広めなければならない。

前回から引き続き問題にしてきた文科省委託の疫学調査といい、原子力保安院の線量管理状況報告といい、真の現状を把握しておらず労働被曝者の救済には結びつかず、全く無意味であるどころか、犯罪的な労働被曝強制を野放しにしているだけだ。

日本の原子力エネルギー政策は、原発立地の住民の平穏な生活を台無しにするだけではなく、電力会社と行政による組織的な労働被曝強制という、明らかな人権侵害を続けていることがわかる。すなわち、原子力政策そのものが憲法違反ではないか!


政権当時の2000年に脱原発を決めたドイツの野党は、今の政府が決めた原発稼動延長は違憲であると、憲法裁判所に提訴した。野党に先立ち、ドイツの環境NGOと最古の原発7基の地元住民も、基本的人権の侵害だとして違憲訴訟している。
日本でも、脱原発を公約する国会議員は、原子力政策は憲法違反だと提訴してほしいところだが、今の腐敗した日本の司法に違憲判決は望めまい。ドイツで違憲判決が出れば原発稼動延長は覆されるが、たとえ日本で違憲判決が出ても、今の政権は決して脱原発に方向転換することはないだろう。

有権者が脱原発を公約する政権を選ばない限り、根本的な解決策はない。
そしてその政権が、縦割りでわかりにくい原子力・放射線防護行政をドイツのように一元化しなければならない。


続きは次回。