原子力エネルギー問題に関する情報

杜撰で不経済極まりない原子力政策が、生存権を脅かし環境を汚染し続けていても、原発推進派の議員を選挙で選びますか?

中国電力島根原発 杜撰な点検漏れと記録管理

2010年04月12日 | こんな国と事業者に原発を任せられない!
中国電力が3月30日、 島根原発1、2号機(いずれも県庁所在地松江市)で計123カ所の点検漏れがあったと発表した。(日経新聞には、「多数の」点検漏れという短い記事しかなかった)点検漏れというより、点検記録偽造といったほうがふさわしいのではないかといいたくなる。

中国電力の今回の重大な事態に関し、わりと詳しい毎日新聞地方版の記事と、数日後の全国紙社説、および中国地方の地方紙などの報道から、以下に全体像をまとめてみた。

中国電力という企業の杜撰な安全管理体制や過去の反省をしない体質、経済産業省原子力安全・保安院、および島根県の鈍い対応が、過去の原発やもんじゅの事故にも共通しており、日本の原子力関連企業や組織が揃って、いかに信頼に値しないものかがよくわかると思う。

<経済産業省原子力安全・保安院、および島根県の遅い対応と市民団体の抗議>

(山陽新聞・4月7日) 
 経済産業省原子力安全・保安院の現地事務所が1月下旬に中国電力から問題発覚の一報を 受けていたのに、3月中旬まで保安院に報告していなかったことが7日、分かった。
 市民団体「島根原発増設反対運動」(芦原康江代表)が7日、「問題を見抜けなかった責任は重大」などとする抗議文を保安院の現地事務所に提出した際、朝倉博文所長が明らかにした。
 朝倉所長 は、もともと3月に予定されていた保安検査で詳しく調べてから保安院に報告するのが適切と判断したと説明。市民団体から「問題がなかったか」と詰め寄られ たが、「判断は間違っていない」と答えた。
 市民団体は島根県にも抗議文を提出し、県の担当部署が3月16日に中国電力から問題の一報を受けたのに、知事に約2週間報告していなかったことについて「緊張感に欠ける対応」と指摘。9日には中国電力に対し「原発を建設、運転する資格がない」として2号機のプルサーマル計画の中止などを申し入れる。

<点検漏れについて>

(毎日・3月31日) 
 報告書によると、点検漏れがあったのは、1号機が、異常時に原子炉内に水を送る高圧注水系のタービンを回すための「蒸気外側隔離弁」など14系統74カ所、2号機が8系統49カ所。うち、法律で定められた検査対象は、38カ所と23カ所あった。
 09年6月の定期検査で、蒸気外側隔離弁のモーターが、06年9月からの定期検査で取り換えるはずだったのに実施されていなかったことが発覚。詳しく調査したとこ ろ、ポンプのパッキンやボルトなど計123カ所の点検漏れが分かった。 機器の中には、1989年以降、点検されていなかったものもあるという。
中国電力によると、機器のサイズが合わず交換できなかった場合などに、点検部署が点検管理部署にその事実を伝えていないことがあった。 管理部署は確認しないまま、点検したものとして処理していたという。

(読売社説)
 社内規定で決められた部品交換や分解点検を定期検査の際に実施していなかった。現場の点検状況をチェックすべき管理部署もこれを見過ごし、放置していた。 トラブル時に原子炉に冷却水を注いで冷やす高圧注水系では、弁のモーターを社内規定の交換期間を超えて使っていた。故障すれば安全性を左右しかねない。

(朝日社説)
 定期検査のときに、部品の交換や点検をせずにすませていたことが計123件あった。万が一の際、原子炉を止める緊急炉心冷却システムの関連機器も含まれている。

(毎日新聞 3月31日)小林 圭二・元京都大原子炉実験所講師(原子力工学)の話
 なぜこんないいかげんな扱いをしたのか理解に苦しむ。点検されていなかった弁は、事故時に放射能を帯びた蒸気が原子炉格納容器の外に出るのを防ぐためのもので重要性は高い(中国電力の)体質の問題で、本当に原発を安全に運転できるのか疑問だ。


<杜撰な点検記録について>
 (毎日・3月31日)
 中国電力は30日午後、島根県庁で記者 会見した。清水希茂・島根原子力本部長らが「心配をおかけしたことについて、誠に申し訳なく、深くおわび申し上げます」と謝罪した。点検記録の保存自体が ずさんで「検査したかどうか分からないものもある」と説明するなど、無責任な安全管理体制が浮き彫りになった。
会見では、「安全管理意識が決定的に欠如していないか」といった質問 が矢継ぎ早に飛んだが、幹部たちは答えに詰まりながら「全力で安全管理に努め たい」と繰り返すだけだった。また、「いつからこんな事態になったの か」との質問に対し「 点検記録が残っている中で最も古いのは89年の1号機。記録が残っていないものもあり、検査したのか、していないのか、分からないものもある」と いった回答まで飛び出した。

(毎日社説)
  本来は06年に交換したはずのモーターが、昨年6月の定期検査で交換されていないことが分かった。。納入されたモーターのサイズが異なり、交換できず持ち帰ったのに、記録上は交換済みになっていたという。異常時に原子炉内に水を注入する高圧注水系の蒸気弁を作動させるもので、安全上、重要な装置だ。 あきれるほどの、 ずさんさである。改めて過去の点検計画表と、点検記録を照合した結果、定められた分解 点検や消耗品の交換がされていないケースが多数見つかった。 記録が不備で、1号機が稼働した74年以来、点検や交換をしたのかどうか分からない部品もあるという。

(読売社説)
 発端は昨年6月、記録上は交換済みの1 号機部品がメーカーから納入されたことだ。実際は交換済みという記録が間違いで、納入品は、交換すべき時期に発注した部品が遅れて届いたものだった。これを受けて社内で調べたところ、次々に問題が見つかり、今年3月末、公表した。詳しい再点検のため原子炉の運転も止めた。
 定期点検項目は1、2号で計約7万件にのぼる。再点検を終えたのは、うち安全上重要な機器など1万2600件だ。まだ点検漏れが見つかる可能性がある

(産経主張)
 島根原発の過去の点検履歴には不明の部分もあるという。 18年には、経産省が各電力会社に対し、それまでの不正の総点検を促し、一斉報告を求めたことがある。そのとき、どうして点検漏れを見逃したのか。中国電力には猛省を求めたい。

<新検査制度について>

(毎日・3月31日)
 原発1基の点検項目は数万件と膨大で、 国が逐一検査できない。このため、電力会社が自ら安全運転に必要な「保安規定」を決めて定期検査し、国が検査体制の不備を抜き打ち審査する仕組みになっている。 02年と06年に判明した電力各社の点検記録の不正に対する反省から法改正して決められた
  09年には、この自主検査体制への信頼性に基づき、国の定期検査を現行の13カ月間隔から最大2年間隔に 延ばせる「新検査制度」が導入された。
今回判明した問題は、こうした自主検査体制の信頼性を損なう恐れがあ る。中国電力は、過去の不正の反省から、点検作業自体とその確認を別の部署で行う体制に改めた。しかし、点検部署が発電所内の検討抜きで部品交換を見送った上に、確認部署も作業計画変更の連絡がなかったため「交換済み」と記録するという形骸(けいがい)化した体制の一端が明らかになった。

(毎日社説)
 日本の原発は地震や検査による運転停止が多く稼働率は60%台と米国や韓国と比べ低い。これを80%台以上に高めたいという願いが電力業界にある。コストや二酸化炭素の削減につながるという理屈だ。こうした声に押され定期検査の間隔を延ばす動きがあるが、今回の事例を見ればすんなり認めるわけにはいかない。

(読売社説)
 原子力発電は、電力の安定供給と二酸化 炭素の排出削減に貢献が期待されている。だが、国内の原発は、地震による損傷などで稼働率が7割に達していない。
政府はこれを国際水準の8~9割に上げる目標を掲げ、
点検制度も柔軟にした。運転実績の良い原子炉は、点検間隔を現在の13か月よりも長くすることができる
 しかし、現状は、点検間隔を延ばすどころでない。規制当局も速やか な対応ができないと信頼を得られない。電力会社、規制当局とも緊張感を持ってもらいたい。

(朝日社説)
 運転中に二酸化炭素を出さない原発が、温暖化防止で一定の役割を果たすのは確かだ。政府も、現在60%台にとどまる原発の稼働率を80~90%程度に上げようとしている。
 すでに、そのための新検査制度もできている。13カ月ごとだった定期検査の間隔を長くできるほか、運転中の点検も認めることで定期検査のための運転停止 を短くする内容だ。
 であればこそ、点検など安全性確保のた めの作業には一層の注意が求められる。いうまでもなく、稼働率に気を取られて安全確認をおろそかにすることなど、 あってはならない。

(産経主張)
 日本の原子力発電にとっての課題の一つ は、60%台と世界的にも低い稼働率の向上だ。その改善に向け、適切な定期検査や管理を前提として、連続運転期間を延ばせる道が開けた直後の不祥事だ。

<関西電力美浜原発事故の例を挙げた社説>

(毎日社説)関西電力美浜原発で04年、2次系配管から水蒸気が漏れ、作業員5人が死亡する事故があった。配管の肉厚が薄くなっていたのが原因だ。 破損個所は長年点検リストから漏れており、稼働以来28年間も交換されていなかった。適切な点検を怠れば惨事につながるという見本である。

(産経主張)
 平成16年に関西電力美浜原子力発電所3号機で配管が破裂し、高温の蒸気で5人が死亡した大事故も、点検漏れが原因だった。中国電力は、あの重い教訓を忘れたのだろうか。 【引用ここまで】

【私のコメント】02年と06年に電力各社の点検記録の不正が判明したというのに、そんな会社に自主検査させるように法改正をしたのでは、何の効果もないどころかますます杜撰になることを、中国電力が証明した。
 おまけに、なんとしてでも原発を推進したい経産省の原子力安全・保安院(名ばかりの)が、いくら抜き打ちで審査をしても改善されるわけがないことは、過去10年間に1463件の事象(事故とはいわないらしい)が起きたという事実が物語っている。しかも、老朽化が進む一方にもかかわらず、稼働率向上のために定期検査の間隔を延ばすなど、大事故の可能性を増大させるばかりではないか。
 ただでさえ、 当ブログにまだ紹介しきれていない、深刻な放射能汚染や周辺住民の健康被害の実態が、数多くあるのだ。このような杜撰で安全管理も任せられないような企業が原発を稼動させている限り、取り返しのつかない事態になる前に、一日も早く原発を停めねばならない。

 これまでに、地震などで何度も原発が停まっても停電の問題にならなかったように、日本には原子力依存率に匹敵する発電設備が余剰になっているという。社民党の脱原発政策から一部抜粋する。

「現在、原子力発電が電力供給に占める比率は約3分の1ほどです。ところが実際には、電力ピーク時でさえ約7000万kw、30%以上の原子力発電以外の設備が余剰になっており、設備能力だけで言えば原子力発電を明日からゼロにすることも可能なのです。このような状況を引き起こしているのは、原子力発電をベース電源と位置づけているからで、この役割をまず天然ガス複合発電に置き換えます。その上で、老朽化した原子炉を運転中止し、20年以上運転した原発は原則として廃炉とします」。

 問題は、経産省と独占状態の日本の電力供給会社が、実質的にエネルギー政策の主導権を握っており、おそらく国会議員の多数が原発利権に絡んでいることだ。国政選挙で原発推進派の議員を国会から一掃する以外、社民党の目指す脱原発政策を実現する手立てはないだろう。

 実際、ドイツは九〇年代末に「脱原発」を決めた政権交代があり、再生可能エネルギーの普及を進めながら多くの雇用を生み出してきた。日本のメディアは電力会社からの広告収入のために真実を報道せずにきたが、ドイツのように国民に正しい情報が十分行き渡っていれば、危険で不経済な原子力エネルギーに依存しないという政権を選ぶのは、当然なのだ。

 ここで、21名がリツィートしてくださった私のつぶやきを転載する。
@hatoyamayukio オーストリア、ドイツ、アイルランド、イタリア、ラトヴィア、ノルウェーの環境閣僚級会議の共同宣言で、原子力エネルギーは持続可能な発展というコンセプトには合致せず、気候変動対策の選択肢にならないという見解を強調。これらの国々に対しどう反論し説得しますか?

 次の国政選挙では、小沢環境相のように「地球温暖化対策基本法」に原発推進を追加するような政治家ではなく、上述の国々の環境閣僚のような政治家のみを選ばねばならない。 

 なお、上記引用した社説では「原発が運転中に二酸化炭素を出さず温暖化防止の役割を果たす」ことを前提としているが、これに反論する京都大学原子炉研究所 小出裕章氏の論文を、当ブログの「原子力発電所もまた大量の二酸化炭素を放出する」で紹介しているので、是非お読みいただきたい。


 付記) 中国電力は現在山口県上関にも原発建設を計画してお り、瀬戸内海に最後に残された生物多様性のホットスポットが著しい被害を受ける危険に晒されている。そのため、日本生態学会は3月に、上関原子力発電所建設工事の中断と生物多様性保全のための新たな調査と対策を求める要望書を提出した。