
沈黙の誓約
ある結婚式であった事です。
祝賀客を迎える新婦側の両親の顔が憂いに満ちていました。新郎の両親は、はじめから結婚式場に現れる気配もありませんでした。一人で立っている新郎をのぞき見る新婦の表情が暗くなりました。決して幸福だとはいえない一方側だけの結婚、新郎側の両親は二人の結婚を強く反対したのです。
新郎となる男は、父親の前に膝まずき切実な気持ちで哀願しました。
「お父さん、どうか。」
「絶対に、だめだ。」
何ヶ月もかけて許しをもらおうとしましたが、返ってくるのはひどい挫折感だけでした。男は結局、両親の意思に逆らうことになりました。
見掛けは他と変わらない結婚式場の空席のように、胸の片隅がぽつんと空いたまま執り行われた結婚式でした。媒酌人の祝辞が始まりました。
「え、、黒い髪が白くなるまで愛することもいいけれど、私のようにはげになるまで愛することもいいことです。」
式場のあちこちから爆笑が起こりました。媒酌人の一言一言が沈鬱としていた式場の雰囲気を変えて、新婦の顔にも幸福な微笑が浮かんだ時でした。
祝賀客は新郎の手がマメマメしく、動いているのを見ました。聞く事のできない新婦のために、手話で媒酌人の言葉を通訳してあげていたのでした。
「え、、、新郎新婦が永らく仲睦ましく暮らすには、二人にこの頭のように光を放つ言葉を惜しみなくしてあげなければなりません。」
瞬間、場内は粛然とし媒酌人は本当の光を放つ一言で挨拶の言葉を終えました。
「今、この世で一番素敵な新郎が一番美しい新婦に、この世で一番美しい話をしてあげています。」
しばしの沈黙が流れた後、祝賀客が一人二人と席から立ち上がりました。
そして熱い拍手を送りました。
「ありがとうございます。」
それは苦痛に耐え抜いた新婦と新婦の痛みまで愛する新郎に送る賛辞であり喝采でした。