中東で日本人3人が誘拐されたあの事件。当時の首相から「自己責任論」が飛び出し、果ては彼らの「自作自演説」まで流布され、いまだに記憶に残っている人も多いのではないか。これらの事件を下敷きに真山仁の筆は進む。
この「自己責任論」がどのように政府主導で進められたかを民放PTB(TBSと思われる)の風間が体を張って報道しようとする。が、宗教団体がらみの弁護士一家殺人事件の裏を公にされ、PTBはスキャンダルによって巨大な力にねじ伏せられてしまう。
政官財がPTBを骨抜きにしようと、PTBの粉飾決算疑惑に検察が動く中、PTBも内部では腐敗が進み、一丸となって外部と戦うという状況ではなかった・・・
とまあ、テレビを取り巻く利権のすさまじさが描かれる。テーマはそんな四面楚歌という状態で、風見たちが「報道の自由」をどう守る(取り戻す)のかという点。
相変わらず資料を読み込んでわかり易く構築していく筆力はさすが。ただ、「ハゲタカ」ほどキレがないと感じたのは気のせいか。「イラク人質事件」「オウムによる坂本弁護士一家殺害事件」という事件がうまく小説になじまず、木に竹を接いだ感がややある。めずらしくタイトルにキレがない気もする。
ただ一方でお笑い番組の人気プロデューサーや「24時間テレビ」などがバランスよく絡んでくるあたりは読ませる。
良質の社会派エンタテインメントであるには違いない。
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