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動機

文藝春秋

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 それぞれのプロットを長編にも引き伸ばせるだろうから、もったいない気がしないでもない。そんな話をこれでもか!とぶつけてくる著者に脱帽。

 著書名にもなっている「動機」。一括保管していた30冊の警察手帳が盗まれるという大失態に、提案者の貝瀬は呆然となる。どう考えても外部からの犯行は無理だ。だとすると内部の誰が、どんな動機で、という筋立て。疑心暗鬼となる署内の各部、マスコミ発表のタイミングを計る幹部とのせめぎ合いという緊迫感の中、物語は進む。
 そしてこの筋立てに貝瀬の家庭事情が絡むのが横山流。貝瀬が精神科に入院中の父を見舞うところからこの小説は始まる。この父もかつては警察官だったのだ。
 証拠のない犯行で、仲間の警察官を疑い取調べを進める貝瀬は痛々しい。読者も心痛を共有するだろう。しかし、意外なラストとともにぽっと火の灯るような暖かさを心に感じて、頁をめくることができるはずだ。これも横山流。

 「逆転の夏」は仮出所した男の物語。いわれのない差別や冷たい視線、前科を知られるのではないかという不安を抱えながら懸命に勤める山本の心情をよりよく理解できるのは、新保裕一の『繋がれた明日』記事を読んだおかげか。しかし、未読の方でも本作を読めば、その過酷ともいえる生を実感できるだろう。なによりスケールの大きな構想に舌を巻く。これ長編で読みたかったな(^^;)。
 悲壮なラストだが、それでも救いはある、と感じた。

 「ネタ元」は元事件記者である筆者ならではの作品。警察と記者の間にある微妙な持ちつ・持たれつの関係や駆け引きを描ききっている。
 県民新聞の記者水島真知子に全国紙、東洋新聞から引き抜きの声がかかる。しばらくは有頂天の真知子だったが、やがてその理由に疑問を抱く。「なぜ私なのか?」その理由が自分のネタ元だと知ったときの真知子の落胆、そしてネタ元との関係・・・。人間関係抜きに横山作品は語れないが、本作は特に秀でているように思う。

 「密室の人」にはのっけから「あっ」と驚かされてしまう。裁判長の安斎が裁判中に居眠りをし、しかも寝言まで発したということを弁護人から突っ込まれる事態となる。さらにこの醜態をマスコミが嗅ぎつけ、記事にされそうになった安斎は「依願退職」を強制される・・・。
 この事件の裏には意外な人間関係があるのだが、これ以上は書けません(^^;)。
 ラスト、自分は思いっきり明るい方へ転がる展開を想像し、本を置いた。

 GWに(GWでなくても)オススメの一冊。

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