無人島ものというジャンルがある。
無人島に流れ着いた(意図的に向かった、捨てられた)人々が極限状態でどう振舞うかが描かれる。小説(映画)では、事件を通して人の持つ強さ・弱さ・狂気・気高さ・醜さといったさまざまな真実を暴き立てる。
文学の営みの結果、あらかたの事件が語りつくされてきたので、真実を暴き立てるリトマス紙に「凶悪犯罪(アメリカの連続ドラマがわかりやすい)」や「ファンタジー(作家でいうと東野圭吾系)」が多用されるようになってきた。無人島ものもそのひとつ。
もっともこの手法もかなり手垢が付いてきて、今後ノンフィクション、サイエンスといった領域を見直し、新たなリトマス紙を見出す動きが活発化しそう(な予感)。
さて本作の目新しさは、無人島生活を送る人々が「31人の男とひとりの女」で、みんな自分の欲望を隠さないというところだろうか。
本書の広告で「女は強いよね。男に無い武器を持ってる。」といった発言が取り上げられているビートたけしだが、彼は本書を最後まで読んでいないだろう。ことはそう単純じゃない。
確かに、ある時点までは唯一の女(40代)である清子は卑弥呼のように男社会に君臨する。が、ある事件をきっかけにその影響力を無くしてしまうのがリアルで面白い。ただ、面白いのもそこまでで、無人島でおかしくなっていく人間の狂気が、どこかで安全装置が働いているかのように制御されながら描かれているのが残念。
例えば殺人(自殺?)が2件起こるのだが、その犯人は解明されないまま物語が進んでいく。読者置いてけぼりのまま、決着のつかないエピソードが次々に積み上げられていくならそれはそれで結末が楽しみというものだ。しかし、物語は何らかの答えを出しつつ終末へと向かう。
かといって、ところどころにはさまれる人生の教訓などを期待して本書を手に取る人はいないだろうからそこも中途半端な感じは否めない。
ラストに至っては、きっちりけじめをつけてくれている。だからこそ、余計に本作がつまらなくなってしまっている。どうせなら、設定を示し、あとは読者に全部放り投げて終わってもよかったのに。
ただ、ストレスを感じさせず文章をすすめる力はさすが。
久しぶりに新刊でハードカバーを買ったが、やや高い買い物だったかも。
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