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アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
フィリップ・K・ディック,浅倉 久志
早川書房

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 「ブレードランナー」の原作ということと、一読意味不明でキャッチのようなタイトルが有名だが、会話の折に口にしても実は読んでいなかったりする代表作なのではないか(^^;

 「ブレードランナー」では、レプリカント=アンドロイドを排除する人間や寿命を延ばそうと苦悩する彼らの姿が描かれている。ブレードランナー・デッカードとレプリカントの戦いが主要なテーマとなっている。
 一方の「電気羊」では、さまざまな要素が複雑にからみあい、デッカードと彼の妻の「平和な生活」がテーマ。
 普通の人は火星移住を済ませた後の、死の灰が降る地球。残っているのは死の灰に蝕まれていたり、知能テストに落ちたりといういわば落伍者。娯楽の中心にテレビの人気番組があり、人々は精神の安定を保つために「情調オルガン」で精神をチューニングし、ボックスの取っ手を握り教祖様マーサーと融合する日常。
 ここでは動物を飼うことが、立派な屋敷や車を所有すること以上のステータスとなっていて、数少ない本物の野生生物は非常に高価だ。
 デッカードも懐にボロボロになった「動物カタログ」を忍ばせ、勤務時間中に動物店の店長と値段交渉をしたりする。

 この「動物」について濃密に語られる本文を読んだ後では、タイトルは奇異に思えるどころか、きわめて小説内容をよく反映していると感じる。
 
 バウンティハンター(賞金稼ぎ)のデッカードも、羊を飼っているがそれは「模造動物」で、それがばれやしないかとドキドキの生活を送っている。彼の望みは夫婦の幸せのために、アンドロイド狩りの賞金で本物の「馬」を飼うこと。

 ある日、デッカードに6体のネクサス6型アンドロイドを始末しろと指令が下る。彼の前任者が、そのうちの一人に重症を負わされたためにお鉢が回ってきたのだ。彼は「稼ぎ時」が来たと喜ぶ。
 デッカードは任務に赴く前に、アンドロイドを見分けるための「フォークト=カンプフ」テストが有効かどうか、まず試すように指示を受ける。そこで訪れたローゼン協会で、レイチェルと名乗る女が彼を出迎える。デッカードはそこでレイチェル相手にテストを試すことに・・・

 このあたり、「ブレードランナー」の冒頭とダブるが、映画との共通点は多くない。登場人物ではこのレイチェル、デッカード、(アンドロイドの)プリス、ロイくらいしか共通しているキャラクターはおらず、ストーリーに至ってはこの辺、模造動物のふくろうが重々しく彼を迎えてくれるくらいか。
 もちろん、映画のレプリカント、ロイがデッカードを助けるような余韻を残すエピソードはなく、本作でロイはデッカードにあっさり処分されてしまう。
 そのロイより意味深な行動で悩ませてくれるのがレイチェル。映画ではその後デッカードと長く幸せに暮らすことになっていたが、小説のレイチェルはネクサス6のプロトタイプで4年という寿命しかない。そしてデッカードが賞金を頭金にローンを組んで購入した、高価な本物の黒山羊を見事に殺してローゼン協会に戻ってゆくのだ。

 映画がマニアックなファンを多く獲得したことや、その後リドリー・スコット監督自らがカットを再編集するなど、息の長い作品となったことは、F・K・ディックの厚みのある原作に負うところが大きい。たとえプロットに反映されていなくても。
 この作品は「感情移入」というディックの好きなテーマが縦糸となり、さまざまな模様を生み出す下地を作っている。アンドロイドを識別する「フォークト=カンプフ」というテストも感情移入がベースだし、動物と模造動物、マーサー教のエピソードもそう。
 「ブレードランナー」がアクションやサスペンスを映像美で見せるこの小説の「表」の顔だとしたら、あの映画からこぼれ落ちたアイディアを集めて「裏」の映画を撮ることも可能なくらい様々なものが詰まっていて、だから映画化にあたっては相当の絞込みが必要だったのだろう。
 例えば「模造動物」と「動物」が、人間が生きていく上でどういう役割を担っているかを描くことが縦糸になり、テレビ、宗教、経済が横糸となって社会を織り上げるような作品が裏電気羊になるかと。つまらなそ~(^^;

 でも真山仁あたりが脚本を書けば意外にいけるかも(^^)


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