もう少し上手かったら、ミステリというジャンルから一気読みだっただろうし、もう少し下手だったら途中で放り出していただろう。本当に微妙な評価ライン。
女検察官、詳細でボリュームのある専門的記述、同僚との恋、と『検死官シリーズ』との共通点は多いし、作家もそこを意識している。ただひとつ、決定的な違いは、主人公C・Jが回復不能と思われる傷を心にも体にも負って登場した点にある。
で、第1部が主人公の学生時代。残念ながら自分はここでC・Jに感情移入できず、それが最後まで冷めた目で読んでしまった原因か。
なんていうか、著者がスパイスやアイロニーだと感じてちりばめている表現が、いちいち癇にさわる。例えば、C・Jの上の階に引きこもりのオヤジ(マーヴィン)が住んでいて、彼が変人なのも事実だが、読み始めてすぐの所で彼女のこういう思いが表出する。
「マーヴィンは毎朝、リビングの窓から前庭を眺める。格子縞のローブの前をはだけ、ベルトをだらりと両脇に下げて、中年男の毛むくじゃらの腹をまるだしにして。窓の下の見えない部分で何をむきだしにしているかわかったものじゃない。窓敷居ってものがあって、ほんとによかった。」24歳の女子学生にしては、言い過ぎじゃない?(^^;
この後も「笑えない下ネタ」が、「デカっていうのはこういう会話が好きなんだ」というリアリティ狙いで連発される。断っておくが、自分は下ネタだからという理由で眉をひそめる読者ではない。要はそれが面白いかどうか、だ。(『検死官シリーズ』のマリーノのネタは好きだな、よく笑ってしまう)
にもかかわらず読み進めてしまうのは、プロットの上手さだと思う。この手の話では最後の最後までどんでん返しが用意してあり、本を置くまで油断できないという進め方が一般化しているが、そう思いつつ用心して読み進めても意外な結末が待っている。
人間関係までしっかり書き込もうという作者の意図は買える。だから、人間描写の腕前を磨いてほしい。コーンウェル、横山秀夫のミステリには、深い人間洞察に基づく人生の真理がさりげなく描写されている箇所がいくつもあり、何度も繰り返し読まされた。
続編があるんだが、読むかどうかは書評を見て決めようと思う。
(なお、当ブログでは個人的に評価の高い著作のみアフィリエイトのリンクを張らせて頂くことにする)
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