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希望の国のエクソダス

文藝春秋

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 問題作、だと思う。評価は割れるだろうが、自分は「肯定」に一票を投じたい。
 物語は、パキスタンで日本人と思われる少年が地雷処理をしている、そんな報道から始まる。この少年をかっこいいと思う中学生たちが、ネットを通じて全国レベルで意思を通じ合い、数十万人単位で不登校となる。
 彼らはポンちゃんという中学生をリーダーに、ネットを通じて大人を出し抜くような活動を始める・・・。
 というような筋立てが取材記者のテツの目を通して描かれる。

 スキだらけの小説である。「こんな優秀な中学生がいるのか」「中学生の集団がこんな起業に成功したら国家権力や闇社会が見逃すはずがない」「北海道に自治地域を造るなんて無理」・・・。注文はいくらでも付くだろう。それでも、この小説を楽しむことはできる。
 あとがきによれば、著者がインターネット上の掲示板で「今すぐにでもできる教育改革の方法は?」という質問をしたのが事の発端らしい。
 著者の用意した答え「今すぐに数十万人を越える集団不登校が起こること」をめぐって侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が起こり、収拾がつかなくなったため「中学生の集団不登校」をモチーフに書かれた作品が本作ということだ。

 なぜこの小説が(受ける人には)受けるか、だが、希望に満ちているからだと思う。満ちているは言い過ぎか(^^;)。希望に兆しというものがあるとして、その兆しを感じ取れるから。そして著者の、若者に対するまなざしが優しいからだと思う。
 荒唐無稽な話を書きながら、おやっと思わせる政治・経済の情報分析をはさんでみせる手法は「半島を出よ」に通じるものがある。また、リアリティを感じさせる描写もさすが。
 例えば、冒頭のパキスタンの少年は日本メディアの取材で、「もしいやでなければ最後に何か日本語を喋ってくれないか?」と記者に頼まれ、少し笑みを浮かべながら「ナマムギ・ナマゴメ・ナマタマゴ」と言う、というシーンがあるが、これってありそうなやり取り。また、件の少年はこのエピソードから日本の中学生に「ナマムギ」というニックネームで呼ばれることになる。このあたり、言われたらそうだと思うけど、頭の中でひねり出すのはチト難しい表現をさらっとこなすのが村上流。<シャレです(^^)。

 村上龍は芥川賞でデビューした作家だが、その都度時代の問題と真正面から取り組んだ作品も多い。映画『タイタニック』を見て、CGの使いどころが腑に落ちた覚えがある(CG=SFというイメージを覆したのが『タイタニック』の評価の一つ)が、村上龍の文章力は現実の問題と正面から切り結ぶ時に、さりげなくその冴えを見せてくれる。
 『半島を出よ』の次が楽しみだ。

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