子どもたちの夢を実現するために キッズコンパス

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起業家精神を育む(3)

2014-02-12 13:59:49 | 高等教育

「幸せ」が企業の革新を促す 早稲田大学教授 東出浩教

 起業家精神と創造力の大きさは切り離せない。同時に幸福感と創造力にも密接な関係がある。

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 私が社会学や心理学の研究を基に、幸福感の好影響をまとめた図を掲げた。違いを認めあう仲間たちが顧客のために創造的に考え、行動する機会や場面を共有することが、起業家的な社風を持つ企業の特徴だ。これに近いユニークな会社が、浄水器レンタルなどを手がけるジャスト(さいたま市)である。商品での差別化は困難なのに、長く増益基調を続ける。

 ジャストは未上場だが、全従業員が株主だ。代表取締役の本多均氏は従業員がいつでも同社の株式を、純資産を基準とした株価で売買できる仕組みを導入したからだ。

 本多氏は「経営の目的は従業員を幸せにすること」と公言する。業務は経営陣と従業員が幸福を「共創」する手段だ。従業員の不満は除く。すべての従業員は株主の立場で、顧客にとっての価値とは何かを考える。

 従業員は起業家と同様に目的を持ち、自分で考えて実行すれば達成できるという意識を持つ。達成は自分の糧だと考えるのだ。ここには成功する起業家を語るうえで欠かせない経営学の「コグニティブセオリー(認知理論)」の本質がある。

 ジャストの経営情報は株主総会を通じ、主な株主である従業員に開示される。革新を促すのに有効な経営思想「オープン・ブック・マネジメント」が先取りされた好例でもある。この思想の狙いは経営指標の公開、権限委譲、成功報酬などによって従業員の自律的な行動を促し、企業活動を活性化することなのだ。


起業家精神を育む(4)

2014-02-12 13:58:57 | 高等教育

 不確実性に柔軟対応する 早稲田大学教授 東出浩教

 ドトールコーヒー名誉会長の鳥羽博道氏がいまのコーヒーショップチェーンを始める前にパリを視察し、フランスには立ってコーヒーを飲む習慣があり、立って飲むと値段が安いという事実に気がついた。これがチェーン展開のヒントになった。鳥羽氏が私の授業での講演で披露した話だ。

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 視察旅行は団体だったが、鳥羽氏だけがこの「気づき」をチャンスととらえ、事業のイメージをふくらませた。フランチャイズの仕組みを取り入れて資金負担を軽減、ビジョンを実行に移した。

 米ハーバード大学のハワード・スチーブンソンは「起業家とは起業機会を、必要な経営資源を次々に獲得しながら『もの』にしていく人だ」と定義した。一方、大企業は社内の既存資源を使い事業を進めようとする。

 表では、いくつかの点について起業家(のような社風の企業を含む)と大企業(同)の対応の違いをまとめてみた。基本となっているのはスチーブンソンの理論である。

 起業家は、必要な経営資源を借りたりもらったりする。借りる場合もなるべく対価を低くしようとする。固定費負担の上昇を避けるためだ。事業機会を素早くとらえて戦略を決め、いつでも臨機応変に適応して成功を求める。

 通常の経営学の理論に従えば利益を最大化するように投資を決定するような場面でも、起業家はある程度の収益を犠牲にしてでも固定費投資を可能な限り避ける。必要な資金だけを不可欠なときに投資し、将来の不確実性へ柔軟に対応する。こうした起業家的な行動は大企業でも有効である。


起業家精神を育む(5)

2014-02-12 13:58:01 | 高等教育

「できる理由」探しに知恵絞る 早稲田大学教授 東出浩教

 起業家の行動パターンを支える思考の基盤にあるのは「先の見えない時代で戦略的に対応する」ということだ。目の前の問題の解決でなく「未来を創る」活動こそが戦略的な起業家の知的作業だといえる。

 この知的作業の過程を明快に語るのが、1988年に株式の上場(店頭登録)を果たしたフォーバル(東京都渋谷区)の創業者で、同社会長の大久保秀夫氏だ。同社は情報通信関連サービスなどを手がけ、多くの「新しいあたりまえ」を生み出してきた。これは大久保氏によると「昨日までなかったものを今日からの常識に変えていくビジネスモデル」を指す。

 大久保氏はしばしば「結果から逆算して考える」と指摘する。さらに「できない理由でなく、できる理由を考えることが大切」と周囲に説く。

 「逆算」とは何か。まず数年後にビジネスが成熟したときをイメージする。そこから逆算して(1)競合他社が対応策をとるタイミング(2)顧客基盤拡大のスピード(3)新たな製品やサービスを市場に投入する時期(4)そのための資金が必要になる時期(5)新たな製品やサービスの原型を完成させる時期(6)そのために事業コンセプトと収益の構造を固める時期――などの重要な節目を設けることだ。

 そのうえでそれぞれの節目での目標達成を目指し、それには何をすべきかという「できる理由」探しに知恵を絞る。「できる理由」の多くは仮説なので、やってみないと検証できない。

 検証過程における多くの失敗を前提として、こうした失敗のコストを最小化し、学習効果を最大化するように行動する。これが多くの起業家に見られる態度だ。新しい何かを創り出そうとする個人や企業に求められるカルチャーともいえる。

 ビジネスの業績が予想と異なる場合は多い。そのとき、起業家や同様な考え方をするビジネスパーソンは「学び」を得たことになるのだ


起業家精神を育む(8)

2014-02-12 13:56:27 | 高等教育

「余裕」がアイデアを生む 早稲田大学教授 東出浩教

 ビジネスの新たな仕組みを生み出すことが起業家や、企業の内部で起業家気質を持つ人材の役割の一つだ。そのためには「このルールの範囲内ならば、自身で『自由に』考えて行動して構わない」という雰囲気が企業内に求められる。従業員が新しいアイデアを考えられる「余裕」を企業が持つ状態を「スラックリソースがある」と呼ぶ。

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 表で列挙したのは、私の研究室が発見した「従業員の幸福と企業の高業績につながる要素」である。「自分で判断できる自由」を生かして「能力を試し」ながら「人々の助けになる」仕事に取り組む社員は、会社の業績拡大に貢献するとともに自身も幸福を感じる。

 従業員が可能性を広げる余裕を失った極端に効率的な組織から、起業家的な成果は生まれない。

 スラックリソースの例として米化学大手3Mの「15%ルール」が有名だ。従業員は業務時間の15%までならば、会社の許可なく好きな研究に割いてよい。粘着力が極めて弱い接着剤を使った付箋「ポストイット」はこの制度から生まれた。

 米IT(情報技術)大手のグーグルは、この仕組みをさらに強め、従業員に業務時間の20%を担当の仕事以外に使うことを義務づけた。

 スラックリソースを有効活用するには以下の3点への留意が必要だ。

 まず、事業環境に応じてスラックリソースの量をコントロールする。米エンロンは従業員の過剰な自由裁量が破綻につながった。次に、企業のビジョンや戦略を経営陣と従業員と共有する。さらに、失敗から学ぶ姿勢を大事にすることだ。


(経営学はいま)起業家精神を育む(7)

2014-02-12 13:55:29 | 高等教育

 社内の意思疎通を高める 早稲田大学教授 東出浩教

 「人(従業員)の数が増えなければ業績を伸ばし続けるのは無理」。企業の経営資源を有効利用するIT(情報技術)システムなどを提供するワークスアプリケーションズ(東京都港区)を創業した同社の牧野正幸代表取締役は話す。「働きがいのある会社」の各種調査で常に上位にある。

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 同社のようなベンチャー企業は常に人が増え、規模が拡大する。成長期には創業時の文化や理念が希薄になりがちだ。解決する手段の一つが「インターナルコミュニケーション(社内の意思疎通)」の充実である。

 これまでの研究によると、社内コミュニケーションに関する従業員の満足度が高いと仕事の充実感も強まり、企業の成長につながることがわかっている。米欧には、専門の調査票で社内のコミュニケーション満足度を測り、改善策を施して業績を高める会社もある。

 図は私の研究室にいる古屋光俊氏と私が共同で日本のベンチャー・中小12社に実施した2013年の調査結果だ。矢印で示したのがワークスアプリケーションズ。満足度は「仕事」「インターナルコミュニケーション」でともに最高だった。

 同社には社内コミュニケーションを促進する専門チームがある。会社の頂点の牧野氏が社内コミュニケーションに強い意志をもって関与し、企業の成長に応じ、調整し続けてきた。管理職に経営陣の考え方を理解させるため、管理職同士が仕事の話の尽きるまで話し合うようにし向ける。牧野氏は、社員に対して「同じ話を百回しなければふに落ちなければ百回する」と語っている。