川越だより

妻と二人あちこちに出かけであった自然や人々のこと。日々の生活の中で嬉しかったこと・感じたこと。

われ「荒川起点」に到達す

2010-06-13 15:24:54 | 自然と人間(震災・津波・原発事故)
 6月11日(金)晴れ

 昼近くに秩父市(旧大滝村)落合の普寛神社に着く。

境内の入り口近くに前田夕暮の歌碑がある。
 
「山原に 人家居(ひと・いえい)して 子をなして 老いゆくみれば いのちいとほし」

 前田夕暮歌碑http://www.knet.ne.jp/~ats/t/bungaku/b6/maeda1.htm

 普寛(ふかん)というのは修験道の世界ではよく知られた行者で木曽御嶽山(きそ・おんたけさん)の王滝口登山道を切り開き、江戸を中心にして関東一円に講社を創立し、御嶽山信仰を確かなものとした人のようです。

 普寛はここ落合で生まれ、御嶽山だけでなく各地の御嶽(みたけ)の登山道を開闢したといいます。この神社の後背には秩父御嶽山があり山頂に奥社があるそうです。

 水漏れで有名になった滝沢ダムで昼食。完成して2年が経っても補修中なのか湛水には至っていません。訪れる人々にこの間の事情を知らせるのが納税者への義務だと思うのですが何の表示もありません。

 眠気におそわれたので早めに中津川の「こまどり荘」へ。


 6月12日(土)晴れ

 国道140号に出て川又から林道で「夕暮キャンプ場」へ。「夕暮」の名を冠したキャンプ場ですが前田夕暮についての説明は見あたりません。隅っこにある歌碑に気づいた人ならあるいは思い当たるかというくらいです。

  山を開き 土を平坦(なら)して建てし工場(いへ) 

  その隅にしろし 栃の太幹


 来意を告げたら管理人の黒澤照明さんがお父さんを連れてきてくれました。戦後、夕暮が生活した家がキャンプ場の後背部の崖の上にそのまま建っています。(危険なのか立ち入ることは出来ません)。キャンプ場になっているところは製材工場だったそうです。

 僕が桶川の文学館で「森は海の恋人」展が開かれ、前田夕暮の奥秩父での生活が生み出した歌が時を経て注目されているというと、そういえば近年、気仙沼から来訪された方がおられたとのことでした。

「森は海を 海は森を恋いながら 悠久よりの 愛紡(つむ)ぎゆく」

 と詠んだ宮城県気仙沼に住む歌人・熊谷龍子さんだったかもしれませんね。熊谷さんは夕暮の孫弟子に当たる方です。

 埼玉で「森は海の恋人」展が開催されるにあたり、奥秩父に夕暮の足跡をたどったのでしょうか。

 照明さんが「奥秩父の伝説と史話」(太田巌著 さきたま出版会83年刊)に奥秩父時代の夕暮が詳しく紹介されていると教えてくれ、お二人がともにここまできたからには30分くらい上流のトロッコ軌道跡を歩いて欲しいと強く勧めてくれました。

 お言葉の通り、よたよたと30分ほど歩くとトロッコの軌道跡があり、レールが延々と続いています。枕木も少し残っていました。

 崖下は荒川の源流・入川渓谷です。清冽そのものです。石清水もあちこちに見られてのどを潤してくれます。

 この辺りは東大の演習林となっているせいか、針葉樹の植林はどこにも見られず、どこまでも見事な自然林が続いています。

 この森林軌道でかなりの材木が運び出されたはずですが急な斜面に立つどの木も大きな石を抱え込んだりして森の持つ生命力を感じさせてくれます。

 僕は引き返す勇気を失ってとうとう軌道跡がなくなるところまで来てしまいました。

 赤沢出合というところです。ここからは十文字峠(武信国境)への本格的な登山道が始まります。

 二つの沢の合流点に「一級河川荒川起点」の標石があったので記念撮影。

 僕は去年の暮れ自転車で荒川河口に到達した感激を味わったばかりです。

 今、思いがけず、「荒川起点」にたどり着いたのです。

 甲武信岳に降り注いだ雨を集めて荒川はここから始まります。173kmの旅を経てあの河口へと流れゆくのです。

 すべては「さきたま史跡の博物館」で「森は海の恋人」展のビラをもらったのが始まりです。桶川の文学館で前田夕暮に出会い、いま、その人に誘われるようにして荒川源流の森にやってきたのです。

 その人の詠んだ歌には未だ深い感化を受けたとは言えません。しかし、その人の暮らした荒川の源流に誘い込まれて「森は海の恋人」という言葉を改めて思い起こしています。

 子や孫の代になって夕暮の歌が新しい意味をもってきたと言えるのかもしれません。森と川と海をつなぐ生態系の思想がその弟子たちの活躍で生み出され、人々の行動原理となり始めたのです。

 僕は荒川の下流に住む人のすべてにこのトロッコ軌道跡の道を歩くことを勧めます。森や川への感謝の思いがわいてくるかもしれません。そのような体験が新しい、生き生きした人生のきっかけになるかもしれないのです。


 入川渓谷 新緑のトンネルを抜けて荒川源流へ  http://city.chichibu.lg.jp/menu2953.html


 関連・川越だよりhttp://blog.goo.ne.jp/keisukelap/e/5a433a22a607bf8f15ea3f70a9e7a5e1http://68535631.at.webry.info/200911/article_2.html

 活躍するトロッコの写真http://www.railfan.ne.jp/chichibu/hk/irikawa/index.htm

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