川越だより

妻と二人あちこちに出かけであった自然や人々のこと。日々の生活の中で嬉しかったこと・感じたこと。

『楽園の夢破れて』

2009-05-21 11:50:54 | 韓国・北朝鮮
 次の文章は 『木苺』112号(2003年5月)に発表したものです。

  本の紹介 『楽園の夢破れて』(関貴星著)   鈴木啓介
 
 幻の書にやっと出会うことができた。ぼくは110号の小論で『左派知識人たちの思想的頽廃』について書き、それは「スターリン主義的思考の残滓、植民地支配への贖罪意識、反日民族主義などのさまざまな要素が彼らを蝕んでいるからであろう」と指摘したが、ぼくもまた、決して例外ではなかった。その証拠が『楽園の夢破れて―北朝鮮の真相』を読もうとしなかったことである。「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の手によって復刻されたこの本(発売=亜紀書房・1997年)によると、著者は当時 、朝鮮総連中央本部財政委員だった関貴星さん、発行は1962年のことだったという。いつのころだったかは、はっきりしないが学生のころにぼくはこの本の存在を知った。もしかしたら、東京教育大学新聞会にあったのかもしれない。日韓会談に反対するキャンペーンにもかかわっていたぼくは、その出版社が「全貌社」であることを理由に読まなかった。反共を看板とする右翼系の品のない出版社だととらえていたからだと思う。それから40年ぶりに、はじめて目を通して、故人となった著者の勇気に深い敬意を感じるとともに、自分自身の不甲斐なさにあらためて思いをめぐらせることになった。
 本の内容は読者が直接手にとって確認していただきたいが、近年、脱北帰国者の手記によって明らかにされている北朝鮮帰国運動と帰国者の実態が、1961年の時点ですでに完璧に暴露されていることに驚きさえ感じる。著者は日本国籍をもっていたため同胞に先駆けて、1960年8月、日朝協会の使節団の一員として、約1ヶ月北朝鮮を訪問した。このときの衝撃をいかんともすることができずやがて生まれたのが本書だが、その「あとがき」にこうある。
 ……欺瞞、北朝鮮の実態、虚偽朝総連の実情を本書にえぐり尽くすことは、到底私の筆の及ぶところではないが、私は、私の後半生をかけ、怒りをこめてこの欺瞞と虚偽をあばきつづけるだろう。それが、せめても帰国者に対する私の償いであり、在日朝鮮同胞に対するはなむけであると信ずるからである。……
 帰国運動がまっ盛りのときである。同胞に真実を伝えようとする関さんに対する総連の対応は……。関さんは娘さん(呉文子さん)とその夫(李進熙さん)や孫たちと義絶して出版の道を選んだという。
 ……私は両瞼をとじて、じっと耐えた。その網膜にはあの北朝鮮で虐げられた生活をしている数百万の同胞が写っては消えた。あの人たちは、いま、必死になって光への窓口をもとめているのだ。私がこの役割を果たさずして、誰がこの役割を果たそうとするのか。私は私情に負けてはいけない。人間の絆のとりこになってはいけない。親子、骨肉の情に溺れてはいけないのだ!……
 ぼくはまだ20歳をすぎたばかりだとはいえ一応は「学生新聞記者」であった。手にとって読むことさえしようとしなかった自分を思い返すと若気の至りではすまない気がする。「イデオロギー」や「思想」や「宗教」やでとらわれてしまっていることの怖ろしさを思う。岩波の本であったら読んでいたにちがいない。この国で、左派がなぜ信用されなくなったかをしっかりと考えさせてくれる。この事態は40年たってもあまりかわっていないことをこの半年ぼくは悲しいほど感じている。不甲斐ない自分と対決し、独裁とそれに加担するものたちに立ち向かっていく勇気をふるいおこしてくれる本である。

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2 コメント

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Unknown (田中)
2009-05-21 15:54:53
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4.28 パール判事の日本無罪論購入イベント2
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非常に有名な本です。

右寄りの方は「基礎知識」として、
左寄りの方は「敵を知る」ために、
ぜひ御一読ください。
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蓮池透『拉致』のご紹介 (h.matsumoto)
2009-05-21 17:22:25
かもがわ出版からこの5月10日付で出た上記書籍は、細部に異論もありますが、全体としてはよく考え抜かれた一読に値する本であると思いました。1時間で読めますので、ぜひご一読をお奨めします。
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