唯物論者

唯物論の再構築

時間的原子論

2011-07-31 20:17:09 | 各論

 瞬間は、存在する時間において存在し、存在しない時間において存在しない。
 空間の無い状態で物体が存在し得ないように、時間の無い状態で瞬間が存在し得ないのは、当たり前の話である。この当たり前を強調するのは、プラトンの瞬間論を念頭にしている。

 瞬間が時間の中にあると考える場合、それは直前の継起Aと直後の継起Cの間に、瞬間Bとして存在する必要がある。具体的には、過去Aと未来Cの間に現在Bが存在すべきである。しかし時間的継起の中に過去Aと現在Bを立てると、今度は両者の間に過去なのか現在なのか不明な瞬間がありそうである。ただし現在はあくまでも現在Bなので、その正体不明な瞬間も、過去のはずである。しかし継起Aを直前と扱った以上、直前の後に真の直前が登場するのは、理屈に合わない。したがって過去Aと現在Bの間に新たな時間的継起が入り込む隙間を作ってはならない。結果的に現在Bとは、すなわち過去Aとなる。全く同じ理屈で、現在Bとは、すなわち未来Cとなる。となれば、過去Aとは、すなわち未来Cとなる。
 過去が未来と等しいという結論は、現在が過去と等しいとか、現在が未来と等しいとかいう少し前の結論を超えて、はるかに不合理である。そこで、実は瞬間が存在しないのではないか、という考えが生まれてくる。プラトンによれば、瞬間は時間の外にある。つまり瞬間は、継起において時間的な居場所を持たない。瞬間が時間の中に居場所を持たないのであれば、瞬間に残された居場所は意識の中だけである。それは、瞬間を意識の創作物として扱うものである。ただし過去も未来も瞬間の集合として現われるので、この理屈で考えると時間全体が意識の創作物になりそうである。ところが時間は単なる幻想ではない。したがってプラトンの考えとは逆に、瞬間を時間の中に存在させるべきとなる。しかしそれだけでは、話が振り出しに戻ってしまう。

 プラトンに倣えば、継起Aと継起Cの間に、瞬間Bが存在しない。この理屈で存在するのは過去と未来だけである。現在つまり瞬間は存在しないとみなされる。言い直すとそれは、継起Aと継起Cの間に完全な時間的断絶がある、と宣言する理屈である。つまりプラトンの瞬間論は、時間的原子論である。ここでいう時間的原子とは、継起Aや継起Cを指す。延長において原子論を拒否したプラトンは、継起において原子論者だったのである。しかし一方でもともと継起Aも継起Cも、瞬間だったはずである。そうなると継起Aと継起Cは、瞬間Aや瞬間Cであった限りで、やはり瞬間は存在すべきである。その上で瞬間Bは存在しないと考えるべきとなる。このことを整理すると、存在する瞬間Aにおいて瞬間は存在し、存在しない瞬間Bにおいて瞬間は存在しないこととなる。つまり冒頭の文章に繋がっている。またこの解釈でのみ、プラトンの瞬間論は冒頭の文章の後半分だけの妥当性を得る。ただし後半分の妥当性を差し引いても、プラトンの瞬間論は間違いである。もともと意識は時間の中でのみ存在し、瞬間の中でのみ現存在する。現在Bが時間的実在を得るためには、過去Aと異なる瞬間として現在Bが存在するだけで良い。これにより瞬間は、時間の中に存在可能となる。プラトンは、瞬間が成立しないタイミングをわざわざ選ぶことにより、つまり意識を時間の外側に立てることにより、瞬間の時間的実在性を拒否しただけである。実際には意識は常に時間の内側にいるので、瞬間の時間的実在性も常に成立する。したがって体感どおりに、現在は実在する。そして正しい形の時間的原子論において、瞬間は時間の中にある。

 もともとプラトンの瞬間論は、ゼノンの「飛ぶ矢は止まる」というパラドックスへの回答である。瞬間が実在しなければ、飛ぶ矢は止まるべき時間的な居場所を失う。飛ぶ矢は止まろうにも止まれなくなる。見事な回答である。しかしこの回答のために、今度は瞬間の居場所までもが失われてしまった。一方で筆者は上記で、瞬間は実在し、時間の中にその居場所をもつという結論を提示した。このような形でプラトンの瞬間論を否定するのは、飛ぶ矢を再び止めそうである。ただしこれについての筆者の回答は、原子論2の記事(時空の最小単位)の中に書いている。筆者の見解でもやはり、飛ぶ矢は止まらない。最小単位とは分割不可能を意味する。そのような最小時間での矢の移動距離も、矢自身にとって分割不可能な距離として現われる。結果的に大きさ(スカラー)が違うだけで、大きい時間においても最小単位時間においても、矢の速度(ベクトル)は同じになる。それは最小単位の時間、つまり瞬間においても矢が止まらないのを示す。
(2011/07/31)

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             ・・・ 原子論2 時空の最小単位

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