泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

ぼくは満員電車で原爆を浴びた

2023-08-05 16:08:41 | 読書
 今日はもう一冊。
 明日の8月6日は、78回目の広島原爆の日。
 当時11歳だった一人の少年が、原爆の爆破地点から1キロ以内にいたにも関わらず生き残りました。
 その人は米澤鐡志(てつし)さん。自身の体験を語り伝えてきました。
 その少年は路面電車に乗っていました。疎開先からお母さんとともに、広島の祖父母のところへ足りないものを取りに行くために。
 その日は月曜日で、仕事に行く人などで朝の路面電車は超満員だった。
 その真ん中付近で、彼は人々に埋もれていた。
 そのことが、彼を救うことになった。
 ピカッと光った後の静寂。静寂の後の地獄。
 35度でひいひい言っているのに、地面は3000度以上になったという。
 原爆は100万度。78年前、現実にあったことだけど、信じられない。
 信じたくもない。と思うから、歴史は歪曲されてきたのかもしれません。
 少年の語りは続きます。
 肌が熱で溶けて垂れてしまった人たち。防火水槽に頭から突っ込んで息絶えてしまった人たち。
 ガラス片が刺さっているのも気づかないで歩いている人たち。いつも遊んでいた川で流れていく人たち。
 目玉が飛び出してしまって、顔に二つの深い穴をさらしている人。
 ともに逃げたお母さんも、高熱に苦しめられ、苦しさのあまり「もう殺して」とまで言わさせて、亡くなってしまった。
 彼は助かった。語り続けることが使命になった。
「どんなにつらい記憶でも、知らないよりは知ったほうがいいと私は思います。
 本書は読むのも苦しい内容ですが、きっと未来のための知恵を与えてくれるでしょう」
 本当にその通りだと思う。過ちは学ぶためにあります。上の文章を寄せたのは、原子力の専門家である小出裕章氏。
 知っていればこそ、新しい回答も導くことができる。
 核は使えない。人が制御できるものではない。そう知った上での「次の一手」はなんなのか。
 アメリカとロシアだけで、核兵器が1万発あると言われています。
 英国(225)、フランス(290)、中国(410)、インド(164)、パキスタン(170)、イスラエル(90)、北朝鮮(30)。(「ひろしまレポート」より)
 上の数字は2023年1月時点での核兵器の数。英国、フランス、イスラエルは増減なしですが、中国、インド、パキスタン、北朝鮮ともに増えています。
 一体何を争っているのでしょうか?
 78年も経てば、核兵器の威力も増しているのではないでしょうか。それが10,000以上とは。
 人権を守り、一人一人の平和をこつこつ作っていくことよりも、恐怖で人を操る方が簡単ということでしょうか。
 人は変わらないのでしょうか?
 いや、学ぶことができるのが人のはず。
 恐怖を解くことができるのも「語り」の持っている力の一つ。
 語り続けることですね。希望を失わず。
 米澤さんが語り続けてきたからこそ、児童書の担当を経て、私にまでこの本は届きました。
 そして私も、未知の読者にこの本を届けます。

 米澤鐵志 語り/由井りょう子 文/小学館/2013

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 伝奇集 | トップ | 君たちはどう生きるか »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事